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八神(ヤガミ)ノ奇跡  作者: バンナ
第一章「記憶喪失」
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五話「ようやく合流」

「フィルド」


「ん?」


 俺はヴェートのほうを向く。


「嫌な気配がします。ギンがこの中にいます」


「っ」


 声を失った。

 ギンはフーティマ王国の暗殺部隊の隊長だ。


 エルフ族はどうしてだかカルナを暗殺しようとしている。そのせいで、リディ隊が暗殺部隊の別動隊と交戦したという報告もあった。その暗殺部隊の隊長がここにいるということは、主力がここにいるということだ。

 気が抜けない。


「ヴェート。ギンのほかの気配は分かるか?」


 俺は尋ねる。


「わかりません。ギンの気配だけ分かるので」


 強いもの同士分かるというものなのか。

 だけど、ギンがいるということが分かっただけでも良かった。いや、最悪な状況だけどね。


「それにしても、東和国は何してるのか」


 ギン隊をみすみす中に入れるなんて愚かにもほどがある。まぁ、入れてもらえなければ俺たちも困るんけど。


「ギンのことですから、隊員のフェルパーを盾に潜り込んだかもしれません。どうしますか?」


 これはおそらく、外にも主力を置いているかもしれない。城門から逃げる方法は避けたほうがよいだろう。どうにか別の出口を探すしかないか。


「ヴェートは他の逃げ道確保しておいてくれ。俺はカルナを探す」


「む…。私がいなくて大丈夫でしょうか。ギンと鉢合わせたら厳しいのでは?」


 今、ムって言わなかったか?

 まぁいいか。


「ここには東和国軍もいるから大丈夫だ。ゼオンなら市内で起こる戦闘行為は絶対許さないだろうから」


 ヴェートは不機嫌そうに頷いて


「分かりました。それじゃ」


 と簡潔に伝え、走って行ってしまった。

 まずいことでも言ったのだろうか?

 そんなこと考えながら俺は街へと急ぐ。市場は最後に取っておくとして、まずは広場で聞き込みをするか。


「この人見ませんでしたか?」


 紙に模写魔法をかけた、カルナ・アヴリルと瓜二つなものを、到着した広場で人に尋ねる。


「いやぁ、見てないな」


 かぶりを振る男性ドワーフ。

 ダメか、他の人に…。


「この人見ませんでしたか?」


「あら可愛いお嬢さんね。彼女さん?」


 次に声をかけたのは人当り良さそうな老婆ドワーフ。

 しかし、解答から見ていないことがわかる。余計な話が広がらないうちに他に行こう。


「ありがとうございました」


 他の人は…。


「ねぇ、君、僕にもそれ見せてくれるかな?」


 男性ドワーフの声。振り向くと、そこにはドワーフ族には珍しい長身で、服の上からも分かる鍛えられた体型の黒髪の男性が、不気味な笑みを浮かべてベンチに座っていた。

 こいつはゼオンだ。間違いない。記憶にある。


「あ、いえ…」


 向こうが俺を知っているとは思えないけど、カルナのことくらいは知っているだろう。これを見せるわけにはいかない。


「いやー、見せてくれるぐらいいいじゃない、ねぇ」


 こんな笑みを見せられて、はいどうぞ、なんて言えるわけないだろ。

 俺は後ずさりしながら愛想笑いをする。だめだ、これでは愛想笑いにすらなっていない。


「いやいや、軍人さんのお手を煩わせるような…」


「へぇ。君、僕が軍人だってわかるのか」


 しまった。失言だった。


「まぁ」


 これ以上余計なことは言えない。俺は一刻も早くこの場を立ち去るために距離を徐々にとっていく。


「なんかさぁ、昨日からこの市内に悪い空気が流れててさぁ、君、何か知らない?」


 悪い空気とは曖昧な。なるほど、カマかけに来たか。

 じゃあ逆にこちらがカマをかけよう。


「さぁ? さっきここに来たものですから」


 さぁ、どっちに取る?

 返答によっては開き直るしかなくなるけども。


「へぇ。今日市内に来たのか」


 ビンゴ。知られていたということは、いくら体裁を繕っても無駄だ。


「いつからだ?」


 諦めて開き直る。

 途端、ゼオンがニヤりと笑う。


「ほぅ。どうしてそれに気が付いた?」


「あなたはさっき、今日市内に来たと答えた。先程の俺は、さっきここに来たと答えたのにも関わらずだ。

 普通ならば、さきほど広場に来たと取れる解答に見える。しかし、貴方にはそうは見えなかった。これは、入った時から監視されていたということだ」


 俺の答えにゼオンは大声で笑った。そして、先程の不気味な笑みではなく、単に嬉しそうな顔をして


「やはり、頭の切れる男よな、フィルド」


 と褒めた。

 いやぁ、俺の正体がバレていたのか。こればっかりは打つ手なかったかなぁ。


「それで、いつからだ?」


「一応は横坑歩いていた時かなぁ。若い城兵に扮してたらさ、余計なことばかり聞く旅人がいるもんだからねぇ」


 なんてことだ。口が軽いと思って甘く見て、変装していたという可能性は排除してしまっていた。なんて阿保なんだ俺は。


「さてと…、あんまり僕も暇じゃないんでね。悪い空気に君は心当たりあるだろう?」


 ゼオンは続けてそう言った。

 悪い空気に心当たり?

 俺たちのことを言っているわけじゃないのか。

 かと言って、心当たりがありません、なんて答えたら捕らえられて拷問でもされるかもしれない。ここは正直に答えよう。


「詳しくは言えないが、俺たちを狙ってフーティマ王国の暗殺部隊が来ている」


 途端、ゼオンの笑みが消える。


「ほぉ。どこの部隊だ?」


 看過ならないことなのだろう。俺とて看過ならない事態ということは理解している。暗殺部隊をみすみす市内に入れてしまっているのだ。単なるスパイが入ってきたとはレベルが違う。


「ギン隊だ」


 ゼオンの顔色が変わる。


「な、ふざけるな。そんなやつらを引き連れたのかお前は!」


 ですよねー。

 ギン隊といえばフーティマ王国屈指の暗殺部隊だ。これを逃げられた人間は数少ないというほど危険度が大きいのだ。


「俺が別に引き連れたわけじゃない」


「屁理屈はいらない。さ、こうなっては仕方ない。教えてもらおうか、お前の目的はそれか?」


 さて、どうするか。

 教えないと捕まるのは目に見えるけど、教えたところでこいつが承認するとは思えない。

 こいつの…いや、こいつらの目的はここの安堵。ギン隊を市外へ出すことだけが目的になる。ならば、カルナを見つけてギン隊に差し出す可能性が非常に高い。たとえ、エルフとドワーフの仲が悪いとは言ってもね。


「悪いけど教えられない」


 ゼオンの眉がぴくぴくと動く。


「本気で言ってるのか? その発言の意味をお前は理解してるのか? アヴァロン帝国アヴリル領軍師、フィルドよ」


 わざわざスパイ容疑のために言い直すとは、結構世間体を気にするタイプのようだね。まさか、帝国と東和国の間になにか起きた?

 そんなわけないか。


「ゼオン様!」


 俺たちの会話に口を挟んできた男フェルパー。若いけど、意外に魔力があるな。


「なんだ!?」


 切れ気味の声。若い兵士なんだから威圧してあげるな。


「あ、いえ、その…」


 ほら見ろ。ビクついて狼狽している。


「いいから言えっ!」


「あ、はい。ヤー元将軍の宿屋でエルフスパイを確認。ヤー元将軍が重傷を負った模様です」


 なに?

 今なんて?

 嫌な予感がよぎる。今の自分の現状に、スパイが軍人と交戦した現状…どう考えても無関係とは思えない。


「スパイごときにヤーがやられたのか!?」


 ゼオンが若い兵にとってかかるかのように尋ねた。今度は狼狽することなく、若い兵は頷いた。


「どうも軍人レベルの強さで、現在、逃亡中です」


 それは先に言え。


「と…、それは先に言えっ!」


 流石に同じことを思ったか。

 さ、今のうちだな。俺はゼオンに背を向けて、全速力で走ってその場を離れる。


「おい待て!」


 ゼオンの叫び声が聞こえるが無視無視。広場を出て、すぐ人通りの多い所へと出る。

 ここまで来てしまえば、ゼオンですら手は打てないだろう。俺は人混みに紛れて宿屋を探す。


「こっちだ。救急!」


 遠くのほうで大声が聞こえる。そこか。


「おい、エルフがここにいるぞ、こいつかも!」


 市場は大混乱だな。エルフを見かければドワーフたちがそれを捕まえるという行動がどこかしこで見かける。その人混みを潜りくぐって、とりあえず奥に向かう。

 さっきの大声…さっきの大声…。


「こっちにもエルフがいるぞ。こいつも捕らえろっ」


 エルフにとっては地獄だな。ヴェートは大丈夫だろうか?


「おい、ここにもエルフがいるぞ!」


 俺の近くで捕り物が行われる。俺はその影響を受けて、どこが前なのか分からなくなるほど揉みくちゃになる。

 余計な邪魔をするなよまったく。


「きゃっ」


 後ろで誰かが倒れてきた。まぁ、この混乱だ。人混みに流されて体勢を崩す人もいるだろう。


「ん?」


 あくまで一般人として俺は対応する。そうやって後ろを確認する。


「あ、その」


 この声…この髪の毛…。この服…。

 まさか?

 心臓が跳ね上がる。もしかして、もしかしてこれは…?


「ごめんなさ…」


 顔を上げたその子は、忘れることがないその顔は…。目の前が潤む。


「ようやく見つけたよ。カルナっ」

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