八話「間違っても小物ではない」
「さて、どうでる?」
僕はどこか楽しみだった。
彼のことだ、他の出入り口を調べていただろう。それをすべて塞いでやった。
僕の直属の将まで回して、鼠一匹逃さないようにしてやった。
とはいえ、あまり追い詰めすぎると窮鼠猫を噛むという。
僕はあえて正門の守りを弱くした。その目的は二つある。
一つはギン隊を外に逃がすこと。もう一つは彼をそこへ誘導すること。
二つの問題児が外に出て争ってくれればこちらに問題は起こらない。それに、隙を見て僕の魔法弓で両方一気に屠れる可能性もある。
「ククク…」
先程から笑いを抑えられない。
ドン。
急に扉が開いたものだから、僕は先程味わっていた愉悦を抑え込んだ。同時に怒りがこみ上げる。
「バカが、扉はノックして入れとあれほどっ」
入ってきたのは、驚いたことに若い兵ではなく、俺の直属部隊の熟練ドワーフ兵だった。彼は息を切らして、ここへ入ってきたのだ。
「失礼しました。ゼオン様、緊急事態です。裏門付近で放火が多数に…」
チッ。こんなときに余計なことを…。僕の計画が無駄に…、多数?
「おい、どうして放火だと分かった?」
「はっ、魔法が至る所で確認できたものですから」
魔法と言うことは彼の仕業で間違いない。彼は僕の罠に気づいたというわけか。
いや、だからどうしたというのだ。こんな分かりきった罠だと策とは言えんぞ。
「それはおそらく見せかけだ。気にせず火事の消火に全力を注げ」
奴らは裏門の兵を分散することを目的に見せかけているだけだ。こうすることで正門の兵を動かすとでも思ったのだろう。
「了解しました」
熟練兵は浮き出しだった足で出ていこうとする。
まぁ、このようなことがあったのだ、慌てる気持ちも分からないこともないがな。
「浮足立つな。心配しなくても、僕の読み通りだ」
熟練兵は振り返って
「さすがです」
そう言い終えて、走って出ていこうとしたところ、飾ってあった僕の獲物の弓をひっかけて落とした。
「おいお前、なにしている」
「し、失礼しました」
熟練兵は慌てて弓をもとの位置に戻して出ていく。
「まったく」
僕は鼻を鳴らして、再び愉悦に浸る。
足掻け、足掻けよ、フィルド・レムアロー。