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第76話 良い決断は少しの痛みと多くの金を生む

今日のツェンタリアさん

「アップルグンドの王都には工作部隊マヴルフと一般市民しかいないようですね。それでも被害を抑えることができたのは、留守を任されていたさっちゃんを信頼していたからなのでしょうね……いま目の前で他のサキュバスとバニースーツのタイツは網か否かで激論を交わしているさっちゃんを……大丈夫そうなので帰りますね」


「おや……珍しいですね? 私のご主人様レーダーが迷いの波動をキャッチしています」

●依頼内容「カーカラックの発生源を探せ」

●依頼主「俺」

●報酬「……嫌な予感はよく当たるんだよなぁ」


 地下に要塞都市を歩いてみて分かった事が3つある。まず、この都市の名前はベアタイルであること。次に、カーカラックの研究施設が移設されていること。最後に、いま目の前にある豪邸にヴァリスハルトがいることだ。


「ようこそおいで下さいました。ジーガー様」


 豪邸に足を踏み入れるとどこからとも無く執事が現れる。俺はその顔をジーっと見たあと噴き出してしまった。


「似合わねぇことやってんなぁ、バンドゥンデン?」


「おや、さすがジーガー君、もう気づきましたか」


 執事がくるりと回転すると、そこには神父服に身を包んだ糸目の男が微笑んでいた。


「おかしいですねぇ、変装には自信があったのですが」


「お前は人を騙そうとするときに顔に出るんだよ」


「……それは本当ですか?」


「ああ、本当だ。耳がピクピク動くんだよ」


 当然今適当に考えたデマカセである。本当は先ほど上空から透視した際に、豪邸の前でいそいそと準備をしているバンドゥンデンが見えたのだ。


◆◆◆◆◆◆


「こちらにヴァリスハルト様がいらっしゃいます」


 バンドゥンデンに案内された部屋にはいると、そこには見慣れた顔の爺がいた。


「どこぞで野垂れ死んだかと思ったが……豪華な隠居生活とは羨ましい限りだな」


「ホッホッホ、隠居するには100年早いわい」


「よく俺が来ることが分かったな?」


「神のお告げじゃよ」


「嘘つけ、カーカラックだろ?」


 俺はグリーンウェルかよと内心ツッコミを入れつつ踏み込んだ質問をした。


「お主は察しが良すぎる上に単刀直入じゃからつまらんのぅ」


「そうかい? 俺はアンタとの言葉のぶつけ合いは楽しいんだけどなぁ」


 ヴァリスハルトはあっさりと認めた。聞いておいてなんだが、正直認めて欲しくなかった現実である。どうやら俺の知らない間にカーカラックの活用方法は一段と進化を遂げたようだ。


「ところで、王様がこんなところにいてパラディノスは大丈夫なのか?」


 俺の言葉にヴァリスハルトはつまらなそうにフンっと鼻を鳴らす。


「大臣にはここから指示を出しておるでな、それに今の状況でワシの国を攻める馬鹿はおらんじゃろ」


「ふーん」


 ヴァリスハルトの言葉は俺の考えていた事と一致している。アップルグンドとエアルレーザーは熾烈な闘いを繰り広げており、フェイグファイアも王位を継いだノイの地盤が固まっていない状態だ。つまり、パラディノスは全くのノーマーク『だった』のである。


「だが今回のカーカラックでの襲撃は悪手だったな」


 そう、今回パラディノスはカーカラックを使ってアップルグンドの王都にちょっかいをかけてしまった。こうなると魔王シュタルゼは頭に来てパラディノスの事を敵性国家と見なすだろう。エアフォルクも『手柄の横取りか?』と勘ぐるはずである。更にフェイグファイアは『エアルレーザーとパラディノスが手を組んだのか!?』と焦るだろう。


「ホッホッホ、予想は正確じゃが……甘いのぅ」


 ヴァリスハルトが湿度の高い笑みを浮かべる。


「おいおい強がりはよせよ」


「カーカラックを使って王都を襲撃すれば三国の目がこちらに向くことは必定。だが逆を返せば一気にイニシアチブを握ることもできるのじゃよ」


 そう言いながらヴァリスハルトは三通の封筒を取り出す。俺はそれを見て、なぜヴァリスハルトが悪手と思われるような策を打ち、俺を待っていたのか察した。こちらの表情の変化を見てヴァリスハルトがニヤリと笑う。


「ところでジーガーよ、お主はワシの居所を他国に教えるかね?」


「………………」


 俺は頭をフル回転させる。この決断は大事だ。あの封筒の中身が俺の予想しているものならば、それは4国のパワーバランスを大きく崩すことに直結する。


 ……俺はしばらく考えた末、ゆっくりと口を開いた。


「……いいや、アンタはまだ俺の顧客だ」


◆◆◆◆◆◆


●依頼内容「アップルグンド国王シュタルゼを殺せ」

●依頼主「パラディノス国王ヴァリスハルト・エアルレーザー国王エアフォルク・フェイグファイア国王ノイ」

●報酬「3000万W」


「手回しのいいことだな」


 依頼文を読み終わった俺が顔を上げるとヴァリスハルトが「ホッホッホ」と笑った。俺はそれを見て内心で舌打ちしながら「ヴァリスハルトが行動に移る時は相手に痛手を負わせることが確実な時だけだ」という自分の言葉を思い出していた。


 コレが狙いだったのか。完璧に一本取られたな。


「それで魔王シュタルゼはどこにいるんだ? 当然こんな依頼をするくらいだから場所くらい掴んでるんだろ?」


「こちらですよ」


 俺の質問にヴァリスハルトは答えず、代わりにバンドゥンデンが地図を持ってきた。広げるとアップルグンドの外海に浮かぶ小島にバツ印がつけられていた。


「これもカーカラックで得た情報か?」


 今度はヴァリスハルトが頷いた。


「ジーンバーンやラートのような優れた個を凌駕する数が今のワシの強みじゃからな」


 どうやらヴァリスハルトは地下通路を使ってこっそりと世界各地にカーカラックを配置していってるらしい。


「その強みが暴走しないことを祈るよ」


 そう言って俺はベアタイルを後にした。


 透視しながら歩いていて気付いたのだが、どうやらこの地下通路は干物工場の近くにも通じており、急に地面から出てきた俺を見てネイドアが大層驚いていた。


■依頼内容「カーカラックの発生源を探せ」

■結果「俺」

■報酬「世界を揺るがす依頼を受けた」

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