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第93話 人は抗い傷痕を残す

今日のツェンタリアさん

「絶対に許しません」

●依頼内容「2国の裏切り者を殺せ」

●依頼主「パラディノス国王ヴァリスハルト・フェイグファイア国王ノイ」

●報酬「300万W+200万W」


「さーてどうするかねぇ」


 俺は頭を掻きながら状況分析を始める。


 まずツェンタリアVSジーンバーン、こちらは普通にやりあえばギリギリでツェンタリアが勝つだろう。ただし相手は普通という言葉からは程遠いジーンバーンである。十分な注意が必要だ。


 次にメイサVSバンドゥンデン、こちらは普通にやったらメイサがボロクソに負けるだろう。このことから考えるに俺が戦いに加わるべきなのはメイサの方であることは明白だ。


 だが、俺は「メイサ親父さんの弔い合戦だからなぁ……」とため息をつく。いくら普通にやれば負けると言っても俺が最初から最後までヤってしまったのではメイサの立つ瀬が無い。せめてなんとか最後のトドメくらいは刺させてやりたい所なのだが……俺は頭のなかで色々と考えた末、ポンと手をたたく。


「よし、この手で行くか」


 そう言って俺は王扇ブァンを取り出し一振りした。発生した竜巻によって倒れていた木がド派手に舞い上がり、元フォルストルだった広場の真ん中にドシドシと重なっていく。数秒後には木によって広場を二分する壁が作られていた。説明しておくと、こちら側にはメイサとバンドゥンデン、あちら側にはツェンタリアとジーンバーンがいる形である。


「これは珍しい、ジーガー君もミスをするのですね」


 それを見ていたバンドゥンデンがニヤニヤと笑う。なぜかと言うと木の中に隠れていた亡者とジーンバーンの分身達が全てこちら側にボトボトと落ちてきていたからだ。


「その中のどれかがジーガー君の手をすり抜けてこちらの戦いに加われば勝利は確実です。しくじりましたね」


 だが、これはミスではない。俺はニヤリと笑ってバンドゥンデンに言葉を返した。


「そんな万に一つの可能性に賭けないといけない雑魚は大変だな」


 そう言って一番に襲い掛かってきたジーンバーンの分身の体に貫手で穴を開ける。


「数は亡者と愚者を合わせてざっと200人ってところか……少ねぇな」


「愚者だと!?」「引き裂き殺してやる!」「ふざけるなジーガー!」「正確には236人だ!」「ザ・美学!」


 俺の発言を聞いたジーンバーン共がやいのやいの言い始める。しかし、俺は無視して更に挑発する。


「テメェら糞雑魚相手に武器は使わねぇ。黙って地面に這い蹲りたい奴からかかってきな」


 ジーンバーン達が激昂して襲い掛かってくる。よしよし、これでジーンバーン達が俺を無視してバンドゥンデンの加勢にいく可能性は減った。俺は「あとは亡者だな」と周囲を見渡すと、亡者は迂回しつつバンドゥンデンの方に走っていた。


「チッ、愚者と違って亡者は賢いな!」


 俺はこれ見よがしに舌打ちをしながら近くのジーンバーンを思い切り蹴り飛ばして星にした。しかし、第2第3のジーンバーンが俺の目の前に現れる。


「邪魔だボケコラタコ……ッスゾ!」


 それを投げ飛ばして亡者にぶち当てた。大量に吹っ飛ぶ亡者達。だがしかし1匹だけ無傷な亡者がいる。直接行ってぶん殴ろうにも第4第5のジーンバーンに阻まれ亡者の元までたどり着けない。あと数メートルで亡者がバンドゥンデンの元に到着する。


「クックック私の勝利です!」


 バンドゥンデンの顔が歓喜で醜く歪む。一方でメイサの顔が引きつる。そして俺はというと……


「バーーーーーーーーーーーーカ!」


 爆笑しながら俺が印を結ぶと亡者からボワンと煙が出た。そしてその煙の中から俺の分身が姿を現す。


「なっ!!!!????」


 予想外の出来事に顔が引きつるバンドゥンデン。そう、わざわざド派手に木を舞い上がらせたのも、こちらに大量のジーンバーンと亡者を落としたのも、これみよがしに舌打ちしたのも、1匹だけ無傷な亡者がいたのも、全てこのための伏線だったのである。


 俺の分身はそのままバンドゥンデンの懐に潜り込み悶絶の一撃を腹に叩き込んだ。


「有言実行だろ? 『テメェら』糞雑魚相手に武器は使わねぇ」


 俺の分身はそう言い残して消え去った。


「ぐぅぁ……だっだがまだっ!」


「いいえ、これで終わりだわさ」


 バンドゥンデンが体勢を立て直そうとしたが、それよりも早くメイサの小刀によって首を切断されていた。


◆◆◆◆◆◆


 バンドゥンデンが倒れた後、こちら側で行こなわれたのはワンサイドゲームだった。戦いを終えたメイサが近づいてくる。俺は右手をシュタっと挙げて笑った。


「よぉ、さすがの反応だったな」


「あの場面であたちが気付くように分身の術と変化の術を選択するとは見上げた戦術眼だわさ」


「その2つの術ならバンドゥンデンより早く気付いてくれるだろうと思ってな」


 俺は『実力差があっても自分がよく使う術ならばメイサの方がバンドゥンデンより見抜くのが早いはず』と考えたのだが、目論見どおりだったというわけだ。


「ところで、コレ本物か?」


 俺がバンドゥンデンの死体を指差すとメイサが頷いた。


「バンドゥンデンは大事な取引の時は必ず本人が現れるんだわさ。それに……」


 メイサが小刀でバンドゥンデンの服の背を裂くと、ひっかき傷が見えた。


「親父が最後まで運命に抗った証があるだわさ」


「そうかい、そりゃ良かった」


 そう言いながら俺は木でできた壁を見やる。


「あのツェンタリアって子は大丈夫なんだわさ?」


「普通にやれば、な」


 俺はメイサにこちら側の始末を任せて跳躍し、壁の上に立って向こう側を見下ろした。


■依頼内容「2国の裏切り者を殺せ」

■経過「パラディノスの裏切り者は始末した。残りはフェイグファイアの分だ」

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