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八神(ヤガミ)ノ奇跡  作者: バンナ
第一章「記憶喪失」
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四話「城門を抜けるには?」

 雲一つない眩しい日差しが俺の瞼を開かせる。


「起きましたか、フィルド」


 誰のせいだよ誰の…。


「まぁ、ありがとう。ヴェートは大丈夫か?」


「今日一日は問題ありません」


 つまり、明日には限界が来るかもしれないというわけか。ヴェートの戦闘力は強化魔法を使うことによって大幅に上がる。今、限界に近いヴェートの魔力を期待するわけにはいかない、戦力は大幅ダウンと考えて間違いないだろう。


「昨日はなにかなかったか?」


「…いえ、特には」


 どこか動揺しているようには見えるけど、嘘だというのなら俺を気遣ってのことだろう。

 深く掘り下げることはなく、市へ潜入する準備を整える。フードをつけた地味な色の旅服を身に着けて、昨日取り出したものすべて、革袋の中へと放り込む。


「ヴェート。分かってると思うけど、武器は隠しとけよ」


「はい」


 ヴェートは魔法で炎が纏わりつく剣を分解して、体内に取り込むことで隠す。こうやって軍人は武器を隠すことができるのだが、魔力を消費し続けるのがデメリットとなる。特にヴェートの魔力消費は死活問題になるので、可能な限りは武器を隠さないで出しているのだ。


「さて」


 そう前置きをして、革袋を持つ。ヴェートも同じように革袋を持って小さく頷いた。


「行くか」


 俺はそう続けて、市へと歩き始める。ヴェートもそれに続く。

 早歩きで森を抜けて平野に出る。ここから先はキュウペイ市の東和軍が管理する領土。俺たちが軍人と気づかれないようにしないと、スパイと勘違いされて捕まってしまう。


「大きい城壁ですね」


 ヴェートが言うように先が見えない城壁が奥のそれを守っている。城壁の入り口に城兵が数人管理しており、そう簡単に入れそうにはない。

 ま、そう気負わず行こうか。それくらいの気持ちでいかないと、気づかれてしまうから。


「止まれ」


 俺とヴェートが入り口の通路を歩いていた時に城兵に槍で制止される。

 ホントなら商団と共に入り口に入りたかったんだけど、まぁ、そうは言ってられないよね。


「はいはい、よろしくお願いしますね」


 俺はそう言って物腰低く切り出す。


「どこから来た?」


 威厳ある声で脅すように尋ねてくる。結構鍛えられている城兵のようで、やはりすでにゼオンがこの市にきているのだろう。


「旅している者なので、特にどこからとは…」


 こういう時に大事なのは余計な一言を増やさないことだ。相手に問われた必要最小限のことのみを話さなければ、どこか隙ができて変な疑いを作ることになる。


「旅の者か。ここに来る直前に寄ったとこはどこだ?」


 もちろん相手もこちらに情報を出させようと問いだしてくるだろう。もちろん、ここも最小限にとどめる。


「シャンペイ市です」


「なるほどね。目的は?」


「商いを少し」


 城兵の眉間のしわが寄る。


「その荷物でか?」


「まぁ、今後の分を稼げればよいので」


 城兵は鼻を鳴らした。あまりにマニュアル通りすぎて面白くないのかもしれない。


「よし、じゃあ、シャンペイ市からどれくらいで来た?」


 悪くない質問だな。早すぎれば軍人だとバレてしまうし、遅すぎれば嘘だとバレる。とはいえ、これは遅すぎても問題はない。


「十日です」


 瞬間、城兵の表情が曇った。


「ほぅ、シャンペイ市から一直線にくれば二日で来れるはずだが?」


 それは読み通りだ。


「森を抜けてきたので迷いまして…」


 ここも最小限。


「へぇ。森を十日間もさまよってよく無事だったな」


 予想通り過ぎて面白くないね。拍子抜けした俺は肩を落とした。


「フェルパー族の村に助けてもらいましたから」


 フェルパー族の村はとても小さな集落で、東和国領土内に多くの村がある。それは東和国軍ですら確認しきれないほどらしく、そもそも移動する村なので管理できないのだ。

 フェルパー族も東和国やエルフの国フーティマ王国、人間の国アヴァロン帝国に入らない者たちが集落を作っているので、領土こそ入っているものの、他の国に助けを求めない。

 その存在を知っていれば返しは簡単だ。


「あぁ、はいはい。なるほどね」


 城兵はどこか面白くなさそうに納得した。まぁ、マニュアル通りな解答なのだろう。


「おい、そこのご婦人が……エルフみたいなのだが…」


 質問をしていた城兵と別の老けた城兵が口を挟んで来た。それと同時に他の城兵たちの表情が曇り、ヴェートの表情も曇った。

 まったく、エルフ一人にここまで警戒するなんて…。いや、ほんと、しょうがないな。


「あぁ。こいつは俺の嫁です」


 一瞬、ほんの一瞬だが、ヴェートの顔がほんのり赤くなったような気がした。先程の曇った表情に比べれば、だいぶましだ。


「嫁ねぇ…そうやって入ってくるスパイも少なくないんだけどね」


 質問していた城兵がニヤついた。唯一の攻めどころを見つけたというところだろう。

 まぁ、ごもっとも。


「そうですね、そのせいで旅をしているんですよ」


「ほほう。どういうことかな?」


「どの国も受け入れてくれないですからね。だからこうやって稼ぎに来ているんですが」


「ふむ。ちなみにその荷物見せてもらっていいかな?」


 さて、これは普通ならば困ることだ。荷物のなかは軍の機密書類。というか見られれば軍人ということがバレてしまう。

 ま、想定していた通りだけど。


「構いませんよ」


 俺は元から革袋に魔法をかけて、見せかけは薬草や膏薬にしてある。これはヴェートにも同じようにしているので問題はないのだ。

 革袋の中身を見た城兵は何度も頷いて


「長い間拘束して悪かったな。どうも間違いないようだ。中へどうぞ」


 と言って、城門を開けた。


「お前、案内頼むな」


 先程の城兵がそう続けた。


「了解しました」


 若い城兵が案内する形で、城門の中へと潜り抜けると、横坑がある。そこを歩いていく。


「すぐ街ってわけじゃないんですか?」


「一応ね、壁の周りは被害があると困るから軍備施設になっているんだよ」


 案外簡単に話すな、この若いやつは。

 どう考えても機密事項で、一般市民にすら隠すべきことだろうに。

 先程の城兵がいれば怒鳴りつけられているだろうね。


「へぇ。すごいんですね。あ、ちなみにここを治めているのはどなたなんですか?」


「えーっと、確か、ゼオン…とかいう本国から来た人だっけな。ま、俺たちには関係ないんだけどさ」


 なるほどね。この若い兵はゼオン直属の兵ではないのか。どおりで口が軽いわけだ。

 横坑を抜けて日差しが眩しいところへと出る。外壁とは違って街は活気があり、特に一部中心では人が集中している。


「凄いな」


「だろぉ。東和国一、二を争う市場だからな」


 俺は肩を落とした。

『凄いな』なんてのは単に旅人として必要な言葉として発しただけだ。それをそのまま取るとは、想定通り過ぎて面白くなかった。

 かといって、想定外のことが起きると困るのだけど。


「ここはな、ヤー・ウォンが元々治めてたとこなんだよ。あの方が治めてたから今までうまくいってたんだ。本国から来たからって、いきなり大きな顔をするなってんだよな、ほんと。そう思わないか?」


 余計な情報をありがとう。役に立つかは知らないけど、情報を集めるのは大事だ。損にはならないはず。


「そうなんですか」


 同意はしない。同意することは今後面倒なことに巻き込まれないし、かと言って否定するのも面倒になるだろう。曖昧に返しておく。


「あぁ。ま、こっからは自分で頑張れよ。じゃあな」


 若いくせに上から目線なことはこの際置いておく。若い城兵は先程のところへ戻っていった。

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