私はカブ改リトルカブ(絵里所有)
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切関係ありません。
私はスーパーカブ。山奥の田舎町で売られたバイクだ。
ごく普通に乗られ、ごく普通に走り続けていたと思う。
最初の持ち主が歳をとり、家族の勧めで免許を返納した後、
私は中古車として第二の道を歩み始めるはずだった。
私はこの街のバイク店の店主が好きだった。口数は多くないが
何処かが悪くなってもすぐに探り当てて修理してくれるバイクのドクター。
そんな彼とのお別れはあっけないものだった。
「うぅ・・・む・・・」
店主は最後まで寡黙だった。作業場で胸を押さえて倒れた店主は
救急車で運ばれて二度と戻ってくる事は無かった。
私は分解されたまま放置された。
店のシャッターは閉められ、私は眠りに就いた。薄暗い作業場。
店主の孫が来て何やら整理はしているが、専門的な知識は無いのだろう。
私の部品はダンボ-ル箱に放り込まれてしまった。
久しぶりに店の明かりが点いたと思ったら何やらカメラで撮っている。
「何だかわからないなぁ。運ぶのも手間だし取りに来てくれないと」
再び明かりは消され、私は眠りに就いた。
「私たちはどうなるのかしら」
「バラバラにされるのかな」
郵便カブたちは心配そうに話しているけど、あんた達はすぐ動けるじゃないか。
「私なんかバラバラ。部品取りになるのかなぁ」
お爺さんがしっかりメンテナンスしようと分解したのが仇になった。
今の状態だと組み直すより分解した方が早いんだよね。
シャッターが閉められてからしばらく経ったある日。
「祖父の店を処分するんです」
「ほぅ。お爺さんのお店ですか」
シャッターが開けられて、見かけない男たちが店を訪れた。
「工具とか必要なものが在ったら持って行ってもらえると助かります」
「じゃあ、積めるだけですけど」
私たちは店に在った部品と共にトラックへ積まれていった。
トラックは数時間走り続け、小さなバイク店に停まった。
郵政カブやミニバイクと共に荷台から降ろされて倉庫に納められた。
翌日、郵政カブの1台が倉庫から出されていった。
「さて、陸送代を払わんとな・・・」
どうやら引き取り手が決まったらしい。郵政カブは隠れた人気車種。
お祖父さんの元にも売ってくれとくる者は居たけど
「町がにぎやかだった頃が懐かしいから置いてるんだ」と
売ろうとしなかった。
数日後、私も倉庫から引っ張り出された。
工場には郵政カブの部品が置いてある。
そしてボロボロになったリトルカブ。
「あなたも修理されるの?」
話しかけるが返事が無い。書類無し車の様だ。
「汚いですぅ。」
「おっちゃん。何でこんなボロなん?」
女の子二人が困った顔でリトルカブを見ている。
「これは書類が無いから登録出来ん。これの部品を磨いて
あっちにあるカブに付ける。あれも部品取りやけど、書類は有る。」
女の子が私を見た。
「バラバラやん」
「骨だけですぅ」
酷い言われ様だ。
リトルカブから私に部品を移して2個1修理をするわけか。
随分手間な事をするなぁ。
「どこかで妥協は必要。出来るだけ要望に応えるから」
「予算内でみんなと学校に通えるバイクにしてください」
「OK。やってみよう。」
「あと、荷物を積めるようにお願いします」
「荷台にボックスを積もうか?」
「カバンが入る様にしてください~」
それから数日間。店主はリトルカブの部品を分解しては磨き、
色が禿げた部品は缶スプレーで塗り、色あせた部品は磨いて組み付けた。
私は少しだけ小さくなって再び道走り出す事になった、
車体は小さくなったけど、逆にエンジンは大きくなった。
「行ってきま~す」
ボックスにカバンが放り込まれ、女の子が私のキーを回す。
キュルン・・トントントントン・・カチャコン・・ポロポロポロ・・・
黄色い車体に黄色いナンバーで私は再び走り出す。
私はスーパーカブ改リトルカブ70。姿を変えて今日も走る。




