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木屋町ホンキートンク Ⅱ  作者: 鴨川 京介
プロローグ
1/39

01 和やかな日々

 ザクッ…ザクッ…


 鍬が土を食む音が静かに響いている。

 初夏の風が心地いい…。

 トンビがピーヒョロロと鳴きながら空を回ってる。


 気持ちよさそうだな…。


 俺は黙々と、畑を耕している。



 ここは稲荷山の少し北側。

 もともとゴルフ場にしようと造成していたものを、途中で放棄されてしまった土地だ。


 ザクッ…ザクッ…


 俺はこの土地の所有権を譲り受けた。


 利権が中途半端に浮き、反対運動などもあって、誰も手を出さなかったのだ。

 それをタダで貰ってしまった。


 ある日、いきなり黒ずくめの男たちがやってきて、鴨川京介名義の土地の権利書を差し出し、譲渡を申し出てきた。話を聞くと、どうやら俺がヤマトの国を安定化させた見返りとして、俺が好きなように使える土地を用意してくれたらしい。


 俺は喜んで受諾し、元々ここに建ててあったクラブハウスを、住処兼工房としている。来た頃はボロボロだったんだけどね。今は眷属の皆さんが総出で改修してくれて、かなり住み心地のいいものになっている。ため池や窪地なども整備されて、今では池に鯉まで泳いでる。ん?鯉だよね?まさか異界から持ってきてないよね?ね?


 今は、ゴルフコースを畑にするために、こうして朝から畑を耕している。


 ザクッ…ザクッ…


 うん、いいね。

 こういうのがしたかったんだ。


 「マスター、朝ご飯ができました。」


 「ありがとう、愛。」


 俺は、クラブハウスに戻り、食堂で朝ご飯をいただいた。

 うん、今日もおいしい。


 朝ご飯を食べてから、俺は工房に向かった。

 クラブハウスの一角に作ってある創作工房だ。

 そこで陶芸の為のろくろ(・・・)や電気釜、釉薬などが並べられている。

 ここ1週間ほどこもったおかげでかなりの腕前に上達していた。


 「マスター、お電話です。」


 「ん?誰から?」


 「東京の宮内庁の方からですが…。」


 あれから事あるごとに、帝に会いに来いという催促の電話がかかってきていた。


 「今手が離せないって言っといて。」


 「あの…それが…もうこのクラブハウスの前まで来られているようなんですが…。」


 気配察知で探ると、確かに玄関に2人の気配がする。

 それ以外にも…なんだこれ。ここが包囲されてるじゃねーか。

 今までは忙しいって、ごまかせてたんだけどな。

 仕方なく電話に出た。


 「はい、鴨川です。」


 「鴨川様。(わたくし)、宮内庁の刑部(おさべ)と申します。先日来お伝えしておりました『帝』への謁見のため、お迎えに参上いたしました。」


 「・・・こっちの都合は考えてくれないんだな。」


 「申し訳ございません。どうも、火急の用事がございますようで…。すぐにお連れするように申し付かっております。」


 「ふ~。わかりました。それにしてもえらく大勢できたようですね。」


 「誠に申し訳ございません。どうしても来ていただかなければいけないようですので、無粋ですが、このような大勢でかしこまりました。」


 「わかりました。準備する間待っててください。」


 軽くシャワーを浴びて身体を洗い、作業着をスーツに着替えて、外に出ると飛行機がゴルフコースに着陸してきた。

 これって…オスプレイだよな。


 「さあ、鴨川様。こちらにお乗りください。」


 「こんなとこに降りてきて大丈夫?」


 「はい、ご心配に及びません。『消音』と『迷彩』の結界を張ってございます。


 うん、確かに音はしなかったけどね。これじゃ誰も気づかないか。

 俺はオスプレイに乗り込み、500㎞ほどの空の旅を満喫しながら皇居近くの高層ビルのヘリポートに到着した。


 このオスプレイは特別仕様らしい。


 車でいうとリムジンってところかな。

 いたるところに魔道具がつかってあるようで、揺れないし音がしない。

 2時間もかからず、俺は東京に運ばれた。


 俺は高層ビルの最上階にあった特別室で『(ミカド)』と話をした。


 3時間ほど話をして、帰りのオスプレイの中でいろいろと考え事をしていた。


 やがてまねき猫クラブハウス(いつの間にかこういう名称にされていた。)に着いて、まだ考え事が止まらなかった。


 う~ん。どうしようか。


 帝からはいくつかのことを依頼されていた。

 そしていくつかの知ってはいけない日本の裏話を聞いてしまった。


 う~ん。これもやるしかなさそうだな。


 実は俺は帝から依頼されたときから今まで、如何にしてこの依頼を受けないで済むかを考えていた。

 正確には受けずに被害を出さないかを…。


 「う~ん、だめだ。やっぱりどう考えてもこの依頼、受けざるを得ないぞ。どうしようか、愛。」


 「はい、マスター。すでに会合の途中から、レティ、輝乃と相互連絡を取りながら、各種シミュレーションを繰り返しておりました。」


 「結果は?」


 「マスターが受諾される可能性は87%、受諾された場合の概算費用は約1,000億円。期間は半年。成功率は眷属の皆さんの追加投入も含めて100%と試算しております。」


 「う~ん。その根拠は?」


 「現在の異界の状況は、京都を中心とした結界で、この世界との分離には成功しております。しかし、これがかなり不安定な状態だということは、マスターもお気づきだと思われます。すでにあやかしの皆さんを異界の日本全国に調査のために派遣してから2週間ほどが経過しております。入ってきております情報で、異界の『あやかし』との接触が確認されております。これは本日の帝からの情報と一致しております。このまま放置されますと、帝がおっしゃられていたように10年以内に世界中で異界の魔物がこちらの世界に湧き出てくる可能性がございます。」


 「う~ん。やっぱりそうなるか…。」


 どうやら俺の休暇が終わりを告げたようだ。

 せっかく住み心地のいい場所が確保できたのにな。

 俺の夢だった自給自足工房ライフが、たったの1週間で幕になるなんて…。


 まあ、転移でいつでも戻ってこれるからいいか。


 「よし、じゃあまずは作戦会議だな。木屋町に戻ろう。」


 そういって俺は、木屋町のペントハウスに転移で移動した。


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