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第66話 思い立ったが見切り時

今日のツェンタリアさん

「流石に酔っ払っている時にかけられたご主人様の言葉は覚えてられませんよ? ですが何やらとても素敵で、嬉しかったことがあったような気がします」


「ご主人様から聞きました………………フロラインさんにはあとでお詫びの品をお送りしておきましょう」

●依頼内容「最新のエアルレーザー城城内見取り図がほしいデース」

●依頼主「世界一の大商人クオーレ」

●報酬「50万W」


「さて、以上で依頼の説明は終わりデース。何か質問はありマスか?」


「……」


 俺は朝早くからクオーレの執務室に呼び出され今回の依頼の説明を受けていた。俺が手を上げるとクオーレが「はいドーゾ」と質問を促す。俺は一呼吸老いて喋り始めた


「国王が変わったので新しいエアルレーザーの城内見取り図が欲しい。なるほどやるべき事は理解できました。ですが一介の商人であるクオーレ様がなぜそういったモノをご所望なのでしょうか?」


 そもそもがして『新しいエアルレーザーの城内見取り図が欲しい』という言葉からして既におかしい。この発言を鵜呑みにするならばクオーレがリヒテール統治時代のエアルレーザーの城内見取り図を持っていたということになる。


「フッフッフーン、一介の商人だから必要なのですよ。なぜなら私はシッグさんと違って優れた商品を開発したりすることができません」


「これはこれはご謙遜を」


「フフ、ありがとうございマース。ですが相手側に相見積を取られて性能を比較検討されてしまうと私の会社の製品が負けるのは事実デース」


「……なるほどその分、納期で勝負するために、あらかじめ予測を立てて準備しておくというわけですか」


 俺の言葉にクオーレが満面の笑みを浮かべる。


「お客様の利便性のためならどのような苦労も厭わず努力し続けるのが私デース。そうすることによってお客様からの信頼も勝ち得て事業が継続していくのデース」


「すばらしいお考えですね」


 俺は微笑んだあとクオーレの部屋から出た。……今日の依頼はツェンタリアを連れてはいけないな。性格が向いていないというのもあるが、ぶっちゃけクオーレが胡散臭すぎる。


 ちなみに先程のクオーレの話をえげつなく解釈するならば『利便性という沼に顧客を引きずり込んで考える暇を与えず財布からお金を吐き出させる。そして、不満が出ない程度のサービスを与え続けて縛り付けるのが長期的に生き残る商売の秘訣デース』と言ったところか。勉強になるなぁ。


◆◆◆◆◆◆


「さて、ちょっとぶりのエアルレーザーの城内か」


 そんなわけで夜、俺は窓から城内に忍び込んだ。月夜に照らされた廊下は思いの外明るい。これは注意して動かねぇとな。


「えーとクオーレからの主な依頼はレイアウトの変更の確認か……とりあえず旧ヴァージョンの城内見取り図からの変更点を探して書き込んでいけばいいか」


 俺は「まずは玄関からやってくか」と呟いて跳躍し天井に着地、城内を無音で駆けまわり始めた。


◆◆◆◆◆◆


「思ってたより大きな変更はなかったな」


 見取り図の修正は早く終わった。変更点としては地下の倉庫が整理されてことと兵舎の増設の2つくらいか。ついでに城内の見回りルート・周期も調べておいたが、これはあくまで個人的な興味というか、いつかそういう依頼があった時のための情報集めだ。


「こんな程度の仕事で50万Wってのはボロいもんだね」


 そう言いながら俺は入ってきた窓から跳躍して城から脱出した。


◆◆◆◆◆◆


 クオーレに報告し終えて俺が家に戻ったのは深夜だった。そして一夜明けた後、俺は朝食を食べながらツェンタリアと昨日の依頼について話していた。


「なるほど、そういった任務でしたか」


「あぁ、ハッキリ言って怪しい。報告しに言った際に見回りについても根掘り葉掘り聞かれたしな」


「え、それでご主人様はどうしたのですか?」


 俺はバターとチーズの載ったパンを一口頬張った後、「契約に入ってないことを真面目に教えてやる義務はねぇよ」と答える。クオーレに見取り図に見張りのルートを書き込んで欲しいと言われたのでルートと見せかけてつなげると馬鹿という漢字になるようにしておいた。


「そ、そうですか……あのー、昨日1人で考えていたのですがご主人様がおっしゃっていた『パラディノスに大量の寄付をした信仰心に目覚めたとある人物がいるらしい』というのはもしや……」


 怒られるとでも思ったのだろうか聞き辛そうにツェンタリアがパンをモソモソしながら尋ねてくる。だが、俺はむしろ感心しながら「お、わかったか」と笑った。


「ツェンタリアの言うとおりだ。俺はクオーレとパラディノスが手を組んでると考えてる」


「……いつから疑っていたのですか?」


「疑うだけだったら最初のゴーレム依頼の時からだな」


「えぇー……」


 俺の言葉にちょっとツェンタリアが引いている。まあそういった素振りは一切見せてなかったからな。


「雪の巨人ジュネールを作ったのは間違いなくクオーレだし、ヴルカン鉱山で戦ったゴーレムにインストールされていた動きもクオーレの大会に出ていた武闘家オルデンだ。更に今回ベルテンリヒトを動かせたのもヴァリスハルトの『大量の寄付をした人物』という言葉から考えていくと……」


 ツェンタリアがゴクリと喉を鳴らす。


「クオーレ様が関わっていると?」


「ああ……それにカーカラックとクオーレの物と思われるゴーレムって似てるんだよなぁ」


「え?」


「作りというか、設計思想がな」


「設計思想が似ている、というのはどういう意味なのでしょうか?」


「いや、俺もハッキリとは言えないんだがなんつーか、世界に対しての経緯が圧倒的に足りてないんだよな。ヒトの高慢さを凝縮したモノとでも言うべきか」


「はぁ……ですが私も何となくご主人様のおっしゃる事もわかりますね」


「その辺りは世界から生まれてるツェンタリアの方が本能的に解るのかもしれないな」


 食べ終えた俺は「ごちそうさま」をしたあと、食器を洗うために席を立つ。ツェンタリアも後に続いた。


「それでご主人様は今後、いかがするおつもりなのですか?」


 俺はお皿を流し台に置きながらヒッヒッヒと笑う。


「『俺がどうするか』ってよりは『クオーレがどうするか』ってとこだな。今回の依頼は確実に何者かをエアルレーザーの城に忍び込ませるための準備だ。そこで今回知り得た見張りのルートが嘘だったことを知ってなお俺に依頼を頼むかどうか……」


「まあ……無いでしょうね」


 後ろからツェンタリアのため息が聞こえてきた。


■依頼内容「最新のエアルレーザー城城内見取り図がほしいデース」

■結果「見取り図を渡したがこの依頼主はもう見切った」

■報酬「50万W」

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