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八神(ヤガミ)ノ奇跡  作者: バンナ
第一章「記憶喪失」
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一話「無記憶」

 太陽の暑い日差しが私の瞼を開かせる。周りの蒸し暑さが体中にまとわりついているものの、なぜか着ている服はびしょ濡れになっている。そして、濡れた服の上には毛布が掛けられていた。


「眩しい」


 毛布をどけ、まわりを伺う。私が寝ていた場所はある広場のベンチ。ど真ん中には噴水があり、小さい子供たちが噴水周りで、水遊びをしている。

 子供…?

 その子たちは長い耳が獣のようになっており茶色や焦げ茶色のような感じになっており、小さい尻尾らしきものが生えている。つまり、普通の人間で無いということ。

 これは七種族の中の一つ、ドワーフ族…。


「おや、お嬢さん、お目覚めかい?」


 私の近くで子供たちを眺めている老婆がこちらを見て微笑んだ。白髪が混じっているものの、先程の子供たちと同じような耳を持っており、ドワーフ族であることがわかる。


「えっと…ここは?」


 私は起き上がって、今までのこと、ここがどこなのか状況把握に努めるが、何一つ思い出すことができなかった。ここまでの経緯だけではない、自分の名前すら思い出すことができなかったのだ。

 あまりのことに唖然とする私。


「ここはね、ドワーフの国、ヴェスパ東和国だよ」


 ドワーフの国…。道理でドワーフ族ばかり目にするのか。


「ところでお嬢ちゃん、体大丈夫かい?」


 老婆が私の色んなところを覗き込んで見回す。急に老婆の顔が近づいてきたものだから、私は咄嗟にのけぞる。


「えっと…特には…大丈夫ですよ」


「ホントかぇ? お嬢ちゃん、そこの噴水の中で倒れてたんだよ。わたしゃあ焦ったね」


 噴水の中で!?

 私は服が濡れていた理由をこれで理解したわけだが、それにしても噴水の中で倒れているなんて並大抵のことじゃない。

 というか、よく窒息しなかったものだね。


「くしゅん」


「あらあら、風邪を引いちゃったかねぇ。せっかく起きたんだし、うちまでおいで」


「いや、でも…」


 こんな訳の分からない人間を…。


「いいのいいの。うちは宿屋だらかねぇ。心配せんでも」


「や、でも、私手持ちないし…」


 確か、宿屋などサービスを受けるにはその国独自のお金などが必要になったはず。


「大丈夫さぇ。ほら、起き上がってー」


 老婆に支えてもらう感じでベンチから立ち上がる。体が冷えている感じはするが、特に筋肉の衰えなんてなく、簡単に立ち上がれた。


「あの、でも…」


「はいはい。ほーら」


 老婆は私が置いた毛布を手に取って、私に巻いた。

 暖かい…。

 老婆は私の腕をつかんで、強引に歩き始め、それにつられてついていく。


 広場を出ると、賑わいを見せる道へと出た。パン屋、武器屋、防具屋、魔法店、などなど。

 魔法…。そうだった。この世界では誰もが魔法を使えて、日常から魔法を使っているんだった。

 私は一生懸命、魔法のことを思い出す。確か…、こう…。

 毛布の中で掴まれていないほうの手で魔法を唱える。


 ジュー。


 乾燥魔法と言われる魔法で、私は体中に付いた水滴を蒸発させる。

 人混みの中だったのか、魔法を使ったことに老婆は気づかなかった。音は少ししたけど、賑やかな声、喧噪が掻き消してくれたようだ。


「おー、ヤーさん。今日も散歩かい?」


 ごつい男性の声。声をするほうへと振り向くと、声に似合う体型、多少の無精髭をして頭に鉢巻を巻いた、笑顔いっぱいな男性ドワーフが腕を組んで立っていた。


「おぉ、ジェンちゃん、そーなのよ」


 老婆が私を連れて、その男性のとこへと向かう。武器屋の前に男性は立っており、中の武器屋は繁盛してそうだった。


「そこの可愛らしいお嬢さんは一体?」


 男性が私のことに気づいて、首を傾げた。


「えっと…私…」


「この子ねぇ、拾ったんだよ。あ、そうそう、聞いて、噴水の中で倒れてたんだよこの子!」


 私が言う前に老婆に言葉をかぶせられてしまう。


「うぉ、まじか。大丈夫だったかい君?」


 老婆と男性のやり取りに気後れしてしまう。

 でもでも、助けてくれた人に失礼があってはダメだよね。


「その、なんか、助けてもらったらしくて、大丈夫です!」


「そうか。それならよかった。いやー、それにしても見たことないぞ、噴水の中で倒れている子なんてさ」


 がっはっは、と笑い飛ばす男性。

 笑いの強さに気圧されて言葉が出てこない。


「いい加減その笑いやめんか。怖がってるじゃろ。まったく…」


 老婆の助け舟。


「あぁん? いいんだよ。なんだって元気が一番さ、なぁ!」


 元気が一番…。まぁそれは間違いないとは思うけど。


「まったくのぉ、仕方ない、こいつほっといて先に行こうかのぉ」


 助かった…。老婆は私を連れて再び歩き始める。


「またうちを贔屓にしてくれよー」


「はいはい、宣伝はしとくさね」


 そう最後の会話をして、人混みの中へと潜り込んでいく。これほど人がいるとはぐれてしまいそうだけど、老婆の掴んでくれる力が思ったよりも強く、ちょっとやそっとで離れることはないと思う。


「おうヤーさん。こっちこっちー」


 また老婆に声がかかり、老婆がその男性に近づいていく。先程からそこまで進んでいないのに、また止まってしまうとは…。

 一体いつ着くのかな?

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