”ザナフ” 学園編第一話
自宅を後にし、学院に向かって歩くこと暫く、彼が学院に着いたのは入学式約五分前だった。
校門や校舎の入り口には既に人はいない。
皆、入学式へ向かったようだ。
精霊の勉強の為に何かに…。
ザナフはそう思ったが声には出さず、入り口に貼り出してあるクラス分けの紙を眺めた。
1−C
クラスを確認し終えると、その横に貼ってある予定表を確認する。
『入学式…精霊による歓迎会。終わり次第、各クラスへと移動
LHR…各クラス担任による学院の基本的な規則の確認、委員会決め等々
早くに確認等が終了した場合、生徒達の自由な時間とする
授 業…午後より早速授業が始まる
学院と精霊による、本格新入生歓迎パーティ
…任意参加。しかし、始まるまでは学内にいること。それ以降は生徒各自自由解散』
精霊なんかに歓迎してもらいたくねぇ。
こうなったらやることは一つ。
「よし、」
そう、たった一つ。
…して、そのやること、とは?
――それは勿論、
「サボるか」
サボタージュ、である。
一人でサボり宣言をした直後、後頭部に衝撃が走った。
それほど痛くは無かったのだが、いきなりだったので驚いた。
振り向いてみると、そこには一人の女生徒が立っていた。
「ほうほう…、初っ端からサボる新入生がいるのか。やれやれ…ほら、さっさと行くぞ、私について来い」
冗談じゃない。
こっちはもうサボる気満々なんだ。
LHRと授業だけ出て後はサボるんだ。
「冗談じゃねぇ。行かねぇよ、行きたきゃ一人で勝手に行け」
「駄目だ。行くぞ、新入生」
「行かねぇ」
「行く」
「行かねぇ」
「行く」
「行かねぇ」
「行く」
「行かねぇ」
「フゥ……、分かった。なら無理矢理連れて行くとする。もう時間が無いからな」
「!?」
彼女の纏っている雰囲気が変わった。
先刻までの話しかけやすい雰囲気では無い。
気のせいか、彼女の周りに何かの流れの様な物を感じる。
気がついたら制服の後ろ襟を掴まれてズルズルと引きずられていた。
抵抗も試みたが足が痛くなるだけで止まらないので諦め、そのままされるがままに会場に向かって引きずられている。
「アンタ、それ何だ?」
「ん?あぁ、これか。これは去年から必修科目になった“魔術”の応用だ」
「へぇ…。まぁどうでも良い、そろそろ放せ」
「駄目だ、後数分と17秒くらいで入学式の私の出番だ」
「アンタが勝手に行きゃ良いじゃねぇか。俺には関係ない」
「そういう訳にも行かないんだよ。……間に合いそうに無いから近道するぞ」
「ア?」
「怪我したくなかったら両手足を丸めて出来るだけ小さくなってて」
「うおっ!?」
言うだけいうと、彼女はその場から跳んだ。
校舎の壁や植えてある大きな樹を蹴りながら右へ、左へと。
段々に高度を上げて今はもう屋上を走っている。文字通り、式場へ一直線に。
当然ながら後ろ襟を掴まれているザナフは首が絞まって大変なことになっているのだが、急いでいる彼女はそんなこと気にも留めない。ただ、目的地に一直線である。
『次は、現生徒会長による新入生歓迎の言葉』
一方、入学式はスムーズに進んでいた。
『生徒会長、どうぞ』
式は次の段階に進む、が、肝心の生徒会長がまだ現れない。
『会長…?生徒の皆さん、少々お待ち…』
――ガシャーーーーーーン!
「その必要は無い」
連絡の途中で高い音が響く。
天井の硝子が砕けたのだ。
差し込んでくる日差しが硝子片で乱反射して眩しい。
その中を、一人の女生徒とその手に掴まれた男子生徒が降りて来た。
「まずは新入生諸君。このメヘルニーズ学園に入学、おめでとう。歓迎しよう。私は此処の現生徒会長、…こら、逃げるな。…リエル・フィリサスだ。もう知っているとは思うが、この学園は精霊やそれに関わる物、それと去年から必修科目になった魔術等の勉強や習得が目標だ。…む、だから、逃げるな。…何?上?」
男子生徒に言われ、ちらりと上を確認するリエル。
ふむ、と一つ頷くと視線を新入生に戻し、言葉を続けた。
「新入生諸君、君達にも夢や目標があるだろう。それは良い事だ、目標は高ければ高いほど良い。その目標を現実の物にする為に、この学園にいる五年の間に様々な事を覚えて行って欲しいと思う。では、私からは以上だ」
リエルが話を終えると、それと同時に鈍い音が響いた。
魔術で天井をぶち破った時の衝撃で鉄骨が壊れかけていたのだろう。それが今壊れた。
支えを失った鉄骨は真っ直ぐに彼女の所へ落ちて行く。
「全く…今日は朝からついていないな…」
――パチン!
突如、彼女は指を弾いた。
その瞬間、落ちてきた鉄骨が空中に突然現れた水球に飲み込まれ、瞬く間に圧縮されてしまった。
「それでは諸君、これで入学式は終了だ。各教室に戻り、勉強に励んで欲しい」
それでは、ここから本格的に精霊の話にするまでの間、皆さんのアイデアをお待ちしております