第82話 他人の褌だろうが強けりゃ良いのさ
今日のツェンタリアさん
「ご主人様の魂が喜びで震えていますね。一方私は早くご主人様に会いたくて会いたくて震えています」
「森の中に巨大な力が現れたと思ったら一気にしぼんでいきましたね、絵に描いたような出オチでした……あれは一体何だったのでしょうか」
●依頼内容「アップルグンド国王シュタルゼを殺せ」
●依頼主「パラディノス国王ヴァリスハルト・エアルレーザー国王エアフォルク・フェイグファイア国王ノイ」
●報酬「3000万W」
シュタルゼは白銀竜ザーゲから杖を引き抜くと右手をかざした。そして何やら呪文を唱え始める。それはどこの言葉でもないシュタルゼが編み出した独自の言語、その意味はこうだ。
『貴様の命は我が命』
次の瞬間、白銀竜ザーゲの体はシュタルゼの右手に吸い込まれる。これぞシュタルゼの最大の武器である『吸収』だ。ノイの『3本の矢』やリヒテールの指定したものを爆弾にする等、各国の王になる人物は何かしら1芸を持っている。その中で特に厄介なのがシュタルゼの『吸収』なのである。何しろ自分より弱い者からパワーでも知識でも何でも吸収して自らの糧とすることができるのだ。
つまり、神竜であるザーゲでも召喚者の権限をフルに活用して弱らせてしまえばそれを吸収することも可能なのだ。
「グオオオオオッ!」
白銀竜ザーゲを吸収した魔王シュタルゼが変態していく。背中からは羽が生え、目は赤く光り、体の一部に白銀のウロコが生えてくる。その姿が変化していくのと同時に力もドンドン上がっていく。
「随分と贅沢な姿じゃねぇか、魔王シュタルゼさんよぉ?」
半ば呆れている俺の言葉にシュタルゼがクックックと笑う。
「こうなった私はもはや魔王等という矮小な存在ではない。そうだな……魔神王シュタルゼとでも呼んでもらおうか?」
「魔王と魔神の欲張りセットだな。ってかそもそもアンタ神って柄かよ」
そう言いながら俺は火傘ジルムを構えて炎をシュタルゼに向けて放つ。
「神に必要なのは柄でもなければ格でもない。力だ」
「……あれ?」
俺の放った炎は一歩も動いていないシュタルゼのはるか上空を飛んで行った。外した? いや外させられたのか? 俺は「それなら」と呟いて今度はトップスピードで背後に回りこみ金属バットで後頭部を狙う。
「クックック、無駄だ無駄だ!」
金属バットがシュタルゼから10センチずれた地面にメリ込んだ。またも外れた。
「無駄かどうかは……俺が決めんだよっ!」
空槍ルフトもシュタルゼの体から逸れる。王扇ブァンで作った竜巻も明後日の方角に飛んでいってしまった。
その間シュタルゼは一歩も動かず、ただクックックと笑い続けていた。そして宝帯ファイデンが外れた所で口を開く。
「やめておけ、人智の及ぶ範囲ではこの体に傷などはつかん!」
「ご忠告どうも」
俺は軽口を叩きながらシュタルゼに攻撃が当たらない理由を考える。こういう場合は2つの理由が考えられる。1つめはシュタルゼが俺の認識を超えるスピードで移動している可能性、そしてもう1つが俺の認識がずらされている可能性だ。
いくらシュタルゼが強化されたと言っても目に自信のある俺が移動を見逃すとは考えづら。っとなると俺の攻撃あ何らかの形でズラされているのか……これならばシュタルゼの『人智の及ぶ範囲』という言葉にも合致する。
「それじゃあ、人智を超越した力……呪いならどうだ?」
俺は藁人形・五寸釘・木槌を取り出してニヤリと笑った。これらはパラディノスの聖典を盗んだ犯人を心臓発作でお陀仏にした品々である。
「の、呪いだと? そんなフザケた品々で呪術ができるわけなかろう!」
その口調とは裏腹にシュタルゼの表情は引きつっている。まあ見た目が禍々しいもんな。特にこの藁人形なんて何か耳に近づけるとボソボソ喋り声が聞こえる……気がするしな。
「いーやできるぜ? 何しろ俺はこの呪いで既に41人は殺してるからな」
当然嘘である。実際には40人少ない。しかしシュタルゼは「ぐぬぬ」と唸って眉間にシワを寄せている。見た目の禍々しさと俺のハッタリが効いているのだろう。
「だが安心しろ、お前にはもっと強力なのを用意しておいた」
俺はそう言ってアッサリと呪いの品々を荷物にしまう。もう十分だ。ここまでのシュタルゼの反応を観察して、俺の推測と白銀竜ザーゲの能力が合致していることを確信することができた。
「白銀竜ザーゲの能力は生『命』を弄ぶのではなく、『命』令を弄ぶって事なんだろ?」
つまり、シュタルゼは白銀竜ザーゲの力で俺の体を僅かに操り攻撃を外させていたのだ。そして、狙いを定める必要が無い必中の攻撃なら白銀竜ザーゲの影響を受けないというわけだ。
「……ほう?」
俺の言葉にシュタルゼは薄ら笑いを浮かべている。しかし、その態度は俺に疑念を抱かせるためのブラフであることはすぐにわかった。なぜならば、俺が右手をスナップして取り出した武器を見てシュタルゼの表情が凍りついたためである。
「ま、まさか……それの攻撃方法が呪いだとでも言うつもりか!?」
「まったく……どおりで白銀竜ザーゲに関する文献を読み込んでも『怒りの炎によって文明を焼き払った』とか『津波によって文明を押し流した』とかいう記述が無いわけだぜ」
俺は少し勘違いしているシュタルゼの言葉を無視して話を続ける。
「そりゃそうだよな。白銀竜ザーゲは同士討ちを誘って文明を潰してきたんだからな……武器どころか攻撃の痕跡すら残らないわけだ」
そして俺は右手に持った武器を構えた。
「俺ですら攻撃を少しズラされたんだ。意思の弱い人間は白銀竜ザーゲの操り人形だろうよ」
「質問に答えよジーガー!」
シュタルゼが右手から雷を放った……だが遅い。俺はジグザグに距離を詰め、シュタルゼの間近に到達する。
「答えはノーだ。ただしこの一撃は絶対に逸れない……なぜなら」
俺は手に持った死剣アーレを一閃する。
「もう切れてるんでな」
俺が構えを解くのと、シュタルゼの体が内部からザクリと割れたのはほぼ同じタイミングだった。
■依頼内容「アップルグンド国王シュタルゼを殺せ」
■経過「シュタルゼに致命の一閃を与えた」
ブックマークありがとうございます。みんなのうらみになりま……励みになります。




