第80話 勇者ジーガーと魔王シュタルゼ
今日のツェンタリアさん
「何だか言いくるめられた感があるのですが……勝利は勝利です! 細かいことは気にしてはいけません。むしろご主人様との合体攻撃ができたことのほうが大事です」
「さて、残るはシュタルゼ様のみですが、どうしましょうかね。疲れきった今の状態の私ではいるだけで足手まといになることは必定ですし。そもそもご主人様と因縁深いシュタルゼ様の戦いに参加するのも……」
●依頼内容「アップルグンド国王シュタルゼを殺せ」
●依頼主「パラディノス国王ヴァリスハルト・エアルレーザー国王エアフォルク・フェイグファイア国王ノイ」
●報酬「3000万W」
「さーて残るは魔王のみか……」
俺は小島の浜辺に立って辺りを見渡す。小島というくらいだから当然大きくはない。高低差もほとんどなく少し小高くなっている丘に僅かな木が生えているのが島の全容だ。俺の斜め後ろに立つツェンタリアが首を傾げる。
「シュタルゼ様はやはり森の中でしょうか?」
「まあ、そこしか無いわな」
何しろ島を一望した時に死角となっているのはそこだけだ。俺は荷物を担いで森に向かって歩き始める。
「ん、どうしたツェンタリア?」
1歩、2歩進んだところで俺は違和感を感じて振り返った。なぜなら、俺の後ろから聞こえてくるはずのツェンタリアの足音が消えてこなかったためである。
そこには立ち止まったまま微笑んでいるツェンタリアの姿があった。
「ご主人様と一緒に行きたいのはやまやまなのですが、私はここに残らせていただきます」
「……そうか」
俺はツェンタリアの言葉の意味を少し考えたあと頷いた。ツェンタリアが残ると言ったのは2つの理由からだろう。1つは樹師ナトゥーアとの戦いで疲弊しているため。基本的にツェンタリアは疲れを隠そうとするほど笑顔でいようとする。そしてもう一つは……
「ありがとう。それじゃあ行ってくる……それと空槍ルフトを借りてもいいか?」
「了解しました」
ツェンタリアが俺に両手で空槍ルフトを差し出す。俺はそれを受け取りながら「ツェンタリアにも見えるようにベイルムかけておくか?」と尋ねた。ツェンタリアは微笑みを絶やさず首を横に振る。
「いいえ。きっと私が聞くべきではにお話もあるかと思われますので」
やはりツェンタリアは俺とシュタルゼが戦う所を見るのを遠慮しているらしい。まあ流石に俺も少しは必死になるかもしれないし……ちょっとは泣くかも知れないしな。俺はツェンタリアの心遣いに感謝するとともにその気持を行動で表すべく……「わかった」と頷いた次の瞬間、やおら右を指さし叫んだ!
「あっ! 恋人同士のエアフォルクとさっちゃんがあんなところでイチャイチャしてるぞ!?」
「えぇっ!?」
突然告げられた衝撃の事実に釣られてツェンタリアが俺の指差す方角を向いた。俺はその横顔にフワリと口づけをして半歩下がる。
「ご、ご主人様!?」
「ハハッ、今のところのお礼はこんなところで」
目を白黒させて頬を染めているいい女に俺は微笑んだ後、背を向けた。
「むー…………分かりました。『今は』引き下がりましょう。ですが『戻ってきた時』は覚えておいてくださくださいね!?」
ツェンタリアの声が俺の背を押してくれる。俺の帰りを待っててくれる。これ以上ない援軍だ。俺は心配させなようになるべく軽い口調で答えた。
「安心しとけよ。俺は物覚えは良いほうだぜぇ」
そう言って俺はゆっくりと魔王の待つ森へと歩き始めた。
◆◆◆◆◆◆
傾斜があるのか無いのかわからないような丘を歩きながら、俺はシュタルゼと戦ってきた勇者時代のことを思い出そうとして……やめた。
「面白くもない思い出よりも目の前の問題を事を考えるべきだよなぁ」
丘を登り切って森に入った。
なにしろツェンタリアにあそこまでやっておいて「戦力分析が甘くて負けました」じゃ格好悪すぎる。っというわけでまず戦力分析だ。シュタルゼは前に魔王城で戦った時とは比べ物にならないくらい強くなっている。単純にズイデンによる強化だけで20倍、しかし1+1を5にするのがシュタルゼである。おおよそ考えられるのは100倍と言ったところか。それと俺の実力を比較していくと……
「強化のが無い状態で格付け2位のくせに、欲張りなやつだな」
自分の事を棚に上げながら分析を進めているとふいに森が途切れ、小さな広場に出た。
「うぉっとぉ!?」
俺が広場に足を踏み入れるのと同時に目の前に広がったのは巨大な火球だった。俺はすぐさま荷物から金属バットを取り出し打ち返す。ピッチャー返しだ。火球はそれを投げたであろう人物の元へ飛ぶ。しかし火球はその人物に到達する直前で掻き消されてしまった。
「懐かしいことしてくれじゃねぇか?」
俺は苦笑しながら広場の真ん中に立っている人物を鋭く見やる。するとその人物も口角を上げた。
「魔王と勇者の再戦にはこういった成長を確かめるイベントがつきものだろう?」
「知ってるかシュタルゼ、俺はもう勇者じゃないんだぜ?」
「なんと……それは初耳だな。ジーガー」
「いきなり最大魔法ぶっ放しやがったのは覚えてたくせにとぼけんなよ」
傭兵となった俺に向かってアップルグンド国王である魔王シュタルゼがカッカッカと笑う。
「心でどう思っていようとも勇気ある行いをする者は勇者だ。違うかジーガー?」
俺は「へぇ」と感嘆の声を上げる。一理あるな。
「狂ったって聞いてたんだが存外まともなこと言うじゃねぇか」
「お前をガッカリさせるわけにはいかないからな」
竜の背骨で作られた杖をどこからか取り出したシュタルゼが構えた。構えには一部の隙も無く、体には魔力と気力が漲っている。その目には狂気は無く、誇り高い炎が宿っていた。
目の前には紛れも無い世界最強の人物がいた……俺を除けばな。
「そりゃどーも」
俺の「別に狂ってても良いんだけどなぁ」という言葉は口から出ずに終わった。なぜなら異常にスピードアップしたシュタルゼの杖での突きを防ぐことに集中する必要があったためである。
ガチガチガチッと杖と金属バットが火花を散らす。その向こうでシュタルゼが笑った。
「さあ、世界を決める戦いを始めるぞ勇者ジーガー!」
■依頼内容「アップルグンド国王シュタルゼを殺せ」
■経過「戦闘再開」
ブックマークありがとうございます。堤になりま……誰かー!
※80話、ありがとうございます。ここまでこれたのも皆様のおかげです。




