第85話 『そんな事をしでかすとは思わなかった』身内はみんなそう言うもんだ。
今日のツェンタリアさん
「はぁ、はぁ。あ、いやらしい意味じゃないですよ? それ程までに本気のご主人様についていくのは大変なのです……胸が痩せたらどうしましょう?」
「爆発音……まだまだ世界はご主人様を手放してはくれないようですね。ですが私のすることは決まっています! ご主人様のあとをただひたすらに一途についていくのみです!」
●依頼内容「仮王都を守ってくれ」
●依頼主「パラディノス国王ヴァリスハルト」
●報酬「100万W」
「色々とよくわからないことになっていますね」
「ああ、そうだな」
俺は目下に広がる状況にめまいを覚える。爆発音を聞いてパラディノスの方角へ走った俺とツェンタリアは国内に入った辺りでヴァリスハルトからの依頼を受け取った。飛んできた紙飛行機には『仮王都を守ってくれ』と雑な文字で書かれており、ヴァリスハルトの窮地を予感させたのだが……
「よし、まず1つずつ整理していこう。確かベルテンリヒトが去った後には大きなクレーターが残っていたんだよな?」
「そうですね。そこに疎開していた人々が戻ってきて仮の王都を作り始めたのは新聞で見ました」
ツェンタリアの言葉に俺も頷いた。確かにそういう記事が新聞に載っていた。そして俺達はそのクレーターを見下ろす崖の上に立っている。
「だがそれはクレーターの斜面に家を建てて、周りを簡素な柵で囲っただけのシロモノだった……はずなんだがなぁ」
昨日の新聞でヴァリスハルトの後ろに映っていた仮王都の姿は俺の記憶と一致していた。しかし、目下に広がる光景は俺の記憶とは大きくズレたものだった。
「パラディノスの方々はいつの間にクレーターに傘をかけたのでしょうね?」
「……本当にヴァリスハルトの人使いの上手さは異常だな」
そう、クレーターの上には鉄の傘が広がり、その隙間から弓を放つ方法で仮王都は守られているのだ。これを一日で作ったのだから恐れ入る。
「だが目下の光景の問題はそれだけじゃねぇよな?」
「ええ、そうですね」
俺が念のため確認するとツェンタリアが首を立てに振った。どうやら俺の目がおかしくなったワケじゃないらしい。
「さっき立てた仮説がいきなり肯定されるとはなぁ」
俺は頭を掻いた。俺の目下に広がる光景の2つ目にして最大の問題点、それは……
「ヴァリスハルトは鉄の傘を作る指示はできても、カーカラックへの指示はできなかったみたいだな」
鉄の傘を被った仮王都を襲っているのはパラディノスの指揮下にあるはずの白い生物、カーカラックだった。
◆◆◆◆◆◆
「ようヴァリスハルト、鉄の傘を作る指示はできても、カーカラックへの指示はできないみたいだな」
「ご、ご主人様っ!?」
「事実じゃから反論はできんが、相変わらず無礼な奴じゃのぅ」
俺は仮王都の中でテキパキと指示を出しているヴァリスハルトを見つけて声をかける。ヴァリスハルトは「まったく、最近の若いもんは」と古代より伝わる老人のみが発する呪文を唱え始めたところでハッと何かに気付いたようだ。
「ちょっと待て、お前達どうやって入ってきたのじゃ?」
「そりゃ横が駄目だったから……縦だ」
俺の指差す方向を見たヴァリスハルトの顔面から血の気が失せた。そこには綺麗に丸く穴を開けられた鉄傘が見える。
「なななな何ということをしてくれたのじゃ!?」
「まあまあ落ち着けって」
そう言って俺は拾ってきた弓を構えてヒュンッと矢を放った。
『ギシャァッ!?』
その穴からコチラに入ろうとしてきていたカーカラックが地面に落ちる。
「カーカラックが見えたら矢を放てば狙いを付ける必要もなくお陀仏だ。1人、穴専門の兵でも置いとけば今回の戦いで1番手柄となるだろうさ……俺を除けばな」
そう言って俺は入ってきた穴から外に出た。そして鉄の傘の中でまだ呆然としているヴァリスハルトに声をかける。
「ところでヴァリスハルト、ネットワークは切ってるんだよな?」
「…………はっ!? う、うむその通りじゃ」
その言葉を聞いた俺はニヤリと笑って。弓を構えた。
「それじゃあ僅か一日だった休業期間にピリオドを打つとしますかね」
◆◆◆◆◆◆
『ギシャァァァァッ!?』
最後のカーカラックが倒れると仮王都の前にある平原に静寂が戻った。
「ご主人様は弓も達人級なのですね」
途中から参戦したツェンタリアが目を丸くしている。当たり前の事だが俺も褒められれば嬉しい。ちょっと照れながら謙遜する。
「まあ一応、元完璧勇者だからな」
「ほれ、不完全傭兵のジーガーよ。約束の報酬だ」
俺の後ろに歩いて来ていたヴァリスハルトが頭に金貨の入った袋を乗せてくる。俺は一ミリの上下も無いレベルの棒読みで「はいどーも」と答え、左手をスナップして頭の上の金貨を倉庫に送った。
◆◆◆◆◆◆
「それで何だってカーカラックに襲われてたんだ? 劣悪な労働環境に対する抗議か?」
鉄の傘の中に戻ってきた所で俺は先ほどから気になっていた疑問をヴァリスハルトにぶつけてみた。
「……」
しかし、ヴァリスハルトは答えない。まあそれはそうだろう。自国のカーカラックに襲われたのは国防に関わる問題で、下手に情報が知れ渡ってしまえば国民がパニックを起こすことは必至だ。一応ヴァリスハルトは『野良カーカラックが襲ってきた』と国民に説明していたが、天使兵の中には感づいている者もいるようである。
「………………大体お主が考えているとおりじゃ」
長い沈黙のあと、絞りだすように出た言葉がコレである。
「っとなるとこの世界にカーカラックの命令権を奪って指揮できる奴がいるってことか」
「そうなのですか?」
「そりゃ動きを見れば指揮系統が有るかどうかは解るさ。ついでに言えば指揮していたのは2人だってこともわかってる」
俺の言葉にヴァリスハルトが「ほう」と興味を示す。
「ふむ、敵の動きに死角があったということじゃな?」
「ああ、具体的に言えば鉄の傘の北側の動きが滅茶苦茶だった。だから南側に指揮をしてる奴がいたと思うぞ」
しばらくヴァリスハルトが考えこんだあと何かを思い出したかのようにポンと手を叩いた。
「そういえば南側に奇抜な服を着た人影を見たと天使兵が喋っておったのぅ」
それを聞いた俺は我が意を得たりと指を鳴らした。
「ビンゴだ」
そう言って俺はトップスピードで南側に走り始めた。相手も早いが見晴らしのいい場所での追いかけっこなら負ける気も巻かれる気もしない。すぐに追いつき、追い越し、前に立ちふさがる。
「よお、お二人さん。そんなに急いでどちらへ?」
突然現れた俺の事を睨みつける4つの目。その視線は体をピッタリとした光沢のある黒タイツで覆った男と白と赤の縦ボーダーなドレスを着た女から発せられている。そして男の手には見たこと有る形の腕輪が装備されていた。
■依頼内容「仮王都を守ってくれ」
■結果「仮王都を守って相手の指揮官(変な恰好)に追いついた」
■報酬「100万W」
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※次回の更新は160912になります。




