私はスーパーカブ70カスタム(轟美紀所有)
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
私はスーパーカブ70カスタム。俗に言う角目カブだ。
新車で轟家に買われ、お爺さんの足として働いた。
まあアレだ。私は年寄り向けのバイクだね。セル付きだし。
セルが付いてるとお年寄りが喜ぶんだ。足が弱くてキックできないから。
今の若い子には丸ライトの方がモテる。セル付き丸ライトの
リトルカブなんか可愛がられてるよね。
私は人気が無い。ライトが四角いだけなのに。セルが有ってスピードも出せるのに。
お坊さんが乗ることも多いね。袈裟が邪魔でキックで出来ないんだって。
何で坊さんの事を知ってるかって?乗ってた爺さんが亡くなったから。
葬式に来た角目カブに坊さんが乗ってたんだ。
・・・とまぁ、最初の御主人はあっけなく亡くなって、売られると思ったら
今度は亡くなった爺さんの連れ合いが私に乗った。
「お爺さんと一緒に居る気分になる。」だってさ。
驚いたよ。婆ちゃんが自動二輪免許を持ってるとは思わなかった。
爺ちゃんが生きてた頃は後に乗ってたから免許は無いと思ってた。
婆ちゃんは1速しか使わなかった。テコテコと畑の見回り。
リヤカーを引っ張った事も有ったね。
婆ちゃんは、いつも発進する時に「はい、お爺さん行きますよ~」って言ってた。
私はお爺さんの代わりだったんだね。
畑に行くと泥だらけになったけど、婆ちゃんは掃除してくれた。
大事にしてくれていたと思う。
元気な婆ちゃんだったけど、ポックリと逝ってしまった。
「風邪かいなぁ?」とケホケホと咳をしていた数日後、
息を引き取ったそうだ。
老夫婦が亡くなって、誰も乗らなくなった私は用無し。
海外に売り飛ばされるのか、それとも別の街で走るのか。
納屋で一緒に居たトラクターや農機は次々と出て行った。
でも私は
「爺さんと婆さんの形見でもあるし、そのうち美紀が
通学で乗るやろう。場所もあるし置いとけ」
そんな理由で納屋に居る事になった。
私はナンバーを外されて眠りに就いた。
それからどれくらい経ったのだろう。婆ちゃんの孫娘が免許を取った。
「婆さんが乗っていたアレが有るやろ?直して乗れ」
「え?あれ、動くん?」
久しぶりに納屋から出た私は、ボロ布が掛けてあったが埃だらけ。
でも、屋内保管よ。錆びては無い。まだまだ走ることは出来るんだから。
・・・ちょっと修理は必要だけど。
「汚いなぁ」
ぶつくさ言いながら孫娘は私を洗った。
ホースで水をかけながらブラシで・・・布の方が良いなぁ。
納屋保管とは言え、タイヤはひび割れてボロボロ。
空気を入れると押して動かすくらいは出来るようになった。
「動くのかなぁ?」
いくら私でもそれは無理。こんなタイヤじゃ走れないでしょ?
キーを捻っても全くランプは点かない。
当たり前じゃない。何年も動いて無いんだから。
「とりあえず理恵の言ってた店に持って行こか」
私は街の自転車屋へ運ばれた。
「これは、すぐには直らんねぇ」
そりゃそうだ。長年のブランクがある。いきなり動けないよ。
「どの位かかります?別のバイクを買う方が良いですか?」
直して!買い換えなんて言わないで!まだ走れる!
「急ぐなら4万円くらい欲しいけど、待ってくれるなら3万5千円。
その代わり1週間欲しいかな?」
まぁ、そんなもんだろう。
長年放置されていた私。再び走り出すには少し時間がかかった。
「燃料系は清掃だねぇ」
ムズムズするキャブレターは外されて洗浄・分解整備。
「タイヤ・バッテリーは交換。」
これは劣化しているので仕方ない。婆ちゃんが乗っていた頃から
微妙に弱ってたから。
「キックペダル・チェンジペダル・ジェネレーターのOリング」
漏れてはいないけど、ちょっと怪しかったかな?
「タペット調整ついでにキャップのOリングも交換っと」
私は店が暇な時や閉店後の空いた時間に少しずつ修理されていく。
幸い、致命傷になる故障は無かったらしい。
プラグホールからオイルスプレーを吹いて空キック。
オイルポンプがエンジン内へオイルを巡らせる。
ガソリンを入れてキーをON。セルを回すけどかからない。
「まぁ、最初からセルは無いな。先ずはキックか。」
数回キックで私のエンジンは再び動くようになった。
「よし。これでOK。」
私は再び走り出す事になった。
孫娘はあまりバイクに興味は無いようだ。淡々と走り学校へ通う。
婆ちゃんの時と違って3速まで使って走るのは新鮮だけどね。
「いいな~。私もセル欲し~い」
「イイでしょ。理恵のには付いて無いの?」
私はスーパーカブ70カスタム。轟家のバイク。
爺ちゃんと婆ちゃんに変わり、孫娘の面倒を見る。




