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第74話 得なら助ける

今日のツェンタリアさん

(フフフッ別にそこまで気にしてはいなかったのですが、ご主人様が素敵な約束をしてくださいました。さーていかがいたしましょう……以前途中で終わったお体を流させてもらいましょうか)


「……っておや、さっちゃんからのコウモリ便が、何でしょう? 新しい悩殺コスチュームでも考えついたので……こ、これは!?」

●依頼内容「アップルグンドの王都を守るのを手伝って」

●依頼主「サキュバス族族長サーヘル」

●報酬「50万W」


「これは中々の大繁盛だな」


 俺はアップルグンドの王都のことを一言でそう表した。昼休みの学食のようにカーカラックがひしめき暴れている。


「先ほどさっちゃんから来たコウモリ便の話では急に湧き出たそうです」


「ふーん、ま、何か仕掛けがあるんだろうな」


「…………すみません」


 急に頭を下げてきたツェンタリアに俺は「何がだ?」と聞き返す。


「いえ、ご主人様を巻き込んでしまいまして……」


 どうやら俺の弱みに付け込んでここに連れてきた事を気にしているらしい。もちろん普段のツェンタリアはこういう事はしない。つまりそれだけ緊急事態だと判断したのだろう。そして俺はその判断は間違っていなかったと考えている。


 俺はなるべく柔らかくツェンタリアに笑いかけた。


「なぁに報酬もあるってんならそれは依頼だ。それに内容も申し分ない」


「えーっと、どういう意味でしょう?」


 首を傾げているツェンタリアに俺は下手くそなウインクをしながら答えた。


「美人2人のお願いだ。インポでもなけりゃ助けるさ」


◆◆◆◆◆◆


「キシャアアアアア!?」


 ズドンという音と共にカーカラックの頭がアップルグンドの首都の地面にめり込んだ。


「念には念を入れておいて正解だったな。こいつらやっぱり野良じゃねぇ」


 手近なカーカラックを倒したところで俺は「ヒューッ」と口をとがらせて息を吐く。何度も戦ってきた結果、俺はカーカラックが野良か正規か判別がつくようになっていた。野良はすんなり埋まるのだが、正規の方は最後まで粘ろうとする。そのため地面へのめり込み方が垂直にならないのである。


「っと言うことはパラディノスのどなたかがカーカラックを操っているというわけですね?」


「多分な、そしてこんな大規模な侵攻を仕掛けられるのはパラディノスには1人しかいねぇ」


「なにが目的なのでしょうか?」


「さぁな、元々聖王ヴァリスハルトは魔王シュタルゼとは相容れない存在だから、そういう個人的な恨みなのかもなぁ」


「つまり今がシュタルゼ様を倒すチャンスだと考えたのですね?」


「……かもな」


 実を言うと俺はそう考えてはいない。ヴァリスハルトが行動に移る時は相手に痛手を負わせることが確実な時だけだ。例えるならトレイランツに対してベルテンリヒトをぶつけた時がそうである。それを知っていれば今回の攻撃が本気でないことはすぐに分かる。シュタルゼを倒し切るには少ない。つまりこの襲撃には何か隠された意味があるはずなのだ。


「ま、それはともかくまずは依頼をしっかりこなすとするかな。ツェンタリアも存分に練習の成果を発揮してくれていいぞ?」


「あ、やはりご存知だったのですね?」


 ツェンタリアが苦笑する。しかし俺はツェンタリアがカーカラックを倒す練習をしている所を実際に見たことはない。


「いや、ツェンタリアが何の鍛錬もしてないはずがないと思ってカマかけただけだ」


「……流石ですね、ご主人様」


「ハッハッハ。さあ、その腕前を俺に見せてくれ。楽しみにしてるぞ?」


「はい!」


 そして、いつぞやのエアルレーザー王都のように俺は右側、ツェンタリアは左側を目指して走り始めた。


◆◆◆◆◆◆


「思ったより被害はございませんでしたね」


「あぁ……おかしいな。これじゃカーカラックを無駄に消費しただけじゃねぇか」


 10分後、中央の広場で待ち合わせた俺とツェンタリアは二人して首を傾げていた。大繁盛してたのは入口付近だけで町中にはカーカラックの姿はほとんど見えなかった。シュタルゼを倒すには全く足りず、王都を壊滅させるには少なく、嫌がらせをするには微妙に多い、そんな戦力だった。


「それにしても何でシュタルゼは王都が攻められてるってのに放っておいてんのかね?」


「それは今この王都がもぬけの殻だからですよ」


 振り返るとそこにはさっちゃんがいた。以前魔王城のパーティで見かけた時とは違い、黒い扇情的なドレスを身に着けている。しかし王都を守るために必死に戦ったのだろう。そのドレスはところどころ破れ、綺麗な白い肌には無数のアザや切り傷ができている。ツェンタリアが「さっちゃん、大丈夫でしたか!?」と駆け寄る。


「おっとっとー」


 結構な勢いで抱きつかれたさっちゃんは少しよろけたがすぐにツェンタリアの頭を撫でて微笑む。


「うん、なんとかねー。服は魔力で作られてるし、サキュバス族は傷の治りが速いから大丈夫さ」


 なるほど、確かに外観が重要なサキュバスにとってはかすり傷でも一大事だもんな。俺がウンウンと一人納得しているとさっちゃん目があった。


「それで、王都がもぬけの殻ってのはどういう意味だ?」


「そのままの意味ですよジーガーさん。シュタルゼ様は力を持った側近を連れて雲隠れなされました。私はここの守りを託されましたが、まさかいきなりカーカラックが侵入してくるとは……」


 さっちゃんの胸に顔を埋めていたツェンタリアが「えっ?」と顔を上げる。


「そ、それってつまり国民を見捨て」「ついに精神が限界を迎えたのか」


 危うい考えに行き着きそうなツェンタリアの言葉を俺は意図的に遮った。さっちゃんも俺の方を向いたまま頷く。


「はい、シュタルゼ様は『我輩はこのままだと王都の民すら害してしまうかもしれない』とおっしゃっておられました」


「そうか、それでシュタルゼの場所は?」


「それは……ジーガーさんといえど……」


 さっちゃんの表情が曇る。まあそりゃそうか。俺は深く追求せずに話を切り上げ報酬を貰った。ちなみに後から聞いたのだが、さっちゃんはアップルグンドの外交を担っているらしく報酬はちゃんと国の金庫から出しているらしい。


 それにしてもさっちゃんが外交とは……男としては一度御相手してみたいもんだな。


■依頼内容「アップルグンドの王都を守るのを手伝って」

■結果「カーカラックを駆除、あとは発生源が気になるな……」

■報酬「50万W」

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