私はZ50J(白藤理恵の愛車)
昔見た海外ドラマのDVDを観ていた。喋る車が活躍するドラマだ。
バイクも喋ってくれたら修理が楽なのに・・・。
そんな事を思いながら画面を見ていると眠くなってきた。
俺の整備したバイクは何を思っているのかな・・・
「もっとしっかり直せ」「よくやった」何か言ってくれたら面白いのに・・・
私はZ50J。ホンダのバイク。
名前?モンキーだったかな?ゴリラだったかな?忘れちゃった。
最初はね、モンキーだったと思うんだ。
最初のご主人様は私に少し乗って放りっ放しにしたの。
2人目はね、すごく私の事を可愛がってくれたんだ~。
ピカピカのホイールやアルミのスイングアーム。ライトも
シートも何もかも交換交換交換…。
元の部品はフレームくらいになっちゃった。
でも、かまってもらえて嬉しかったの。
仲間もいっぱい居たし、ピカピカの中に居るだけで愛されてるって
思ったの。鏡を見ると「私、変わっちゃったな~」って思ったけど
それでいいの。だって、愛されてたんだもの。
色々な所に行ったな~。山・海・イベント…
気が付けば生まれて約20年。すっかりベテラン選手になってた。
今まで走り続けていたし、これからもご主人と走り続ける…
そう思っていたの。
いつだったかな?大っきな箱が届いたの。エンジンだった。
駄目…こんなエンジン入らない…当たっちゃう!
案の定フロントタイヤにヘッドが当った…もう!強引なんだから!
暫くバラバラのままでいたけど、また大きな箱が届いたの!
…新しいフレームだった…
寸詰りでちんちくりんな私と違った…すらりと伸びたメインフレーム
キラリと光るダウンチューブ…素敵だった。
私は全てを剥ぎ取られて骨だけになっちゃった。
私の部品を奪ったフレームがご主人様とお出かけする。
私はガレージで埃をかぶってご主人様を見てた。悲しかった。
「私の体を返して!もう一度走りたい!」叫んでも無駄だった。
暫くしてご主人様が言ったの
「オクで売っちゃうか!ジャンクでいいか。」
信じられなかった。ああ…捨てられる。
ご主人様がバックステップを付けるのにブレーキシャフトを斬られた私は
『ジャンク・訳あり・書類有り』として売られた。
落札価格は5000円…あんまりじゃない。私の価値は5000円?
プチプチと段ボールに包まれてた私は眠りに就いた。
もうどうにでもなれ…煮るなり焼くなり好きにして…
出来ればもう一度走りたい。速くなくていいから。坂道でも頑張るから。
ブレーキの音で目が覚めた。どうやら新しいご主人様のもとに着いたらしい。
いい人だと良いな。もう一度走りたいな…
新しいご主人はバイク屋さんらしい。
私を見て「ああ、やっぱりな。」なにがやっぱりなの?
手元に見えるのは…グラインダー?
ああ…とうとう分解される…スクラップ?…何故私を買った…エンジン整備台にするの?
グラインダーが唸りを上げて私を削る。
旋盤が唸っている。意識が遠のく。私…どうなるんだろう…
フレームが熱い。
気が付くと溶接台の上に居た。新しいブレーキシャフトが溶接されて
私は元の姿に戻った…直すの?おじさん、私を直してくれるの?
喜んでいるとドボンと湯に浸けられた。
ギャー!錆びる~何がしたいのよアンタは~
煮るなり焼くなりしろって言ったけど本当に煮るのか~!
お湯につかっている私から塗装が剥がれていく…
錆が消えていく…ああ、錆取りか…修理してくれるんだ。
数日後、私は棚や作業台が集まる窯の中に居た。
粉を振りかけられて窯で焼かれる。私ってバイクだよね?
横には同じように粉をまぶされたフロントフォークとスイングアームが見える。
暑い。身が溶ける様だ…ふと見ると振り掛けられた粉が溶けている。
窯から取り出された私は艶やかな赤に生まれ変わっていた。
真っ赤に塗られた私は少し若作りかな?本来は黒の年式だからね。
「NSXのイメージで塗ってみたわ」
ありがとう!NSXが何か解らないけどバイクかな?NSRの親戚?速そうだね。
おじさんは鼻歌交じりで私を組み立てていった。
『新車外し』の部品を私に組んでいく。中古だけど新品みたいだ。
私はおじさんが仕事する合間に組み立てられている。
季節は秋から冬…そして春が来た。あとはエンジン周りが決まれば完成。
「何を積もうかな?」とおじさんはエンジンが並んだ棚を見ている。
「おっちゃ~ん!バイク見せて~!」子供が店に飛び込んでくる。
「お?免許取れたんか?」
「足が着かんから必死!クラッチなんかもうイヤ!カブが良い!」
子どもと思ったら小柄なだけか。元気な娘だね。
おじさんがカブを引っ張り出して子供に跨らせる。
「わ、わ、わ…っ!」
カブは言わんこっちゃないとでも言いたげな表情だ。
「ほら見てみい。カブでも足が着かへんやんか。何でカブや?」
「でも、クラッチ無しで161号線走れるバイクが欲しいし…」
「お前が乗れるのはモンキーかゴリラくらいやな」
やりとりを眺めていたら、お嬢ちゃんと目が合った。
うん。バイクに目が無いのは分かってる。でも、そんな気がした。
「おっちゃん。良い物があるやん」
「そ…それはおっちゃんが趣味で乗ろうと」
「私、この子気に入った。この子は走りたがっとる」
うん。私、また走りたい。お嬢ちゃん、私の気持ちが解るの?
「……」
「な~おっちゃん~。大事にするし売ってぇな~」
「……条件を聞こう」
「クラッチ無しで国道161号線で流れに乗れるモンキー!」
「通学に使うならゴリラにしなさい。シートが厚くて乗り心地が良い」
「でも、モンキーの方が足が着きやすいと思うんやけど」
「大きなるかもしれんやろ?」
そんなやり取りの数日後、私はお嬢ちゃんが通学に使うバイクとなった。
私はZ50J。ホンダのバイク。
モンキーかゴリラかは忘れた。ホンダが50年間作ったうちの1台。
『大島サイクル営業中』のスピンオフ的なお話です。
1話の1~2か月前の話です。白藤理恵とゴリラとの出会いをバイク目線で書いてみました。
あなたのバイクも何か言っているかもしれませんよ?
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切関係ありません。