私はDax(大村聖帝)
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切関係が有りません。
私はDax。ホンダのレジャーバイク。
モンキーやゴリラより車体が大きく安定して走る事が出来る。
そんな私は・・・暴走族に人気だった。
私は再生産の12Vだからカブと同じ3速遠心クラッチだけれど
昔に生産された仲間は遠心4速や70クラッチ付きが居たそうな。
暴走族仕様にされて大事にされず、放置されるもの、解体屋に
持ち込まれるもの。車体は潰されてエンジンは引き取られ
カブやモンキーの部品取りにされた。
私はカブもモンキーも嫌いだ。あいつらは私達の部品で速くなる。
気に入らない。私達を踏み台にしやがって。
再販された私もショップによって暴走族仕様にされた。
流れ流れてツーリングのメッカ・琵琶湖の在る街へ来た。
今度こそ真っ当なバイクになれると思った。
ところが現実は甘くなかった。
外観で整備を断られる。「オークションで買ったバイクはちょっと・・・」
「今都には引取り対応していない」とにかく整備を断られた。
私を買ったガキによるボアアップ。
ホームセンターで買ってきたステンレスのボルト・ナット。
エーモンのステーで無理矢理つけたマフラー
燃調の在っていないキャブレター。無茶なスプロケット変更。
全ての改悪が私を苦しめる。
金が無い学生ならまだマシだ。ところがこのクソガキは金を持っている。
ジャンジャン部品を交換していく。
そして周りのバイクを煽り出す。
気がつけば私と一緒に走っていたバイク達は居なくなっていた。
ある日、クソガキは小さな女の子が乗るゴリラに喧嘩を売った。
「調子が悪いのに無理しない方が良いよ。」
余裕をかましてゴリラは話しかけてくる。
舐めやがって。ゴリラなんか嫌いだ。睨みつけてやる。
「じゃあ、この信号から安曇河の子供の国の信号まで」
「おっ始ぱじめようぜっ!」
信号が赤から青へ・・・スタート。
1速は両車ほぼ互角。2速で私がリード。
少し早くゴリラが3速へシフト。加速してリードする。
私も3速で走るが少しもたついている。
ここから追い込みで私の勝ち・・・
そう思った時、私はマフラーから白煙を吐いた。
エンジンが壊れたのだ。コンロッドが飛び出している。
焼き付きからの足出し。潤滑不足だ。
ガラガラと音を立てて動けなくなった。オイルが流れ出している。
「くそ~調子さえ良ければお前なんか楽勝で・・」
クソガキは何か言ってるけれど、調子も何もない。
お前の腕が悪いだけだ。糞野郎め。
「もう良いええやろ?かまわんといてな」
クソガキめ。こんな小さな女の子に負けやがって。
ゴリラは涼しい顔でアイドリングをしている。
本気で走った後に|アイドリング(息)1つ乱れていない。
こいつは本物だ。ガキが適当に組んだ私と違う。
「すいません。帰って良いですか?」
この子が乗るモンキーも同じようにアイドリングしている。
恐らく同じ職人が組んだエンジンだろう。オーバーヒートの兆候すらない。
羨ましい。憎たらしい。同じメーカーなのにどうしてここまで違う。
最後まで一緒に居てくれたカブも私から去って行った。
私は動けない。新しいエンジンが必要だ。
贅沢は言わない。キチンと組んでくれたエンジンならそれでいい。
数日後、新しいエンジンが来た。
150㏄のコンプリートエンジン。レーシングキャブレターと太いマフラー。
そうか・・・キチンと組まれたエンジンを買ったか。
新しいエンジンが載った私は考えが変わった。
今まで何を考えていたのかしら・・・
セットなんかパワーで解決できる。排気量こそ正義。パワーの源。
職人技?ミッション?関係ないね。
2度目の対決。ゴリラは涼しそうにアイドリングしている。
余裕をかましやがって。今度こそ負かしてやる。
負けないぞ!今度こそ勝ってやる。お前なんか嫌いだ!
私は威嚇するけどゴリラには伝わらない。
「可哀そうに・・・言葉を紡ぐことも出来なくなったのね・・・」
何を言ってるんだ・・・?
爆音を轟かせて加速する私に対し
ポポポポポッと軽い排気音を出しながら加速するゴリラ。
音の差の割に加速はそれほど変わらない。
「あの女の子、速いよな?」
「大村のDAX・・・音の割に・・・?」
勝負はこれからだ。信号の少ない国道161号線。最高速が速い者が勝つ。
だが、その数少ない信号に引っかかった。
イライラする。信号無視して走れるほど交通量は少なくない。
信号が変わりスタートと思った瞬間にゴリラに抜かれた。
ふざけるな。追い抜いてやる。こちらは150㏄。お前の倍の排気量だ。
キャブのセットはイマイチで黒煙は吐くが気にしない。
あっさり追い抜けた。あんた70㎞も出てないよね。
よく勝負を引き受けたなぁ。アンタの御主人は愚か者だよ・・・
スロットルを開けろ!もっとスピードを!パワーを!
だんだん麻痺していく。痺れる様な快感・・・
そう思った時。
「何人たりとも逃がさないっ!」
白バイが現われた・・・。
その後、クソガキは免許を取り消され、学校を辞めた。
「大丈夫よ。免許が無ければ無しのままバイクに乗れば良いのよ
そうだ。学校も辞めたんだから大きなバイクを買ってあげるね。」
「エ~ン!ママ~!」
「よ~し。来月のレンタルバス代は聖帝ちゃんのバイク代にしよう」
親子共々馬鹿である・・・。
何やかんやで私は安曇河の自転車屋に売り飛ばされた。
「おい!チャリンコ屋!買い取れ!」
「5000円でも要りませんわ」
「お前等安曇河の貧乏(自主規制音)が断るとは何事だ!我ら栄光の今都市民に
何て口をききやがる。この(自主規制音)の(放送禁止用語)で(差別用語)
な(下品な言葉)は(聞くに耐えない言葉)で(自主規制音)だ!」
「じゃあ2000円。1000円でもええよ」
時間が経てば経つほど買取値段が下がる。
最終的に私は200円で買い取られてしまった。
私の価値が200円・・・屈辱だ。
「ゴテゴテと訳の解らん改造やな。直す気にならん」
バラバラにされた私はオークションで売り飛ばされた。
「可哀そうに・・・」
梱包材の向こうから憐れむ声が聞こえるが、そんな事は無い。
ここに居るより別の街でやり直す方が良い。
直してもらえるなら・・・ツーリングに出かけたいなぁ。
私はDax。この街を去る。今度こそ大事にされる事を願って。
本編と合わせて読んでいただけますと楽しめます。




