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木屋町ホンキートンク Ⅱ  作者: 鴨川 京介
第1章 スタッフ募集中!
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08 ギギギッ

 俺は首がギギギッッと鳴る程、ぎこちなく、そちらを向いた。


 「おばば…そんなに若作りして…。」


 パシッ


 「若作り言うな。わしほどになると年齢は関係ないんじゃ。ほれほれ、京介の好きな、ないすばでーに変化してやったぞ。」


 いや、無理やり胸押し付けてくるのやめてください。沙織ちゃんと千春ちゃんが俺を見る目が痛いです。


 「最近はこの格好で、この店を手伝っておる。なかなか受けもよいでな。中には求婚してくるものまで出る始末じゃ。いや~もてる女はつらいのう~。」


 ……。

 ……。

 いや、何も言うまい。考えまい。


 「なに、京介ほどの一物を持った男は、なかなかおらんじゃろうから、わしは浮気はせんぞ?」


 パシッ


 「なに紛らわしいこと言ってんだ、くそばばあ。俺を見る目がもっと厳しくなったじゃねーか。一物なんて言わずに『魔力量』ってはっきり言わんか。」


 もう一度パシッと突っ込んでおいた。


 にやにや笑ってどこ吹く風で、そっぽ向いてやがる。

 だから、千春ちゃん?その握りこぶしは何かな?

 沙織ちゃん?震えながらビールジョッキ振りかざすのはやめてね。


「「ハルさんのあほー!!」」


 俺は降りかかってくるビールと、頭を殴られた痛みに打ち震えていた。

 なんで俺がこんな目に。

 自分に治癒の魔法と乾燥の魔法をかけた。ふ~。

 みんなちょっと落ち着こうね。


 「おばば、さっき言ってたことって…。」


 「京介も気づいておるんじゃろ?この3人なら文句なしに異界に渡れるぞ。MPが500もあれば十分じゃからの。最も異界への適合化のための、肉体改造は起こるから少しは苦しむと思うがの。それにお(ぬし)がついてやらねば、どこに『次元のほころび』があるかわからんじゃろうしの。お前たち三人は薄々気づいておるじゃろうけど、そういうところには、近づきたがらんもんじゃ。本能的にの。」


 「それってたまに感じるんですけど、気味の悪い場所とか、近寄りたくない雰囲気の場所とかそういうことですか?」


 千春ちゃんはおばばに質問した。


 「おぉ、そうじゃ。そういうところに『負の魔素』が溜まっておるはずじゃからの。負の魔素がたまるところに、次元のほころびはできる。異界への入り口は案外すぐ身近にあるのかもな。」


 おばばはそう笑いながら俺のビールを一息に飲んだ。


 …って、その格好、この店のユニフォームだろ?スタッフがお客と一緒に酒飲んでんじゃねー。え?わしはいつも飲んでるって?許す客も客だろう。


 「まあ、そういうやつらは、わしの身体をすぐにべたべたと触ってくるから、すぐに飲んでさっさと席は立つけどな。」


 おーい、お替り。と、スタッフの小夜ちゃんに声をかけてた。

 小夜ちゃんはすぐに、俺のとおばばのビールを持って来てくれた。

 うん、かわいい子は好きだよ、俺。

 でも考えたらみんな2,000歳ぐらいなん…うぉっ。今すっごい寒気がしたぞ。

 にっこり笑う小夜ちゃん。うんちょっと怖いかな。

 これ以上、年のことは考えないようにしておこう。女性にこの話題は禁句だ。


 「どうやらこの二人もお(ぬし)を狙っておるようじゃが、眷属の中にもお(ぬし)の嫁になりたい奴らがわんさかおるぞ。わしもその一人じゃがな。」


 「な、なん…。」


 「そりゃそうじゃろ。これほど魔力量の多いオスは初めてじゃからな。眷属たちが気になるのも無理はない。お(ぬし)の傍は心地よいんだそうじゃ。わしもこうして横におるとわかるな。お(ぬし)から気持のよい波動の魔素が、垂れ流されておるんじゃ。」


 そういいながらおばばは俺の首元をスンスンと嗅いできた。

 スンスンすな。…沙織ちゃんも千春ちゃんも、もの欲しそうに見ない。


 「俺みたいな初老に足掛けた中年捕まえて、何言ってることやら。」


 俺は相手にせず、ビールを呷った。


 「いや、ハルさん、どの現場でも妙に人気があるんだよね。ゲストからもスタッフからも。それってそういうことだったのか…。」


 社長は社長でぶつぶつ言いだした。俺ってそんなに人気あったか?気のせいじゃね?


 「スタッフの間でも結構噂になってましたよ。なんで離婚したんだろうとか、彼女いるのかなとか…。」


 千春ちゃんがそう言ってビールを呷った。


 「そうそう、誰が初めに声かけるとか…。でもハルさんは仕事中は、そういうことに一切目を振らずにお客様のために動き廻ってて…。そこがまた格好良くて…。」


 おーい。なんか変な妄想入ってるよ、沙織ちゃん。

 こんなおっさんのどこがいいんだか。もてるのはうれしいよ。けどどうしてもこの年になると、からかわれてる気がして落ち着かねー。

 ……そもそもこの落ち着かねー気持ちにさせてるのって、日頃からからかってくる、あの人の所為だよな。そういえば今日行くって電話してたんだっけ。

 するとそこへ、タイミングよく瑞月ちゃんが現れた。え?どうして?


 「どうも京ちゃんが来るの遅い思たら、こんなとこで美女はべらしてる。いつになったらうちのとこ来てくれるの?」


 と、瑞月様、仁王立ち。

 え?今日は何の日?厄日?そっか、厄日か。じゃあ、仕方ないよな…。


 「ハルさん、こちらの方はどなたですか?」


 ギギギッ。


 沙織ちゃん。そんなに睨まないの。かわいい顔が台無しだよ?あ?そういうことはどうでもいい?はい。


 「えっと、この子は行きつけのガールズバーの店長で瑞月ちゃん。こちらは猫又のおばばと千春ちゃんに沙織ちゃん。それとそこの社長である矢神さん。」


 …俺ひょっとして、この社長の名前呼ぶの久しぶりかもしれん。ずっと社長で通してたからな。矢神秀夫。それが社長の名前だ。


 そんな現実逃避しながら俺は、まだまだ夜が始まったばかりだということを、立体ビジョンで確認しながら、愛とレティと輝乃が覗き込んできてるのを眺めていた。


 いや、お前たちまで出てくるなよ。もっとややこしくなるんだからな。


 …いや、押すな押すなじゃねえって。


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