人生は何があるかわからない
鹿山祐也、今年で大学1年生となった男だ。生まれは東京都内。しかし彼の地元の駅には駅員はいない。つまりは無人駅。つまり田舎である。東京でも端の端のほうへ行けばすぐに畑が見えてくるものである。そんな彼は上京といっていいのかわからないが、上京した。そしてコンクリートのビルが乱雑に立ち並ぶ都心で、大学に近いワンルームの格安物件を幸運にも見つけ彼は意気揚々と引っ越してきたのである。
引っ越しの片づけはとりあえず明日からと、布団と歯ブラシ等々一晩越すに必要な品々を部屋に広げ風呂に入りコンビニで買った夕飯を食べ、よし寝よう、と寝床についた。
その次の瞬間から、彼の人生は普通のものとは違うものになろうとは今この時は思いもしなかっただろう。
(ん?なんか息苦しいような・・・何かが乗ってるような・・・)
トタタタタ・・・
(それになんだ?変な音が聞こえる・・・)
祐也はそっと目を開けた。すると自分の布団の上に乗っかってるなにか目に入った。しばらく凝視していた祐也だったが影は祐也の顔の近くまで迫ってきた。
(ななななん・・・!?)
「うらめしや~!」
暗闇に慣れてきたのと、あまりに近くに来られたため見えた影の正体は、満面の笑みで言ってる言葉とは裏腹に嬉しそうな声を上げた・・・男だった。
ドガッ!
反射的にそれを布団ごと投げ飛ばした祐也は、すぐさまあまりの出来事で思わず真顔になったまま部屋の電気をつけ、投げ飛ばしたほうをすごい勢いで振り返った。
「いって~ひで~初対面でなげとばす~?」
勝手に人の布団の上に乗っかってきた不審者の言い分とはとても思えぬことを抜かすこの男に、万が一のために持ってきた、修学旅行の時にノリで買った木刀を構え半分混乱気味に叫んだ。
「意味わかんないこと言ってんじゃねぇ!てめぇ誰だ!?警察と救急車呼ばれたくなきゃさっさと出てけ!」
「いや、救急車いらなくない?」
相手の冷静なツッコミにあ、確かに、と納得しかけたが祐也は頭をふって再び相手を睨みつけた。
「も、もしかしてどろぼうか!?金か!?一応言っとくが田舎からはるばる上京してきたてのこのオレ様にそんなもの期待すんなよ!?」
警戒心むき出しの祐也に対して相手からは全く焦りも恐怖も感じてこず、ただ楽しそうに笑っている。ただ今の状況下ではむしろそれで和むどころか恐怖のほうが高まる。
「ははは。違うって。僕はさ、あれなんだよ」
そこですっくと立ちあがると男はばっと両手を広げ、
「僕は・・・幽霊なのさ!」
ちょっと間をおいてかっこつけ、宣言のようにそう言った。
しばらくの沈黙の後、祐也は静かに枕元に置いておいたスマホを拾うと感情の抜け落ちた顔で画面を操作しだした。
「やっぱ警察と救急車いるな、え~と確か番号は・・・」
「ちょちょちょちょ—――っと待った—―!」
男はあわてて、本気で電話を掛けようとする祐也を止めるべく駆け寄ってきたが、祐也はそれを見てすばやく木刀を構えた。
「ほらみろ!やっぱ通報されたくねぇんじゃん!これでもちっちゃい時から段は取ってないものの剣道やってたんだ!簡単にやられると思うなよ!」
「あ~も~ちょっと落ち着いてって!わかったから!証拠見せるからよく見といてよ?」
男はそういうとよっ、と掛け声とともにジャンプし、着地を・・・しなかった。
「・・・は?」
男はジャンプというのには高すぎる天井まで飛びあがり、そこで風船のようにふわふわ浮かんだのだ。おもむろに祐也の頭に幼稚園の先生に将来の夢について聞かれたことがある。それに自分は空を飛んで雲綿あめを食べるんだとか何とかいったような~、と現実逃避ののち、彼はこの状況に結論が出た。
「・・・ああ、夢か」
「ええ!?違うって!ああ、布団に入んないでよ~」
突然の出来事過ぎて頭がスパークし、祐也はもそもそと布団の中に潜っていこうとしたが、いまだふわふわ浮かぶ男に腕をつかまれ、無理やり布団から引っ張り出された。
「いや、夢だ。こんなことがあってたまるか!」
「現実だって!いいじゃん、幽霊に会えるなんてなかなかないよ?」
「なくていい!」
言い合いと現実逃避につかれた祐也は大きくため息をはき、
「もういいや・・・でさ、お前誰なんだよ」
どうやらふざけたものいいといいただへらへらとしている様子を見るに悪意ある相手ではないようなので、あきらめたようなうんざりしたような顔で祐也は冷静に質問しだした。
「ああ、僕は白之蒼。死んだのは20歳で幽霊になってから10年は経ってるけど歳はとってないよ~」
「ま、まあ幽霊・・・だしな。つかこれで俺と2歳差で年上かよ。つか変なこと聞くけどなんで死んだの?」
「ここ2階じゃん?だからどうしても外の急な階段上らなくちゃいけなくてさ~で、上ってたら途中で階段に上ったはいいが降りられなくなっちゃってる子猫がいてさ~やれやれって抱き上げて1階に下ろしたげよと思ったら足踏み外して下へ真っ逆さま~それで頭強打しちゃって気づいたらここで幽霊になってたってわけ」
なかなかに重い話をさらっと話した蒼は顔を引きつらせる祐也を前に相変わらず楽しそうに笑っていた。
「いや、突然死んじゃったわけだけど、その、悔いとかなかったの?」
(いや、なに言ってんだ!?ほかに励ましの言葉とかかけるべきだろ!)
しかし普通死んだ人間と話す機会などはっきり言って絶対ないのでどう答えればいいのかわからないのは仕方ないといえばそうだろう。冷や汗をかきながら自分にツッコミを入れてる祐也に気づくことなく蒼は平然とえ~、と頭をかいた。
「悔いね~あることはあったけど、最近なくなったかな~」
あまりはっきりしない言葉に祐也は首をかしげたが、次の言葉を発する前に響いたがりがりという音にびくちと肩を震わせた。
「なななに!?お前またなんかやってんの!?」
「いや、僕じゃない。あ~またやったなスー」
「スー?」
蒼の視線の先を見ると毛並みのいい白い猫がまだ開けていない祐也の荷物の入った段ボールを爪とぎ替わりにしてボロボロにしていた。
「NO――!おいこら!なにやってんだ!」
祐也は思わず猫を捕まえようと手を伸ばしたが猫はするりとかわし祐也の頭を台にして蒼のもとに駆け寄り膝にのるとくるっと丸まった。
「おい・・・さっき話してた猫って・・・」
「うん、この猫だよ。あ、でも一緒に落ちて死んだんじゃないよ?スーは小さいほうだったし僕の腕の中で無事だったんだ。その後いい飼い主さんとこで飼われて寿命尽きた後同じように幽霊になって僕の所に来てくれたんだ」
なかなかいい話ではある。しかしそのあとこの部屋に越してくる人すべての荷物や家具をボロボロにしてきたという事実を聞くと目が細くなり眉を寄せてしまうというものだ。
「このやろう・・・ずいぶんな破壊魔だな・・・ということはさっきの何かが走り回る音はこいつか・・・」
「ああ、それはあっちだよ」
蒼の指さした先には小さな湯呑があった。しかしそんなものは祐也は持ってきた覚えはなく不思議に思って近づこうとした瞬間、湯呑が立ち上がった。
「おう!?」
思わず変な声の出てしまった祐也だったが手足の生えた湯呑はその声に驚いたのか、目をぱちくりさせるとさっきと同じように、
トタタタタ・・・
軽快に走っていき部屋の隅のほうまで行ってこちら側をじっと見つめてきた。
「・・・蒼、あれはなんだ?」
もはや驚くことは疲れるだけと判断した祐也だが意味不明な歩く湯呑の正体くらいは知りたい。
「いわゆる付喪神ってやつだよ。このアパートが建つよりももっと昔にこのあたりに住んでいた人に使われてたらしいんだけどその人も亡くなって放っとかれてとうとう動けるようになったんだって」
幽霊男に幽霊猫さらに付喪神なんてものまででてきたこの普通じゃない状況下で、
「もう・・・どうでもいい・・・」
引っ越しの疲れも加わり祐也は気絶するように意識を飛ばしたのだった。
チュンチュン
朝のさわやかな日差しと鳥の鳴く声にぼんやりと目を開けた祐也は同じようにぼんやりとしている頭で今日やることを考えていた。
(大学に行くのは来週・・・今日は荷物と部屋の整理・・・あと・・・)
頭に朝食のイメージが広がったが、
ニャーン!
その声と共に皿の上のほかほかのごはんやらおかずやらが一気にねこまんまのイメージに代わった。
(猫のごはん・・・猫?)
ガバッ!
瞬間的に昨夜の珍妙な出来事が頭をよぎり祐也は一気に目が冴え勢いよく起き上がった。あわてて周りを見渡すと目の前に猫のスーがやっと起きたか、というかのような顔で大きくあくびをして台所のほうへと歩いていった。
「・・・・・・・夢じゃなかったのか?」
眉をひそめる祐也の耳にトントンという音が聞こえてきた。この部屋は祐也だけの一人住まいのはずである。掛け布団を放り出してなぜか布団の横に置いてあった木刀をつかむと半分転びそうになりながら台所に駆け込んだ。
「あ、おはようございまっす~もう10時っすよ~」
蒼がどこから引っ張ってきたのか、祐也が絶対使わんといっても無理やり母に持っていかされた青いお魚がでかでかとプリントされている黄色のエプロンを身に着けニンジンを切っていた。
「いや、お前・・・なんでまだいんだよ―――!」
勢いで木刀を振り落とすと蒼は慌てて包丁を投げ落としはしっと木刀を両手で受けた。
「ちょちょ!危ないって!」
「うるせー!昨日の夢じゃなかっただけでもショックなのになんでいろいろツッコミどころのあることしてんだー!」
「ええー!なんかしました?あ、このエプロンと包丁とまな板は段ボール全部開けて引っ張ってきました~食材は冷蔵庫の中からです!」
「それがツッコミどころだと・・・え!?段ボール全部開けた!?」
祐也は慌てて台所を出ると段ボールから飛び出た衣類などなどいろんなものがぐっちゃぐちゃに散乱していた。先ほどはそれどころではなく見過ごしてしまっていたのであった。
散乱した山を前に呆然と立ちすくんでいた祐也の後ろから蒼は恐る恐るといった風に顔を出した。
「えっと~な、なんかすみません」
人は怒りや驚きなどといったたくさんの感情が沸き上がりそれがピークに達すると冷静になりなんだかどうでもよくなる気持ちになると誰かが言っていた。
「ああ・・・もういいわ・・・というかお前さっきから人のエプロン盗んで何やってんだ?」
「盗んでないってば~朝ごはんつくってただけ!」
「朝ごはん?」
冷静になってみるとなにやらいい匂いが鼻をかすめた。祐也は台所へと再び入っていくとまたどっから引っ張ってきたのか鍋と炊飯器からあたたかな湯気がのぼっていた。
「なにこれ、味噌汁?」
「はい!僕母子家庭で育ったせいか家事は基本何でもできるんですよ。あと卵焼きつくろうと思うんですけどしょっぱいのと甘いのどっちがいいですか?」
「あ~・・・しょっぱいの」
「わかりました!すぐ作るんで待っててくださいっス!」
なんやかんやでリビングに押しやられた祐也はしばらく呆然と立ちすくんだ後、昨日のうちに出しておいたテーブルの前の座椅子に座り大きく息を吐いた。
(あれだ、あとで大家さんに話聞きに行こう。悪い奴じゃないみたいだしせっかく面倒な食事を作ってくれるんだ。追い出す追い出さないは後で考えよう)
しばらく天井を見上げながらそんなことを考えてると「できたっすよ~」という声と一緒にほかほかのごはん、玉ねぎと大根の味噌汁、そしてきれいな黄色の卵焼きが運ばれてきた。
「さ、どうぞっす~!」
得意そうに笑う蒼にぎこちなく「あ、ああ・・・」と答えると卵焼きを一口、口に入れた。
「・・・俺、しょっぱい卵焼きって言ったんだけど」
「あ、砂糖と塩間違えちゃった~」
「ベタな間違いするな・・・」
口に入れた瞬間、ふわっとした甘さが広がった。甘いものが嫌いなわけではないが卵焼きが甘いのはあまり好きではなかった祐也だが、この卵焼きはしつこくなく、もっと食べたいと思える優しい味だった。
「すんません!もう1回作り直しますか!?」
「・・・いや、卵もったいないし、この卵焼きはおいしいからいい」
祐也は正直にそういうと、蒼はきょとんとした顔をして、そして嬉しそうに笑った。
祐也はその顔に思わず出た言葉に気づき、ばつの悪い顔で目をそらした。その先にはちょうど湯呑がいてじっと祐也のほうを見つめてきていた。
「な、なんだよ」
「ん?ああ、湯呑っすか。湯呑はお湯かお茶を入れてくれてほしいんですよ~ほら、ゆ・の・みだから」
「どっかのかわいこぶりっ子女みたいにいうなよ・・・でもそうか、じゃあ」
祐也はそういって立ち上がると台所の中へと消えていき、なにか作業してくると戻ってきた。
「今お湯沸かしてるからさ、沸いたらお茶入れてやるよ」
そういうと湯呑は目だけなので表情こそ分からないものの目を見開きぴょんぴょん飛び跳ねて喜びを伝えてきた。
「ちなみに飲んであげても喜ぶよ」
「ええ!?い、いやお茶を入れてやるのはいいけどこいつで飲むの?」
改めて湯呑を見ると話を聞いてたのか期待に満ち溢れた目でじ―――と見てきた。
「・・・・・・わかったよ」
祐也の言葉に湯呑はまた喜びの舞を舞いだした。
「はあ、まさか動く手足付きの湯呑で茶を飲む日が来るとはな。あれか?やっぱもとが湯呑だから湯呑として使ってもらうとうれしいってことか?」
「そうだね~もとの持ち主の人がそもそも作ってくれた人みたいで大事に大事に使われてたらしいから」
祐也はそれになるほど、とうなづくと再び卵焼きを口に入れた。
「じゃ、ちょっといろいろ行ってくるから部屋、絶対!荒らすなよ。あと出ていくなら出てっていいからな」
「わかってるよ~行ってらっしゃ~い。出てかないから安心して~」
安心できるか!という言葉を必死に押しこみ眉間のしわを濃くしながら玄関の扉を閉めた。祐也は閉めた202と書かれた扉を見て小さくため息をはくと急な階段を下りていき、1階の103号室の大家の隆喜の部屋へと尋ねた。
「やはり出ましたか」
事情を話すと1番最初に隆喜はそういった。
「え、知ってたんですか?」
「私は見てはいないんですがね。あの部屋はよく住民が変わる部屋でして、他は大丈夫なんですが幽霊が出たとか食器が走ったとか気味悪がって住人がなかなか落ち着かない部屋なんですよ」
確かにいわくつきの物件だという話は祐也も不動産屋で聞いていた。しかし実際不動産の人と部屋を見た時は特に何も出ないし何も起こらなかった。だからこそ特に心配はしなかったのだが、あんな堂々とした幽霊がいるなんてことは聞いていない。
「しかしそうですか、幽霊は蒼君だったんですね」
隆喜は懐かしそうに、しかしどこか寂しそうにお茶をすすった。
「え、今まで幽霊の正体を知らなかったんですか?」
「はい。私自身は見たことありませんし今まで幽霊を見たと言って引っ越していった人は気が動転していて逃げるように去っていきましたから」
「そんな怖い奴じゃないですけどね。まあ、最初こそ驚いて掛け布団ごとぶん投げてしまいましたけど」
祐也の言葉に隆喜は驚いたように目を見開くと豪快な笑い声をあげた。
「はっはっは!そうですか、ぶん投げてしまいましたか!ははは!」
「は、はあ・・・」
祐也はなぜそんな笑うことなのかと不思議そうに首を傾げた。
「いやはや、すみません。私も今年で70になりますが40のころからここで大家をやっとりますから蒼君のこともよく知っとるのです。蒼君は優しいがどこかおっちょこちょいな子でした。でも、よく買いすぎた食材を差し入れすると喜んでくれて、あの子も作った料理を分けてくれたりするいい子でしたよ」
さきほどの朝食のおいしさから確かにあのうまいのをくれたらうれしいだろうなと心の中でうんうん、とうなづいた。
「でも腕っぷしはなかなかに強くて昔3、4人のチンピラに絡まれたとき助けてくれましてね、だからぶん投げられる姿など思い浮かびもしなかったもんで笑ってしまいました」
ははは、と笑う隆喜に祐也は笑い返すもひきつった顔はなかなか取り繕えなかった。
(ええ~!あいつそんな強いの!?あんなへらへらしてるやつが・・・)
思い返せば木刀向けられてもへらへらしてたし、朝台所で思いっきり木刀を振り下ろしても両手とはいえ軽々支えていた。思えばあれは強いからこその余裕だったのだろう。そう考えるとなんだかムカついてきたので祐也は帰ったら絶対殴ってやろうと手に力が入った。
「でも初めてですよ」
「え?」
突然の隆喜の言葉に祐也の目が点になった。
「こんな冷静に訴えてきた人ですよ。今までの住人はまともに会話できないほどでしたから。幽霊の蒼君と話したのも猫の幽霊と付喪神がいると教えてくれたのも」
「気が狂うほど怖くはないですけどね。ほかの人はどれくらいで引っ越しを?」
「そうですね~長くて1か月です。祐也さんの前の方は1週間で出ていきましたよ。それから1年ほどずっと空き家でした」
「そ、そうなんですか。じゃあお聞きした話だと特に害は・・・猫に段ボールを爪とぎ替わりにされたり無理やり荷物をあさられたりする以外の害はないんですね?」
昨夜と朝のことを思い出し頭を押さえながら聞くと隆喜は小さく笑いながらはい、と答えた。
「どうしても御嫌であればちょうど同じ2階ですが、空きがありますよ」
隆喜の言葉に祐也はしばらく思案した。段ボールをひっかく猫、突然布団の上にのってきて朝飯をつくるひ弱そうなのに実は強い幽霊男、動き回る湯呑・・・祐也の頭の中で、今現在部屋にいるであろう非日常たちの存在が駆け巡り祐也は、小さく笑みを浮かべた。
「いえ・・・害はないのであればとりあえずはこのままで過ごしてみます」
祐也の言葉に隆喜は少し目を大きくさせ、そして顔をやわらげそうですか、とそれに答えた。
祐也はお礼を言い隆喜の部屋を去り2階へ続く階段を上り、202と書かれた自分の部屋の扉の前に立つと大きく息を吸い込んだ。
(なんで部屋変えてくれって言わなかったんだろうな・・・でもさ、)
祐也はカギでかちゃっとロックを解除し扉を開けた。すると目の前にスーを抱えた蒼の顔がドアップで現れた。
「うお!?ちょ!なにやってんだよ!」
「え?出迎えですよ~カギが開く音したんで~」
「こんな衝撃的な出迎えいいわ!普通に玄関先で立っとけばいいだろが!」
祐也は驚きのあまり後ずさって、というより飛びのいてしまった。今祐也は驚いた猫が毛を逆立たせてシャーと威嚇している気分が同情心が沸くほど理解できた。
「いや~少し刺激的なのもいいかな~と」
「ある意味刺激的だわ・・・主に俺の寿命に・・・」
やれやれと下を向くと湯呑が早く茶を入れろとトタタタ祐也の足の周りを走り回っている。祐也はそんな彼らに困ったように頭をかきながら、しかし口元には小さな笑みを浮かべ、部屋の中へと入っていった。
(こんな面白い連中と過ごす毎日ってのも面白そうじゃないか?)