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第70話 大 演 説

今日のツェンタリアさん

「お姫様抱っこ! お姫様抱っこ!……冗談です。勘違いでご主人様の手を煩わせてしまった事はちゃんと反省しますよ?」


「切り開いた雲の大きさを絞ったりと、ご主人様って細かい気配りが上手なんですよね。私も戦闘後に助けてもらっていたことに気付いたりします」

●依頼内容「アップルグンド軍を止めてください!」

●依頼主「エアルレーザー国王エアフォルク」

●報酬「200万W」


 エアフォルクは低く、呟くような声で話し始めた。


「君達の中に先ほど声を上げた者がいるだろう?」


 エアフォルクの一言に騎士たちが互いに顔を見合わせザワつき始める。それはそうだろう。エアフォルクの発言には暖かみが無く、まるでこれから声を上げた人間を血祭りにでも上げかねない迫力があったからだ。


「ご主人様、よろしいのですか?」


 隣でツェンタリアが慌てているが、俺は「ふーんそう来たか」と笑っている。エアフォルクが続ける。


「それを見て君達は何を思った? 軟弱者と誹ったか? それとも俺も同じだと思ったか?


 ざわめきが大きくなっていく。エアフォルクに対する騎士たちの不安の現れだ。しかし、次の一言が空気を一変させる。しばらく黙った後、ゆっくりとエアフォルクが口を開いた。


「……僕は後者だ」


 再びざわめき。しかし今度は不安ではない。騎士たちは「騎士王様はどうしてしまったのだろう?」という純粋な疑念を抱いているのだ。


 エアフォルクはなおも語る。声の大きさは先程と比べて普通くらいになっている。ちなみに、段々と声を大きくしているのは演説の基本中の基本である。


「だが僕は今でも足を震わせること無く君たちの前に立っている。それはなぜか? それは我々の後ろには以上に臆病で、剣を持つことができぬ君達の家族がいるからだ!」


 ふつふつと騎士たちの熱が上がっていくのがわかる。不安から疑念、そして鮮やかな解答を示すことによる意識の噴火、これは優れた演説の形の1つである。エアフォルクはこの流れを踏襲しているのだ。


「怯える者を笑うな! それは生き残る者だ! 勇敢な者を嘲るな! それは勝利する者だ! さあ行こう諸君! 世界から魔王の恐怖を拭い去る時間だ!」


 さて、そろそろ仕上げのタイミングである。俺は騎士たちに気付かれぬ速度で剣を振って斬撃を飛ばす。狙うのは、空だ。


「我が剣に続け!」


 エアフォルクが敵軍に向けって剣を指し示したのと俺の斬撃が空を割って光の道を作るのはほぼ同時だった。祝福するかのようにできた光の道を見て、騎士たちが雄叫びを上げる。


『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』


 俺はバリアを解除した。その横でツェンタリアがフフッと笑う。


「……憎い演出ですね」


「だろ?」


 エアフォルクに続いて騎士たちが雄叫びを上げて走って行くのを見送った後、俺はぐいっと体を伸ばした。


「それじゃあ俺達も急いで行こうかね?」


「はい、このままじゃエアルレーザーの方々がカイザールの黒炎に薙ぎ払われてしまいますからね」


「それもあるが、勇気の持続時間なんてのは短い。興奮している内にサッサと終わらせるのが吉ってもんだ」


 そう言いながら俺は一歩を踏み出しトップスピードにギアを入れた。


◆◆◆◆◆◆


「ってなわけでよろしく頼むぜ? カイザールにベンジョブ」


「……ッ!?」「……!?」


 俺は一瞬で騎士とエアフォルクを抜き去り。騎士たちを迎え討とうと前に出ていた地上部隊ヴェルグと空襲部隊ヴィンドをすべて避けて走り抜き。その後ろで先程まで俺のいた場所を眺めている死霊騎士団ベンジョブと空帝カイザールの背後を取った。


「カタカタッ!」


 ベンジョブが振り向いて攻撃してきたが、もう遅い。俺は錆びた剣で的確にベンジョブの骨を砕く。


「ッゥ!!!」


 空帝カイザールが黒炎を出してきたが、もうそこに俺はいない。あるのはベンジョブの骨だけだ。


「おいおい、火葬かぁ?」


 俺は空帝カイザールの頭上を取っていた。そのまま錆びた剣を振り下ろそうとする。


「カタカタカタカタッ!」


「ありゃ?」


 しかし、気配を感じた俺は途中で剣を止めて上を見る。そこには俺と同じように剣を振り上げているガイコツの姿が……どうやら俺の動きを読んだベンジョブが更に俺の上をとったらしい。


「へぇ、このスピードに反応するとは結構な強化されてんじゃねぇか」


 俺は笑いながら周りの風を操り一部の密度を濃くし、それを蹴ってベンジョブとカイザールから離れた。しかし、その着地を別のベンジョブが狙う。


「なるほど、俺の動きをよくよく研究されてるようで……」


 足を狙って剣が薙ぎ払われるが俺は錆びた剣を地面に刺して受け止め、それを軸に回転蹴りを浴びせた。吹っ飛ばされたベンジョブは粉々になり動かなくなった。


「ご主人様、ご無事ですか!?」


 追いついてきたツェンタリアに俺はヒッヒッヒと笑いながら「おう、こいつら結構楽しませてくれるぜ」と返した。


「となると……かなりの強敵ということですね?」


「なぁにまだまだ……」


 俺の言葉は「カイザール達なんて強敵じゃねぇ」と言っているわけではない。なにしろ相手はシュタルゼだ。優れた人物というのは1+1=2などは狙わない。少なくとも3、シュタルゼなら5は狙ってくるだろう。つまり「まだまだ何かあるんだろ?」という意味である。


 そして、そういう俺の予感はよく当たる。


「カタカタカタ……」


「ッゥ……!」


 発声器官のないベンジョブと、声が出せないカイザールが頷きあう。


「気をつけろよツェンタリア」


「……はい」


 ツェンタリアが空槍ルフトを構える。それを横目に見ながら俺は呟いた。


「さて、5倍で済むと良いんだが……」


■依頼内容「アップルグンド軍を止めてください!」

■経過「竜騎士退治 開始」

ブックマークありがとうございます。宮内レミィになりま……励みになります。

70話到達! これからも頑張ります。

※次回の更新は160825になります。

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