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第89話 踊りも進みもしない会議は不要

今日のツェンタリアさん

「まだ目がチカチカします……あれはもはや色の暴力ですね」


「ルールフちゃんを人質に取るとは……絶対に許しません」

●依頼内容「息子への孝行を手伝ってくれ」

●依頼主「剣王リヒテール」

●報酬「100万W」


「何を迷う必要がある! 今すぐ兵を出すのだ!」


 片腕を失ったとはいえ威力抜群の拳で重厚な円卓が叩かれ、凹んだ。室内に静寂流れる。ここはエアルレーザーの会議室、現在フェイグファイアと組むか否かの会議中である。以前の会議ならば今のリヒテールの一撃で決まった。しかし今は事情が違う。決定権を握っているのはエアフォルクであり、更に敵がアップルグンドのような領土を持った国ではないため5人の議員が難色を示しているのだ。


「言っていることは解ります。ですが敵は国でもなければその規模も定かではありません。注意深く状況を見守ったほうがいいのでは?」「以前ゲルトとかいう傭兵集団が襲ってきた時にはエアフォルク様ではなくリヒテール様が独断で兵を動かしておりました。こういうことは厳に慎むべきです」「そのとおりですな、今度から我々議員の過半数の賛成を得なければ兵は動かせないようにしましょう」「となると法律が必要ですな。名前はどうしましょう?」「『戦時戦力進退法』などはいかがでしょう」「いやいやここは国家総動」


 俺は円卓から少し離れた場所に座って、腕を組みながら5人の老害があーでもないこーでもないと話をこねくり回している様子を眺めている。どんな世界のどんな場所にもこういう輩は存在するらしく、更にそこそこの地位に着いてしまうものらしい。俺は「さーてどう出る?」とリヒテールとエアフォルクの様子を伺う。


「戦いを知らない輩が戦争の法を作るだとっ!? なんだそれは冗談のつもりか!?」


 食って掛かるリヒテールとは対照的にエアフォルクは静かに目を閉じている。


「冗談とはリヒテール様こそご冗談を、これは国民のためですぞ」「そのとおりこの『戦時戦力進退法』は」「勝手に命名するでない慎重に議論をしたうえで」


「帰っていいかぁ?」


 俺が口を挟むと議員たちは色めき立つ。


「別に我々はフェイグファイアとの同盟に反対などはしていない」「そのとおり、議論を深める必要性があると言っているのだよ」「焦ってはいけないこれは大事なことだ」


「ハッ議論を深める間に深手を追うわっ!」


「まあまあリヒテールも議員さん達も落ち着けって」


 リヒテールに内心「上手いこと言うなぁ」と感心しながら俺は両者の間をとりなすふりをする。微笑みながら右手をスナップ。


「それじゃあとりあえずこうしようか」


 俺は間髪入れず右手に持った死剣アーレを振り切る。


「ギャアアアッ!?」


 先ほどから騒いでいる5人の隣に座っている議員が血を流して倒れる。俺はトップスピードにギアを入れて騒然とする会議室の円卓の上に立ち「静かにしろっ!」と怒鳴った。水を打ったように静かになった会議室で俺は死体を指差す。


「コイツの死体を見てみろ。あんたらの中には死体を見たことがない人間もいるだろうが、明らかに異常な中身であることくらいはわかるはずだ!」


 俺の言うとおり、議員の心臓は黒ずみ、胃は縮小しきってしまっている。念のためダメ押しの確認をしておく。


「この顔をした議員が病気だったという話を聞いた奴はいるか?」


『…………』


 顔を見合わせる議員たち。すると先ほどから五月蝿かった5人が口を開く。


「こ、この者は一体何なのだ!?」「我々は脅されていた!」「そうだそうだ!『議論を長引かせなければ5人まとめて串刺しだ』と……」「仕方がないことだったのだ!」「我々は国の根幹を支える議員だ! 命を粗末にはできなかったのだ!」


「たわけ! エアルレーザーの議員ならば卑劣な暴力に屈せず命を捨てて国家が道を誤るのを正すくらいしろ!」


「そ、そんな……」


「父さん、今は僕がこの国の意思決定者ですよ?」


 ここで初めてエアフォルクが口を開いた。表情は微笑みを浮かべている。意気消沈している5人の議員にしてみればエアフォルクが天使に見えただろう。


「皆さんの言うことには一理あります。今まで国家に尽くしてきた忠誠を僕は間近で見ていました。それに『戦時戦力進退法』については目から鱗が落ちました」


「おお、では!?」


 ラフレシアが咲いたような顔をする議員たち。しかし、この騎士王は笑顔でえげつない事ができる人間なのだ。微笑んだまま発した次の言葉で議員たちをぶった斬った。


「ですが『戦いを知らない皆さんが戦争の法を作る』という矛盾を語った父の言葉も真実です。そのため、次のジーンバーンとの戦いでは皆さんに先陣を切って戦ってもらいます」


「ひ、ヒイイイイイ!?」


 震え上がる議員たちにエアフォルクが声のトーンを落として質問する。


「返事は?」


「は、はい…………」


 これでエアフォルクの体制は強固なものとなった。ついでにエアルレーザーとフェイグファイアの同盟も決まった。


 俺とリヒテールはアイコンタクトで作戦の成功を祝った。


■依頼内容「息子への孝行を手伝ってくれ」

■結果「獅子身中の虫退治」

■報酬「100万W」

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