第71話 大 儲 け
今日のツェンタリアさん
「最初エアフォルク様が冷たく言い放った時は失礼ながら気でも狂ったのかと思いましたが、私の早とちりでしたね。あの演説のやり方はご主人様がエアフォルク様に教えたそうです。聞いた話では向こうの世界には演説のみで国のトップに立った方がいるそうで……にわかには信じがたいですね」
「当たり前ですがベンジョブ様もカイザール様も本気のようですね……」
●依頼内容「アップルグンド軍を止めてください!」
●依頼主「エアルレーザー国王エアフォルク」
●報酬「200万W」
「1対1で戦うな、必ず数的有利を作り出せ!」「ヤバイッペ強いッペ!」「これは三人一体で戦うのが得策である! 間違いない!」「逆に攻勢にでるよ!」「ムハハハハハキツイぞ苦しいぞ……興奮するぞ!」
「あいかわらず賑やかな奴らだな」
俺は苦笑しながら振り返る。
俺の後ろではエアフォルク率いる騎士団がアップルグンドの主力2部隊と戦っていた。しかし状況は芳しくない。中央のエアフォルクは盤石なのだが、右翼のジュバイは空襲部隊ヴィンドの空中から放たれる矢に苦戦、そして左翼のマルモル・クラニート・パサルトは地上部隊ヴェルグの突進に押されている。
「苦戦していますね」
空槍ルフトを構えたままのツェンタリアが俺に話しかけてくる。俺はエアフォルク達を見つめたまま答える。
「そりゃそうだ。というか反則級の強化を重ねた相手に騎士団がここまで粘れてる事自体が奇跡に近いな」
普段だったら既にエアフォルク以外の騎士団は散り散りになって各個撃破されていただろう。それがここまで戦線を維持できているのは高い士気のおかげである。
俺は「エアフォルクの演説と俺の演出が効いたな」と胸を張る。沈んだ気分を向上させるのに一番手っ取り早いのは光を当てることだ。特に薄暗いアップルグンドを行軍して、世界の空を支配する漆黒の竜『空帝カイザール』と対峙させられたエアルレーザーの騎士には効果は抜群だったようである。落ち込みが深ければ深いほど反発した時の狂躁状態は激しくなるのだ。
しかし、狂躁状態の騎士たちも、本当に狂っているアップルグンドの主力2部隊が相手では分が悪い。エアフォルクが必殺技を繰り出すことができれば形勢は一気に逆転すると思うのだが、周りの騎士のフォローに手一杯で集中する暇がない。
「私たちは苦戦せずに終わらせましょう」
「だな」
「っとその前に……おーいエアフォルクー!」
「なっ何ですか先輩!?」
「いくら払うー!?」
「すごいタイミングで交渉を始めますね」
急に値段交渉を始めた俺にツェンタリアは目を丸くしている。
「自分を安く売る気はねぇからな」
俺はヘッヘッヘと笑いながらエアフォルクの返事を待った。やがて「200万Wでいかがですかー!?」と返って来たので俺は「もう一声!」と叫ぶ。
……その後数回のやり取りの結果「500万W」で決着した。
「さぁてそれじゃあ一儲けのあとにもう一儲けしますかね……」
俺は錆びた剣で肩をポンポンと叩きながらベンジョブとカイザールに向き直った。そして相手の様子を見て口角を上げだ。
「へぇ、随分と素敵な格好になったじゃねぇか」
「カタカタカタッ!」
「ゥゥッゥ……!」
俺の言葉通りベンジョブとカイザールの姿は様変わりしていた。
まずベンジョブは一体のみになっていた。そして各関節に黒炎が灯っている。隣のカイザールはガイコツ達の骨を鎧として身にまとっていた。
「ツェンタリア、わかってると思うが強くなってるぞ?」
相手の様子を観察して隣のツェンタリアに伝える。ツェンタリアが「はい」と答える瞬間を狙っていたのかベンジョブが動いた。
「カタッ!!!」
「くっ速い!?」
ツェンタリアはすんでのところで繰り出された突きを空槍ルフトの柄で受け流す。
「だが俺にとっちゃ遅い」
すぐさま俺はバランスの崩れたベンジョブの肩をめがけて錆びた剣を叩きつける。ガツンとした手応えはあった。しかし、ベンジョブは何事も無かったかのようにバックステップで距離を取る。
「ま、まさかご主人様の攻撃が!?」
驚くツェンタリアの横で俺は分析する。……分析完了。
「なるほど、黒炎を関節変わりにしてんのか」
俺が顔を上げるとカイザールがニヤリと笑う。どうやら俺の予測は正解らしい。
「チッ、シュタルゼの奴め、本当に1+1を5以上にしやがって……」
俺は左手をスナップして錆びた剣をしまい。右手をスナップして死剣アーレを手に取った。
「どういうことですか?」
「関節を膨大なエネルギーを持つ黒炎にすることで身体能力を向上させてんのさ。それに黒炎は物体じゃねぇからクッション性も自由自在、普通の攻撃じゃダメージが入らねぇ」
「えーと、それはつまり無敵ということでは……」
「無いんだよなそれが」
俺はツェンタリアの言葉を遮って笑った。そして死剣アーレを構える。
「ゥッ!!??」
それを見たカイザールが慌てるがもう遅い。俺は静かな気持ちでベンジョブに語りかける。
「アンタの長きに渡る戦歴は今日で終わりだ」
俺はベンジョブをシッカリと見据えたまま「フッ」っと死剣アーレを縦に一閃した。
「カタカタ……? カタカタカタ」
しかし、何も起きなかった。ベンジョブが笑っている。俺はそれを無言で見つめながら構えを解いた。何も起きていないように見えたのは今だけだ。俺にはしっかりと手応えが残っていた。
その手応えは世界二位の戦歴を誇っていたベンジョブの最期を示している。
「カタッ!?」
「それじゃあな高名な騎士さんよ」
パキっと音がしてベンジョブの頭蓋にヒビが入る。慌ててそれを抑えこもうとするベンジョブだったが、止まらない。そう、俺の死剣アーレは黒炎すら斬ることができるのだ。
「カカカカカタカタカタカカタッ!」
「次は生身でやり合おうぜ?」
俺はベンジョブに最後の言葉を送る。次の瞬間……パキパキパキパキパキパキンとベンジョブの体の骨の全てが縦に真っ二つに割れた。
「カカ?……カ……タ……」
ジュラム草原の喧騒の中でベンジョブ顎を鳴らす音が小さくなっていく……そして状況は先ほどエアフォルクの言っていた数的優位、2対1となった。
■依頼内容「アップルグンド軍を止めてください!」
■経過「高名な騎士を屠った」
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