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第92話 『復讐はいけない』だと? それは本人が決めることだ

今日のツェンタリアさん

「ビーネさんとジーンバーン……ペアルックというか同じ系統の服を着るというのはちょっとうらやましいですね」


「ヴァリスハルト様というのは悲しい方なのですね。いえ、私も状況が違えば、ご主人様に出会わなければ天涯孤独だったのかもしれませんね……天涯孤独な馬、略して天馬。ちょっとかっこいいですね」

●依頼内容「2国の裏切り者を殺せ」

●依頼主「パラディノス国王ヴァリスハルト・フェイグファイア国王ノイ」

●報酬「300万W+200万W」


「メイサ君、それはいったい何の真似だい?」


「忍者として働いてるだけだわさ」


「お前がパラディノスのヴァリスハルトに使った手だろ。まさか自分がやった事をやり返されるとは思わなかったとでも言うつもりか?」


 凄みを利かせるバンドゥンデンに対してメイサが鼻で笑う。そして俺は煽る。


「死ねええええ! ジイイイイガアアア!」


 俺の言葉を遮って向かってきたジーンバーン(本物)の魔手鈎ヴィンデンを、木の上から降りてきたツェンタリア(本物)が空槍ルフトで止める。


「ビーネさんと眠るのはご主人様ではなく貴方です!」


「俺が……あの女と一緒に眠る? ふざけるなっ!」


 ジーンバーンがバックステップで距離を取って皮肉たっぷりに笑う。


「俺はあの女のことなんてなんとも思っちゃいない!」


「へぇそうか? お似合いだと思ったんだがな」


「ふざけろ! 俺は人を見るときには1つの観点からしか見ない。つまり戦いに勝利するためにそいつが働くかどうかだっ! 俺の思うとおりに動かないのなら勝手にくたばれ!」


 その言葉を聞いたツェンタリアから殺気が漏れ始める。


「……ご主人様には本物以外のジーンバーンをお任せしてよろしいですか?」


「おぅいいぜ、だが……」


 今ジーンバーンはツェンタリア最大の地雷を踏みぬいた。それは人を道具扱いすること、これはツェンタリアが昔グラウベリオンにて受けていた行為から発生した地雷だ。


「残念なことに、もう終わってんだ」


 俺がツェンタリアの言葉にそう答えるのと同時にジーンバーンの横にいた分身が倒れる。先ほどついでに切っておいたのだ。


「ありがとうございます。では、すぐ終わらせますっ!」


 そう言ってツェンタリアはジーンバーンに突っ込んでいった。今の実力ならギリギリツェンタリアが勝つだろう。俺は懐から紙を取り出して飛行機を飛ばしたあと「さーてと今度はこっちが問題だな」ともう一人の標的バンドゥンデンの方に顔を向ける。


 すでにバンドゥンデンの方でも戦いが始まっていた。


◆◆◆◆◆◆


 バンドゥンデンは埋伏させていた亡者たちを指揮してメイサを狙う。対してメイサは分身からの手裏剣によって亡者をなぎ倒していく。亡者任せと自分頼り、中々に好対照な戦いだなと俺は感心する。


「手伝ってやろうか?」


 木に着地したメイサの横に俺は移動して尋ねる。するとメイサはブンブンと首をふって答えた。


「イラナイだわさ! コイツはアタチが倒さなければならないんだわさ!」


 その表情には余裕がない。バンドゥンデンが手強いってのもそうだが、どうにもそれだけではないようだ。


「その感じ、復讐か?」


 俺の言葉にメイサがビクッと体を反応させる。


「……やっぱりか」


「な、なんでわかったんだわさ!?」


「そういうおっそろしい表情は戦場で何回も見てきたからなぁ」


 俺はなるべく雰囲気が重くならないように軽く喋る。その間にも魔力を込めた飛行機を飛ばして襲ってくる亡者たちをなぎ倒している。そんな俺の横でメイサがポツリと呟いた。


「……マリローゼ号」


 俺は察しがいい方である。メイサの一言で大体の事情は察した。


「船長か?」


 メイサはコクリと頷く。


「だからあたちは素性を隠してヴァリスハルトに自分を売り込み、バンドゥンデンに取り入ったんだわさ!」


「なるほどなぁ……」


 そう言って俺はアップルグンド特有の曇天に向かって手をかざす。するとズガーンという音とともに雷が俺めがけて落ちてきた。それを金属バットで受け止める。


「だったらなおさら手伝わないとな」


 俺はそういったあとスゥっと息を吸い込み「ツェンタリアァ! 地面に伏せろぉ!」と声を張り上げる。


「!?」


 何かを感じ取ったバンドゥンデンも地面にへばりつくように伏せた。次の瞬間、フォルストルの全ての木が巨大な剣のオーラによってぶった斬られた。地面に着地したメイサは倒れていく木々を呆然とした表情で見ている。


「こ、これはどういうことだわさ!?」


「良かったな。パラディノスだけじゃなくエアルレーザーの国王もお前の復讐を応援してくれるってよ」


 俺が先ほど雷を金属バットに落としたのは強化するためだけではない。あの雷はフォルストルの入り口に待機していたエアフォルクへの合図でもあったのだ。金は出さなくていいから必殺技を一発だけ貸してくれと頼んでおいたのである。


「さーて、これで見晴らしも良くなって逃がす心配もなくなっただろ? 存分にやるといい」


 俺は入り口立っているエアフォルクに手を降ったあと、メイサの背中をポンと叩いた。


「ジーガー……恩に着るだわさ!」


 初めて俺に対して笑顔を見せたメイサを「おぅ行って来い」と笑顔で見送ったあと、ため息をついた。


「それにしてもクオーレの奴め、どんな神経してやがるんだ」


 あの野郎、マリローゼ号の犯人を絶対に許さないと言っておきながらバンドゥンデンと手を組みやがった。


 そんなものが天然物の欲望だというのなら俺は養殖物で十分だ。


■依頼内容「2国の裏切り者を殺せ」

■経過「平行戦の始まり」

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