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第86話 勝手に愛に生きて死ね

今日のツェンタリアさん

「あ、ちなみに私はカーカラックと違ってお小遣いの額を不満に思ったことはありませんよ? 戦いの時以外は三食昼寝付のホワイトご主人様です」


「ご主人様が『先に帰ってろ』と言い残して走って行っちゃいましたね。あの無尽蔵なスタミナは正直羨ましいです……もしも私にも同じスタミナがあったなら、おやすみからおはようまでの間めくるめく愛の(以下略」

●依頼内容「カーカラック暴走の実行犯のツラを確認する」

●依頼主「俺」

●報酬「場合によっては魔手鈎ヴィンデンと魔靴ジャルデン」


「ミーとダーリンの愛の逃避行を邪魔するなんて不粋な奴ザマス!」


 白と赤の縦ボーダーなドレスを身にまとったビーネが「ムキーッ!」と地団駄を踏む。俺はそれを見て「よしよし、記憶捜査は成功してんな」と内心でほくそ笑む。


「ジーガァ……」


 体をピッタリとした光沢のある黒タイツで覆ったジーンバーンがその横でもう戦闘準備に入っている。どうやらカーカラック暴走の件について話す気はサラサラ無いようだ。


「相変わらず気の早いやつだな。そんなんじゃ夜も早いんじゃないか?」


 ニタリと笑いながらジーンバーンが魔手鈎ヴィンデンを構える。俺も右手をスナップしてバールのようなものを手に取った。ジーンバーンの堪え性のなさを勘案すれば獲物を前にして我慢できるのは10秒、つまりそろそろ戦闘開始だ。


「大外れだぞジーガー。俺は夕方に起きる生活リズムだっ!」


「そういうわけじゃねぇんだけどなっ!」


 予想通り出会って10秒きっかりで戦闘開始、俺はバールのようなもので魔手鈎ヴィンデンを受け止める。もちろん魔手鈎ヴィンデンと魔手鈎ヴィンデンから飛び散る毒汁に対しては風を操り追い風にすることによって対策済みだ。


「ん?」


 ジーンバーンの変質者じみた顔と相対している俺は、背中側からコチラに向かってくる物の気配を感じた。念のため右に横っ飛びして回避行動を取る。それを見たジーンバーンも舌打ちをしてバックステップした。すると俺とジーンバーンが先ほどいた場所で赤い何かがパーンと弾け、地面がジュワジュワと腐っていく。


「ホッ! おしいザマスね」


 見ると風船を持ったビーネがコチラを見ていた。


「たしかに士突ドンナーの代わりに風船を持たせたが……そうか、武器と認識しちまったかぁ」


 俺はあたりを見回して頭をかく。そこかしこに赤い風船が浮かんでいた。流石に新勇者を名乗ろうとしていただけあって面白い発想してくるな……これじゃ下手に動けない。


「ホッ! この風船はダーリンとの愛の結晶、特殊な材質で作られた風船以外のどんな物でも腐らせてしまう逸品ザマス!」


「嫌な結晶だな」


 俺は「風船じゃなくて孫の手でも持たせときゃよかった」と苦笑しながら左手をスナップ、バールのようなものをしまう。


「臆したかジーガー!」


「んなわけねぇだろアホンダラ」


 とても都合のいいオツムをしているジーンバーンに適当な暴言を返しながら俺は右手をスナップする。取り出したのは王扇ブァンだ。


「さっきまでのそよ風と一緒にしてくれるなよ?」


「覚悟ッ!」


「うぉっとぉ!?」


 俺が王扇ブァンを掲げてそれを振り下ろそうとした瞬間、何者かが後ろから斬りかかってきた。俺はなんとか身をよじって避ける。そして「危ねぇなっ!? 無理な姿勢からぎっくり腰になったらどうしてくれんだよ……」などとボヤきながら体勢を立て直し、斬りつけてきた相手を確認する。


 そこには金属製の兜に鎧に盾に剣に小手にと体全体をフル装備で固めた小柄な剣士の姿があった。このフル装備には見覚えがある。確かクオーレが雇ってる……


「よぉジュメルツ、お前さんが出てきたってことは、ついにクオーレが動き出すのか?」


 ストレートな俺の質問に対してジュメルツはマスクの下から「フフッ」と声を漏らす。


「さぁなんの事かしらね。私はただあの時の約束を果たしに来ただけよ?」


「おいおい……よく覚えてんなぁ」


 ジュメルツの言っている『あの時の約束』とはヴェバイスコロシアムで俺が言った「今度はこんな遊び場じゃなくて本物の戦場でやろうぜぇ?」を指しているのだろう。


「あの戦いのおかげで危うく就職活動に失敗するところだったからね」


 俺と会話しながらジュメルツはジーンバーンとビーネの方に手をヒラヒラさせた。


「……」「……」


 奇抜なファッションの2人組は無言で頷き、先ほど以上のスピードで駈け出した。追おうとする俺の前にジュメルツが立ちふさがる。


「あっちの方角はやっぱりフェイグファイアか。グルなのか?」


「知る必要はないわ。アナタはあの2人を追うことはできないもの」


「ハッハッハ……小物が粋ってんじゃねぇぞ?」


 俺は声のトーンを一気に下げる。今の発言にはチョイとカチンときた。しかし、俺の体から発せられる殺気を受けてもジュメルツは動じていないように見える。


「実力が近い相手なら挑発を使うのも分かるが、俺との実力差はお前には解ってるはずだ」


「フン、何とでも言うがいいわっ!」


 そう言ってジュメルツがこちらに向かってきた。


「自殺をしたがってる奴に手を抜いてやるほど俺は暇じゃねぇし、優しくもねぇぞ?」


 俺は王扇ブァンを一閃、空気の刃を飛ばしてジュメルツを狙う。


「クッ……うおおおおおおお!」


 ジュメルツは盾を構えて空気の刃を受け止める。しかし、勢いは衰えず。盾を構えたまま尚も進んでくる。この辺りはさすがの防御技術だ。


「私はっ! ここをっ! 死守しなければならないのよっ!」


 ジュメルツは更に加速して俺に迫ってくる。もはやその動きは敵を殺すことのみに意識を研ぎすませた獣のようだ。


「身体能力の向上と凶暴化か……いやなもん思い出させやがって」


 以前と比べて格段に速くなったそのスピードと闘気に俺はズイデンを思い出して舌打ちする。その間にもジュメルツは進み、剣が目の前に迫っていた。


「確かに防御技術は1流だ……だが攻撃技術は2流だな」


 俺はスルリと上半身だけでジュメルツの渾身の一撃を避け、腹にコツンと王扇ブァンを当てる。


「武士の情けだ。鎧の中は見ないでおいてやるよ」


「ク」


 ジュメルツが何か言おうとした次の瞬間、鎧の中に竜巻が巻き起こった。


「………………」


 数秒後、ガチャンと音と立てて鎧が横たわった。


■依頼内容「カーカラック暴走の実行犯のツラを確認する」

■結果「実行犯と協力者の素性は知れた」

■報酬「協力者の戦力を削いだ」

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