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第67話 常に渇望が人を動かす

今日のツェンタリアさん

「ここだけの話、クオーレ様と話している時のご主人様はカッコいいのですが違和感がありますよね。多分ご主人様自身も『似合わねぇことやってんなぁ』と思ってらっしゃるのではないかと……」


「シレッと行っておりますが、ご主人様の製図能力はプロ並みだとシッグ様から聞いたことがあります。なにやらフリーハンドで真円を描けるらしいですよ」

●依頼内容「アップルグンド軍を止めてください!」

●依頼主「エアルレーザー国王エアフォルク」

●報酬「200万W」


「ツェンタリア、今日の食事は俺が作るから出かける準備してくれ」


「おや、どうしたのですかご主人様?」


 これから朝食を作ろうとしていたツェンタリアが首をかしげている。もちろん俺も酔狂でこんな事はしない。


「依頼だ。俺はもう準備しておいた。朝飯はおにぎりでいいか?」


「あ、はいわかりました……なにか大変な事が起こったのですね?」


「……ご明察」


 俺は苦笑した。察しのいいツェンタリアにではない。今朝起こった出来事は多分ツェンタリアの想像する『大変な事』を遥かに超えている。それを伝えた時のツェンタリアのリアクションを想像したのである。


◆◆◆◆◆◆


「シュタルゼがズイデンに乗っ取られて、エアルレーザーに大侵攻をかけた」


 目的地に走りながら、食事を食べながら、ながらながらの最中に今日の依頼が発生した原因をツェンタリアに伝える。「ブフゥッ!?」っとツェンタリアの口から勢い良く空気と幾分かの米が吹き出された。


「ゲホゲホッ……もはや世界の危機じゃないですか!?」


「まあそう焦るなってたかが世界二位が背伸びしてるだけだ」


 予想以上の反応に満足した俺はツェンタリアにニヤニヤと笑いかける。


「まあご主人様から見ればそうなのでしょうけど……しかしなぜシュタルゼ様がそのようなミスを?」


「ミス……ミスか。まあ確かにあれはシュタルゼの失態だったなぁ」


「理由をご存知なのですか?」


 不思議そうな顔をしているツェンタリアに俺は今朝あった出来事を説明した。


「シュタルゼは衰弱して倒れたあと魔王城から離れた祠に厳重な警備をつけてズイデンを保管していたんだよ」


「万が一のことがあったら大変ですしね」


「そう、だがその確率は自然な状態での確率であって、何者かの介入によって場合は確率は万が一どころではなくなる」


「つまり何者かの手引によってズイデンがシュタルゼ様につけられてしまったと?」


「半分正解だな」


「……えーとではシュタルゼ様がご自分でつけたと?」


「ハズレ、正解は何者かが行ったのは多分2つだけだ。1つ目は祠の前にいた警備を惨殺してズイデンを奪取したこと。そしてそのズイデンにとある細工をしたってこと」


「細工……シュタルゼ様が付けたくなるような魔力を発すると言った感じでしょうか?」


「いや、ズイデンが勝手に動いてシュタルゼに取り付いたんだよ」


「ええ!? 完全に呪いの装備じゃないですか!?」


「ああ、あれ見た時はホントびっくりしたよ」


「ご、ご主人様がなぜその場面を見ることができたのですか?」


 俺の発言から大体の内容を察したツェンタリアが苦笑いを浮かべている。


「この前シュタルゼの部屋に入った時、応接セットにちょっとした細工をな」


 そうなのである。シュタルゼが俺に魔法生命体ジャデンをつけた日、俺は俺でシュタルゼの部屋にある応接セットにベイルムをかけていたのだ。


「いやでも驚いたぜ、夜中にシュタルゼの元にスーッと翼の生えたズイデンが飛んで来るんだからな。最初は幽霊でも出たのかと思ったぜ」


 幽霊と聞いて怖がりなツェンタリアが眉間にしわを寄せる。


「幽霊の方がマシかもしれませんね……」


「ハッハッハ、同感だ」


◆◆◆◆◆◆


 数分後、俺とツェンタリアはアップルグンドの国境を超えていた。


「ところで今日のご依頼はどなた様からなのでしょうか?」


「ああ、エアフォルクからだ。つっても俺が『シュタルゼがまずい事になってるから俺に依頼出せ』って圧力かけたんだけどな」


 ヒッヒッヒと笑う俺を見てツェンタリアが「それは……良いのですか?」とため息をつく。


「覗きと一緒でバレなきゃ良いのさ」


「……ところで先ほどズイデンに羽が生えたとおっしゃっていましたがそのような事が可能なので……まさかっ!?」


 ツェンタリアは自分の言葉の途中で気づいたようだ。俺は「上出来」とばかりに頷いてみせる。


「その通りだツェンタリア。今回のズイデンもベルテンリヒトに足が生えたのと同じ原理……ゴーレムだ」


「…………」


 ツェンタリアがゴクリと唾を飲み込んだ。だが俺は笑って言った。


「まあ確かにゴーレム=クオーレが怪しいってのは否定しないが。これはバンデルテーアの遺産級じゃねぇ一般的なタイプだ」


「あ、そうなのですね……」


「むしろ面倒なのは、こんな簡単な方法でシュタルゼを狂わせる方法を思いついた奴がいるってことだな」


 ホッとしているツェンタリアに俺は笑顔で自分の考えをサラリと言った。


◆◆◆◆◆◆


「壮観ですね」


「そりゃ地上部隊ヴェルグと空襲部隊ヴィンドの大集結だからなぁ」


 ジュラム草原とその空を埋め尽くした敵を見て俺は苦笑する。こうしてみると結構な数である。


「しかも皆さん殺気立ってますね……」


「シュタルゼWITHズイデンが狂化の魔法でもかけたんだろうよ」


 以前俺は欲望に支配された空襲部隊ヴィンドと戦った事があったが、それでも相手は言葉は喋っていた。しかし、いま俺の目の前にいる連中は「コロセコロセコロセ」とすら喋っていない。ただ目を血走らせて叫んでいるだけである。


「……全く、理性のなくした欲望なんてただの獣と同じだぜぇ?」


 俺は右手をスナップして、死剣アーレを取り出した。


■依頼内容「アップルグンド軍を止めてください!」

■経過「ジュラム草原に急行した」

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