プロローグ
私はもう死んでいる。
これは別に嘘ではない。私の体は既に齢200歳で腐り落ちているのだ。
我々人間の寿命は長くて100行けばよいほうだ。
それが未だに意識があって若者のように動くことだって出来る。
言わば不老不死だ。
正確に言えば不老不死ではなく単なる延長といえるのだが、それでも他人から見れば不老不死に見えないこともないだろう。
「それで俺はあとどれくらい持つんだ?」
夢の中に入り込んだ炎を纏った鳥に語り掛けた。
「そうだな。このままいけばあと一ヵ月ってところか」
その鳥は流暢に同じ言語で話す。
まぁ当たり前だろう。その鳥は我々の世界での神なのだから。
「そうか」
「なんだ、思ったより残念そうではないな」
確かに死に対して恐怖がないとは言えないけども、別に受け入れられないようなことではなかった。
十二分に長生きをさせていただいたからな。
「まぁようやくこき使われるのも終わりだと思ってね」
「あーそういえば皇帝陛下に良いように使われていたな」
旧知の中とは言え、色々なことをさせられたものだ。まったく。
「ところでよう、お前の見た予知夢ってやつ、大丈夫なのかよ」
鳥が私を困らせることができないと分かるとすぐに話題を変えた。
私はとある職業柄、未来を夢で見ることがあるのだ。それが予知夢。その夢を私は鳥と共有することができるのだ。
「まぁもう大丈夫だと思うけどな」
「へぇ。だけどあの少年、今にも死にそうになってるけど」
「なに!?」
私はすぐに目を開けた。時刻は午前一時ごろ、真夜中でもう事は起こっている最中だろう。
彼が、彼を殺す人間を殺しているところまで確認して私はひと眠りいれたのに、どうして死にかけている?
私は彼の場所を軍事魔法で位置探知してその場まで走った。色々な物体の位置を教えてくれるその魔法はとても便利ではあるのだが、魔力を大きく使う。
私の持っている魔力がそれを下回ると鳥の持っている魔力分を使われる。その魔力こそが私の寿命であり延長と言えるゆえんだ。
私は自分の持っている魔力だけでどうにか少年のところまで辿り着いた。
その少年は胸をナイフで貫かれて瓦礫の山を背にぐったりとしていた。
「どうして殺されるんだ」
疑問はすぐに解消された。
彼を貫いたナイフは彼と共にいた者が愛用していたやつだ。
「そいつは殺せなかったんだな」
幾ら人殺しをしろと親に言われても未だ十にも満たない少年がおいそれと出来るわけがない。
そんな当たり前なことを私は忘れていたのか。
もう涙なんて出ないけど謝りの言葉は止まらない。
「ごめんな、ごめんな」
と彼の頭をなでながら私は言う。
「あ、あなたは?」
その小さな掠れ声に私は驚いた。
胸を貫かれてなお必死に生きながらえていたのか。
たとえ虫の息だろうが生きていれば問題はない。
私は最後の手段を使う。
再び瞼を閉じた。
「いいのか?」
鳥はどこか怒っている声だ。
「頼む」
「俺を渡せばお前はすぐに死ぬんだぞ?」
「構わない」
「こいつと俺が合わなければこいつもすぐに死ぬんだぞ?」
「でも、適合すれば数百年は生き残れるんだろ」
「そんな可能性ほぼゼロだ」
「構わない、何もせずに死なせるよりよっぽどマシだ」
「いやしかしだな」
今日は凄くいちゃもんをつけるな。いつもならすぐにしてくれるのだけど。
まぁ最後だからか。
「頼む」
自分の油断から生じたことなのは分かっているが頼まずにいられない。これが最後の希望なのだ。
「いくら言われても、俺はこんな得体のしれない奴よりお前のほうが」
私は鳥に頭を下げた。
「友人が命を張って守ろうとした子なんだ。死なせたくない。頼む」
鳥は数分黙っていたが、ついに翼を広げて高い叫び声をあげて飛び立った。
「分かった。さらばだ。友よ」
そうして私はついに死んだ。