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第78話 所詮は進化を拒んだ歴史の遺物

今日のツェンタリアさん

「多分生まれてから2番目にびっくりしました。まさか魔王シュタルゼ様を倒す依頼だったとは……それはご主人様も普段とは違うご様子になりますよね」


「あ、ちなみに1番目は当然ご主人様と出会えたということに対してです。ちなみに2番目は今後『ご主人様と結婚する』という出来事に取って代わられる予定です」

●依頼内容「アップルグンド国王シュタルゼを殺せ」

●依頼主「パラディノス国王ヴァリスハルト・エアルレーザー国王エアフォルク・フェイグファイア国王ノイ」

●報酬「3000万W」


「ご主人様、方角はこちらでお間違えないでしょうか?」


「うーんちょっと右だな……よしこの方角にまっすぐ進んでくれ」


 俺はヴァリスハルトから貰った地図を見ながら水平線を注視している。水柱をノミのようにピョンピョン跳ねて進むのがめんどくさくなった俺は海面を凍らせて走るツェンタリアの背に乗っていた。決して自分の進み方が格好悪かったからなどとは考えてはいない……本当だ。


「まったくシュタルゼの奴もとんだ場所に隠れたもんだぜ」


「ヴァリスハルト様はよく見つけましたね」


「大陸中を調べて見つからなかったから今度は四方八方の海にカーカラックをばら撒いたらしいぞ」


 俺は苦笑しながら答えた。


「カーカラックが人なのかと言う点には議論の余地が有りますが、人海戦術にもほどがありますね」


「まあ昔からヴァリスハルトは有能な個性派よりも普通の凡百を指揮するほうが得意だったからな。カーカラックという力を得た今の状態はさぞかし楽しいだろうよ」


「エアフォルク様とノイ様はよろしいのでしょうか?」


「ベアタイルの事は今のところ鉄壁の秘密になってるからな。エアフォルクもノイも『逃げ隠れているヴァリスハルトがよく解らないけど大金を積んで魔王シュタルゼ打倒とか言い出した』って認識なのかもな」


「本当にそう思ってます?」


 俺がヘッヘッヘと笑っていると今度はツェンタリアが苦笑しながら尋ねてきた。


「そんな都合のいいことを鵜呑みにするような育て方はした覚えはねぇなぁ」


◆◆◆◆◆◆


「キュオオオオオン!」


 世界の海を制覇した群青の海竜王ボリテンヌンツォが不気味な声を空に響かせる。


「シュウウウウウ!」


 世界の木を司る鮮緑の竜、樹師ナトゥーアが背中から生える木の枝をザワつかせる。


「二翼が相手か……ま、予想はしてたけどな」


 小島の前で俺とツェンタリアは神に等しい2体の竜と対峙していた。


「別々に戦いますか?」


 海竜王ポリテンヌンツォと樹師ナトゥーアと言えば抜群のコンビネーションを誇る2匹だ。この2匹を相手にした国は例外なく滅びるとまで言われている。それを考えるとツェンタリアの言うことはごもっともである。だが俺の考えは違った。


「冗談はよせよ。アイツラが何年つるんでるかは知らねぇが俺とツェンタリアが10年間激戦で鍛えたコンビネーションが劣ってると思うか?」


 俺の言葉を聞いたツェンタリアの体に気力がみなぎっていく。


「…………今の言葉で上回りましたよ」


 俺が腹から宝帯ファイデンと王扇ブァンを取り出したところで2匹が動き始めた。戦闘開始だ。


「キュオオオオオン!」


 まず攻撃を仕掛けたのは海竜王ボリテンヌンツォだった。俺達の背後から津波が押し寄せる。


「ご主人様、ちょっと冷えますよ!」


 迫り来る津波をツェンタリアが氷杖リエレンで氷結させた。俺は振り返りもせず王扇ブァンを1振り、竜巻を巻き起こして海水を巻き上げる。


「今日の天気は晴れときどき海水だ。塩害にご注意を」


「シュッシュッシュウウウ!」


 しかし、樹師ナトゥーアはそれを避けもせず全身に浴びる。それを見て俺は脳内の植物図鑑をめくり始める。検索しているのは海水で育つ植物だ。すぐさまいくつかの候補がヒットした。俺はその候補の中からナトゥーアの次の一手を予測して動き始める。


「ツェンタリアぁ! 火!」


「了解しましたご主人様!」


 俺は跳躍しながら右手をスナップして金属バットを取り出した。そしてそれにツェンタリアの白炎をまとわせていく……これで迎撃準備は完了だ。


「シュウウウウウウ!」


 樹師ナトゥーアが背中の大樹を揺らす。するとトゲトゲしい大きな果物が飛んできた。海水がかかると甘く育つ果物……パイナップルである。その数はおよそ100。


「進化のねぇ奴らだ………悪いがお前ら二人のことはよーく調べておいたんだよ!」


 俺は全てのパイナップルを海竜王ボリテンヌンツォに撃ち落とした。樹師ナトゥーアが敵に向けて放ったパイナップルである。当然ただの果物ではない。一つ一つが恐るべき破壊力を持つ爆弾だ。


「キュオッ!?」


 海竜王ボリテンヌンツォはいきなり降ってきた大量のパイナップルに一瞬戸惑った。しかし、すぐさま尾ヒレを使って弾き返そうとする。


「よーし予想通り! 後は任せたぞツェンタリア!」


 その尾ヒレを炎をまとったツェンタリアの空槍ルフトが貫いた。ツェンタリアはそのまま一気に走りぬけて海竜王から離れる。そして一拍遅れて爆弾が降り注いだ。


「キュオオオオオオオオオン!」


 不気味な海竜王の絶叫が鳴り響く。それを聞きながら俺は凍った海面に着地した。ツェンタリアが息を弾ませて駆け寄ってくる。


「やりましたねご主人様!」


「なぁに、あの『火!』って言葉をあそこまで理解してくれたツェンタリアのおかげさ」


「それはもうご主人様の言うことは全て覚えておりますし、その言葉の意味も二重にも三重にも検討しておりますからね」


 そうこう言っている内に「キュ……オ……」という声を残して海竜王ボリテンヌンツォが倒れた。


 それを見て俺は呟いた。


「今日の天気は晴れときどき海水ところにより爆弾だったか……物騒な天気だねぇ」


■依頼内容「アップルグンド国王シュタルゼを殺せ」

■経過「海竜王は二度倒れる」

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