第81話 楽じゃないけど楽しい仕事?
今日のツェンタリアさん
「ご主人様……私はここでずっとお待ちしております」
●依頼内容「アップルグンド国王シュタルゼを殺せ」
●依頼主「パラディノス国王ヴァリスハルト・エアルレーザー国王エアフォルク・フェイグファイア国王ノイ」
●報酬「3000万W」
俺は前蹴りでシュタルゼの腹を狙う。しかし、ギリギリの所で距離を取られてしまった。
「お前とは幾度となく戦ったな!」
杖を真上に放り投げたシュタルゼが右手から黒炎、左手から氷柱を放ってきた。
「ああ、そうだな。戦場での小競り合いも含めてこれで235戦目だ」
俺は「器用なやつだな」と思いながら風を操って炎と氷を倍速にして返す。シュタルゼは真上に飛んで避け、そのまま空中で杖を掴んで俺の頭を狙ってきた。俺は空槍ルフトを構える。
「ジーガーよ! お前はいつもつまらそうに戦っていたな!」
「金に……ならねぇからだよっ!」
火花を散らして竜骨の杖を受け流す。俺は体勢を崩しているシュタルゼに回転蹴りを放ったが、これも間一髪のところでガードされた。腕を交差させたガードの体勢のままシュタルゼが吠える。
「違うな! 偽るな! 嘘をつくな! 戦いがつまらなかったのだろう!?」
俺は「……勝手な想像で語るな戦闘狂め」と答えながらシュタルゼの事を分析する。どうやら魔法だけでも厄介だってのに肉体も限界まで強化してやがるな。こうなって来ると俺もいつどこでどのような武器を選択するかが重要になってくる。どーれーにしーよーうーかね。
「ならばなぜお前は笑っている!?」
「……」
その言葉に俺は思考を中断した……確かに言われてみるとちょっとニヤッとしていたな。……だがそれを認めるのも癪なのでことさら無表情に「そう見えるのなら目の病気だな」と返した。それを聞いたシュタルゼが笑う。
「ほーう、スイデンとやらは視力も奪うのか」
「さぁな、そうなんじゃねぇの?」
俺も苦笑してしまった。
◆◆◆◆◆◆
俺とシュタルゼはしばらくヤリあった後、互いに距離を取った。俺は空槍ルフトをしまいながらシュタルゼに話しかけた。
「さーてそろそろ本気出せ。さもなくば一瞬で終わらせるぜ?」
「ふむ、よかろう、魔王の恐怖を受け止めよ!」
その言葉を聞いたシュタルゼが杖を地面に突き立てた。それを見た俺は気合を入れなおす。さて、いよいよ本番だ。ここからは魔王シュタルゼの最も得意とする召喚術と魔法での戦いが始まる。
目をつぶってシュタルゼが呪文を唱え始めると広場全体がぼんやりと蒼く光り始めた。一見すると隙だらけなのだが、召喚術は時空を捻じ曲げるため下手に殴りかかると俺の腕が体からサヨナラになってしまう……なので手を出さずに口でも出しておくのが吉だ。
「へぇ、珍しく魔法陣なんて用意してたのか」
スイデンで強化されたシュタルゼなら魔法陣が無くとも神に等しい三匹の竜くらいなら召喚できるはずだ。つまり、これから出てくるのはそれ以上の存在というわけである。よく観察してみると確かにいつもの魔法陣よりも凝った紋様が描かれている。
これを準備するシュタルゼの姿は想像しないでおいてやろう。微笑ましすぎる。
さて、召喚術終了まで少し時間もあるので先ほどから疑問に思っていたことをシュタルゼに聞いてみよう。
「ところで、この魔法陣どっかで見たこと有るんだが何なんだ?」
シュタルゼは俺の言葉に片目を開く。
「この魔法陣を知るのは世界に三人しかおらん」
「へぇ、そうなのか?」
「1人はお前の師である賢者シュテンゲ」
俺は特に驚きもなく「ふーん」と頷く。まあシュテンゲなら知ってても不思議ではない。
「もう1人は召喚術を究極まで極めた我輩」
「そりゃそうだろうよ」
これでシュタルゼも知らなかったらそのまんまの意味で「この魔法陣は何なんだ」という事態になってしまう。
そうこうしている内に魔法陣の蒼が濃くなってきた。召喚術の終りは近い。魔王シュタルゼが仕上げとばかりに地面に刺さった竜骨の杖を両手で掴み、思い切り引き抜いた。
辺りが強烈な光りに包まれる。その光の中でシュタルゼの声が聞こえた。
「そして最期の1人はこの召喚術で召喚されたお前だ、ジーガー!」
◆◆◆◆◆◆
光が消え、俺が目を開けるとそこには白く輝く銀の龍がいた。それを見て俺は口角を上げる。
『…………』
「おいおいシュタルゼ『神に等しい』三匹の竜を使役したってだけでもヤバイのに、今度が『神』すら従える気かよ」
シュタルゼの横に浮いている竜は白銀竜ザーゲ、『世界の命を弄ぶ』と言われている伝説の神竜だ。伝説の神竜と言うとありがたいものに聞こえるが、二つ名が示す通り実際はろくなもんじゃない。俺が世界図書館 ヴェンタルブーボで読んだ本には「気まぐれに降臨したザーゲは三日で文明を滅ぼした後、人間の死体を操って100年間踊りを踊らせた」と書かれていた。その他、神父なら失神、悪魔でも眉をひそめるような事を世界各地でしでかしているのが目の前にいる白銀竜ザーゲなのである。
そんな極悪竜に対して俺が脳内で「勝てるかな?」とシミュレートしていると、やおらシュタルゼが高笑いを響かせた。そしてひとしきり笑った後、杖を手にしてニタリと笑って言った。
「神を従える?…………違うな我輩は神になるのだ!」
『……っ!?』
そして、シュタルゼは杖で白銀竜ザーゲの体を貫いた。
■依頼内容「アップルグンド国王シュタルゼを殺せ」
■経過「伝説の即死」
ブックマークありがとうございます。高波になりま……励みになります。




