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第90話 世界一儲けた男

今日のツェンタリアさん

「いきなり会議室から悲鳴が聞こえた時は驚きました。そしてエアルレーザーの中枢にすら入り込む亡者には更に驚きました……」


「それ以上に驚いたのは普通にエアフォルク様の部屋にいるさっちゃんですよ。しかもこの部屋……ベッドが1つしか無いじゃないですか!? 『愛し合う2人が一緒に寝るのは常識じゃん』? 理解デキマセンネ、ドコノ国ノ言葉デスカ?」

●依頼内容「クオーレの屋敷を調べよ」

●依頼主「パラディノス国王ヴァリスハルト」

●報酬「200万W」


「よかろう」


 パラディノスの国王ヴァリスハルトがあっさりと了承し三国の同盟は成就した。このあたりワンマン国家は意思決定が早くて助かるな。俺が「随分と簡単に賛成するんだな?」と笑いながら尋ねるとヴァリスハルトがムッとした表情で答える。


「しなかったらしなかったで文句を言うくせによく言うわ」


「まあな」


「否定はしないのですね」


 俺とヴァリスハルトの言葉のドッジボールを横で見ていたツェンタリアが呆れる。


「カーカラックの指揮権を奪う方法を持った相手を駆逐したいと思うのは当然じゃと思うんだがのぅ」


「利害が合致し過ぎだからこそ疑われるって事もあるのさ」


 なにしろヴァリスハルトだからな。


「なるほど『完璧勇者にも欠点があるはず』例えば性格が実は外道であって欲しいと願う凡人の気持ちじゃな?」


「アンタもそう思ってるのか?」


「アホ、ワシは外道などとつまらん事は願わん。糞外道であれと思っておるよ」


◆◆◆◆◆◆


「グオオオオオッ!」「グオオオオオッ!」「グオオオオオッ!」


「大層な出迎えですね」


 ツェンタリアが顔を上げながら呟く。ここはクオーレの屋敷へと続く、崖にこびり付いたような細く曲がりくねった道だ。同盟を締結したあと俺はヴァリスハルトから『クオーレの屋敷を調べよ』という依頼を受けた。どうやらヴァリスハルトも独自に調査を進めクオーレが怪しいと睨んでいたらしい。


 そしてクオーレもその事は重々承知していたらしく守りを固めていたというわけだ。


「雪の巨人ジュネール、土の巨人ディゲール、草の巨人グレースの咆哮三重奏とは豪華なお出迎えだな。しかも三匹とも全員『正装』してやがる」


 三匹の巨人はそれぞれ金属製の装備で身を固めている。俺は右手をスナップして火傘ジルムを取り出しながらツェンタリアに「土の巨人は任せたぞ」と指示を出した。ツェンタリアは「了解しました」と氷杖リエレンを構える。


「分かってるとは思うがあの鎧は万能炉テアトルで作られたもんだ。どういう性質をしてるかは分からねぇから気をつけろよ」


「はいっ!」


 そう言って俺達はそれぞれ担当する巨人に向かって火と氷の一撃を御見舞した。


『グオオオオオッ!』


 だが、正面から攻撃を受けたにも関わらず巨人たちは怯みもせず右手を振りかぶってコチラを狙う。


「効いてませんね」


「ま、クオーレも馬鹿じゃねぇから対策くらいするわな」


 俺達は巨人達の一撃を飛んで避けた。少し遅れて俺達の立っていた場所が粉々に砕かれ暗い谷底にガラガラと落下していく。俺は「屋敷に繋がる唯一の道を断つとはクオーレも背水の陣なのか。それとも」と考えながら無事着地。


「あの鎧には属性攻撃を無効化する能力を付加されているのでしょうか?」


 ツェンタリアの予想に俺は頭を掻きながら頷いた。


「まあそんなところだろうな。全く……シッグ爺さんですら1つの属性を無効化にするペンダントを作るのが精々だってのに」


「正直スイデンに比べるとテアトルの事を軽視しておりましたが、評価を改めなければなりませんね」


 ツェンタリアが頬を伝う冷や汗を拭う。。


「そりゃそうだ。今まで脳筋国家にあったから適切に使われてなかっただけで、俺はテアトルの方が厄介だと考えてるぞ」


 俺はそう言いながら左手をスナップし火傘ジルムをしまい、宝帯ファイデンを取り出した。それを見たツェンタリアが首をかしげている。


「どうした?」


 俺の問いかけにツェンタリアが慌てて答える。


「い、いえ。こういう場面ですと最近は死剣アーレが出てくる事が多かったので……」


 なるほど言われてみると確かに最近死剣アーレを使う事が多い。まあそれだけ強敵(と言っても俺と比べて隔絶した実力差はあるが)と戦う場面が増えてきたということなのだろう。敵を倒すという点において死剣アーレ以上の武器はないからな。だがしかし今回はちょっとだけ状況が違う。


「今回は倒す他に目的があるんでな」


 そう言って俺は跳躍して宝帯ファイデンを三匹に巨人めがけて網のように投げた。


『グオオオオオッ!?』


 三匹の巨人に近づくに連れてドンドンと大きく広がる宝帯ファイデン。巨人達はそれを拳で貫こうとするが拳ごと包まれてしまう。


「残念だが、そんななまくらな拳で破ける代物じゃねぇよ」


 俺がそう言って巨人全体を包み込んだ包帯ファイデンを引っ張る。すると巨人達を包んでいた布が一瞬で雑巾のように絞られ、包帯ファイデンの下から鎧のみがガランガランと谷底に落ちていった。宝帯ファイデンを最大出力で使い、筋肉どころから骨まで一瞬で吸い取ったのである。


「よーし一丁上がり」


 風を操り崖に戻ってきた俺をツェンタリアが唖然とした顔で見ている。


「ほ、宝帯ファイデンがそこまで強いとは思いませんでした」


「ま、弘法筆を選ばずって奴だ」


「棍棒? まあ確かにご主人様なら棍棒を使っても強そうですが」


「あー、まぁ意味としては間違ってねぇか……さて、それじゃあクオーレの屋敷に行くとするかね」


◆◆◆◆◆◆


「まあそうだろうなぁ」


 俺はクオーレの部屋だった場所でため息をついた。


「巨人達が何の憂いもなく道を壊していましたしね」


 クオーレの屋敷はもぬけの殻だった。残っていたのはクオーレの部屋の中央においてあった手紙一通のみである。


 その手紙にはこう書かれていた。


『養殖物の欲望では天然物の私には勝てまセーン』


「挑発的な手紙ですね。ですが養殖物の欲望とはどういう意味なのでしょうか?」


「……さあな」


 俺は手紙を握りつぶして部屋の隅に放り投げた。


■依頼内容「クオーレの屋敷を調べよ」

■結果「クオーレからの宣戦布告を受けた」

■報酬「200万W」

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