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木屋町ホンキートンク Ⅱ  作者: 鴨川 京介
第1章 スタッフ募集中!
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05 木屋町ホンキートンクへようこそ

 俺はまねきビルのペントハウスから、待ち合わせしていた京阪四条の改札口まで全力で走った。迷彩かけながら走った。うん、待ち合わせの時間がぎりぎりだったからね。

 なんで俺がおっさんに会うために、息せき切って汗流しながら走らなきゃいけないんだ…。何とか間に合ったようだ。しかし、すでに社長は改札口の前で待っていた。


 「お、来たな。」


 「悪い、待たせたか?」


 「いや、さっきついた電車に乗ってたから、今ついたとこだ。」


 …ごめん、遅れて。ううん、私も今来たばっかりだから…って。なんだこのおっさんと交わす会話で、一番したくない会話ベスト1位のやり取りは…。


 俺は今、俺たちが交わした会話を思い起こしながら、気が滅入りそうになった。

 しかし、社長は一人で来たのではなく、女の子を二人連れてきていた。


 …あれ?どっかで見た顔だよな。


 「ご無沙汰してます、ハルさん。広島の現場でお世話になった、沙織です。」


 一人の髪の長い女の子が、俺に挨拶してきた。…思い出した。あの人気アイドルグループの野外コンサートのために、送迎用のシャトルバスの運営をしたことがあったのだけど、その時付いてくれていたADの子だ。


 「私も御無沙汰してます、ハルさん。私は京都のメーカーの開発センターの竣工記念のイベントでお世話になった、千春です。覚えてますか?」


 あぁ、確かにこの子だ。今は東京に行った人でなし(・・・・)が、元々勤めていた会社のイベントでADとして来てくれてた子だ。…うんうん、思い出してきた。


「もちろん覚えてるよ。二人ともよく来たね。京都まで。」


 俺はさも覚えていたかのように振る舞った。なんでこの社長、この二人を連れてきたんだ?今日は差しで話したいこともあったんだけどな。


 「いやー、たまたま二人が今日、事務所に来ててな。ハルさんと飲みに行くって話したらぜひ自分たちもつれてけってうるさくて。申し訳ない。」


 そういって社長は頭を掻いていた。いや、おっさん。ニヤケ面がちょっときもいぞ。


 「お邪魔でしたか?」


 千春ちゃんが、俺を見てそう聞いてきた。確か千春ちゃんはイベントの時大学生で、今はこの社長のところに就職したはずだからもう23になるのかな。


 「突然押しかけてすいません。でも、あれ以来ハルさんと現場ご一緒する機会もなかったんで、ご迷惑かもと思ったんですけど来ちゃいました。」


 沙織ちゃんはもう少し年上だったはず。入社4年目ぐらいだったかな。イベントの時は新入社員で、このおっさんから教育を任されたんだっけ。


 「いや、突然懐かしい顔ぶれに会ってびっくりしたよ。どうせおっさん同士で飲むだけだったんだから大歓迎だ。とりあえず飯食いに行こうか。」


 そうそう。どうせなら美人を相手に飯も食いたいし酒も飲みたいからね。

 俺は3人と懐かしいイベントの現場での話をしながら、四条大橋を渡り、まねきビルの方に歩いていた。


 出会ってすぐに『誰だっけ?』って思って鑑定したんだが…。

 うん、この3人。かなりのMP保有量がある。

 万眼鏡で見てるんだが、社長にはタヌキの耳としっぽ、千春ちゃんは猫かな?沙織ちゃんは犬だと思う。オオカミかな?…うん、それぞれかなり血が濃く入っているようだな。

 実は今日3人と会って、もしかして…って、気づいたことがあるんだ。俺と仲がいい、若しくは仕事などで相手との呼吸がよく合う人たちって、あやかしの血(・・・・・・)を引いてたんじゃないかって。

 社長にしても、この二人にしても、現場で意思疎通の速さは、他のスタッフとは群を抜いていた。考えが同じというか、同じ目的のために頑張ってたというか…。


 「それはの。お(ぬし)の能力の影響が周りにも及んでおったからじゃろうな。」


 いきなりおばばが万眼鏡から話しかけてきた。次いで立体ビジョンでも飛び出してきた。びっくりするな、もう。


 「その3人も何らかのことを、お(ぬし)に感じておったようじゃな。今日は面白いものが見れそうじゃの。わしらもそっちに行くでの。」


 いやいや。来なくていいからね。ややこしい。どう紹介していいかもわからん。


 「なに、心配せんでもよい。わしたちはわしたちで楽しく酒を飲むだけじゃからな。」


 そういっていきなり立体ビジョンが消えた。

 …う~ん。またなんか起こるのか?

 俺は笑顔で3人と話しながらも、どう考えても今晩は、何かありそうだと気を引き締め直してていた。


 そうこうしてる間に、木屋町通りを通ってまねきビルについた。


 「今日飲む店はここなんだ。居酒屋で悪いけど、味は保証するから。」


 涼子ちゃんが作る異界の魔物料理(・・・・)は、異界でも食べれない幻の料理だ。


 魔物肉と、日本にある調味料と、涼子ちゃんのあくなき料理への探求心が生み出した至宝の食べ物。それがここ木屋町ホンキートンクでは出されている。料金はワンコインで済むものが多い。500円玉ひとつで1品。そういうメニュー作りをしている。飲み物もすべてワンコインだ。ビールなどはワンコインで2杯分。つまり、250円ってことになる。これはオープン記念として1か月続けているんだが、どうやらやめれそうにないと思うんだよね。だってジョッキ一杯250円って、どこの居酒屋でも出して無いからね。1か月過ぎたら3杯1,000円ってところに落ち着くと思う。このオープン記念のビールは、ある飲料メーカーの好意でやらせてもらっている。俺がこの店をオープンするといううわさを聞きつけて、いち早くやってきた飲料メーカーだ。


 実は昔、展示会で、このメーカーの出展ブースを企画したことがあって、その時にほれ込んだキャッチコピーを俺は気に入っていて、この店のコンセプトに模している。


 『呑んで、食って、笑おう』


 うん、居酒屋のコンセプトとして、これ以上のものはないね。


 その話をどこから聞きこんだのか、飲料メーカーの社長が直々にグローバルシナジー社を訪れた。


 「鴨川社長。お店をオープンなさるらしいですね。ぜひとも当社の飲料を使ってやってください。もちろん卸価格は勉強させてもらいます。こちらの輝乃さんには当社から大量にご購入いただいているので、今年の当社の売り上げは、鰻上りです。株価も倍増しております。ここで鴨川社長が出す店の飲料を、他のメーカーに取られたら、私は社に戻ることができません。どうか何卒、わが社のビールや飲料をお使いください。」


 と、来ていきなり頭を下げた。


 横で輝乃がしらっとしてたが、かなり巧妙にプレッシャーを掛けたようだ。

 もちろんビールも他の飲料も、気に入ってるから使わせてもらうけど、たかが居酒屋一件だよ?売上なんて知れてると思うんだけどな。え?そういう問題じゃない?メンツが掛かってる?…うん、わかったから大会社の社長に頭下げさせて、のんきにしてるほど俺って度胸ないから。頭上げて。

 俺はビール導入の経緯を思い出しながら、3人を店の中に案内していった。


 「京介様、お待ちしておりました。お席は確保してございます。どうぞこちらへ。」


 と、涼子ちゃんがわざわざ出てきてくれて、俺たちをVIP席に案内してくれる。


 この店の内装は、前に語った通りなんだが、それともう一つ、他にはなかなかない仕掛けがしてある。

 それがこのVIP席だ。

 中2階のように張り出した席が、店の中をぐるっと一回りしている。

 階段はステージの後ろから、左右に延びるように設置されている。

 この階段を下りて、演者なども登場する仕組みだ。

 演者控室なども、この中2階に作ってあり、演者は店がオープンする前にこの部屋に入ってスタンバイすることになっている。


 内部はすべて木造なんで、消防の立ち入り検査の時、ひと揉めした。

 木造は耐火建築物にならないから、許可できないといわれたからだ。


 …耐火どころじゃない。燃やそうと思っても燃やせないんだから。

 俺はわからず屋の消防検査官を前にして、灯油を床にまいて火をつけて見せた。

 ぼうっと燃え上がった灯油に、消防検査官は慌てたが、しばらく見ているように、なんとか宥めた。


 やがて灯油の火が消えたころ、その床も、机も、椅子も、天井も、壁もすべて木材にかかわらず、焼け焦げひとつ、煤ひとつ付いていなかった。そりゃそうだ。『不懐』と『不燃』の魔法がかかってるんだもの。

 書類上、メーカーの保証した耐火製品じゃないと、認可できないってことなんで、そのあたりの書類は輝乃が用意してくれた。

 詳しくは聞いていないけど、ビールメーカーの社長のことが頭をよぎった。


 同じような手口で、建材メーカーにもコネクションを広げているんだろう。


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