第65話 継ぐもの去るもの渡すもの
今日のツェンタリアさん
「横から本気を出したトレイランツ様を見ていましたが……おそろしい圧力でした。リヒテール様の能力やシュタルゼ様の魔法とも違う純粋な力、豪族の方たちが憧れるのもわかる気がしますね」
「まったくご主人様はおいしい物を食べれば私の機嫌が直ると勘違いなさって……おいひいでふね!」
●依頼内容「大事なパーティーに出席して欲しいッス!」
●依頼主「フェイグファイア国王ノイ」
●報酬「10万W」
「ふーむ、ラートが探してもヴァリスハルトの行方は解らず……か」
「フロラインさんからの情報でも見つけられていないようですね」
朝食を終えて、新聞をテーブルの上に広げながら俺たちはあーでもないこーでもないと話し合っていた。新聞の一面には『ベルテンリヒト、動く』と書かれている。
「つまりジーンバーンでも発見できてないのか。1000人の天使兵と1000体のカーカラックを連れて新旧機動部隊隊長の追求の手から逃げ切るなんて、ヴァリスハルトはどんな魔術を使ったのやら」
「パラディノスは今後どうなるのでしょうか?」
「考えられる展開は3つ、①ヴァリスハルトが帰ってきて実権を取り戻す」
「それをするくらいなら初めから隠れませんよね」
「②ヴァリスハルトが隠れたまま指示を出す」
「あり得ますが……それこそ新旧機動部隊隊長の情報網の餌食ですね」
「③第三勢力が権力を握る。俺としてはこれが1番有り得そうでなおかつ厄介だ」
「第三勢力というと……宗教がらみでしょうか?」
先日の戦闘で信者たちと戦ったツェンタリアがため息を漏らす。よっぽどめんどくさかったんだろうな。
「いや、それだけじゃない。パラディノスにバンデルテーアの遺産級のゴーレムを持ち込んだ人物の存在も気になるな」
「そういえば以前『パラディノスに大量の寄付をした信仰心に目覚めたとある人物がいるらしい』とご主人様がおっしゃってましたね」
「お、さすがツェンタリアよく覚えてるな」
俺が感心しているとツェンタリアが誇らしげに胸を張る。
「ご主人様の発言は全て覚えていますからね。それでご主人様は寄付した人間が怪しいとお考えなのですね?」
「ああ……決め付けは危ないが俺は寄付した人物とゴーレムを持ち込んだ人物が同一なんじゃないかと思ってる」
「……その様子ですと目星が付いているようですね」
「ご名答、だが確証はないからまだ言えない」
ツェンタリアは隠し事が苦手だ。今ここで俺が疑わしい名前をあげてしまうと、その人物の前での態度が不自然になってしまう可能性が高い。そのことはツェンタリアも自覚があるのか「……わかりました」と頷いてくれた。まあツェンタリアの頭ならちょっと考えれば誰か解ることだと思うんだがな。
「さて今後の予想はこれくらいにしておいて、直近で対処すべきことはこっちだよなぁ」
俺がページをめくると新聞には『勇気ある竜王によって王都は守られた』と大きく書かれていた。
「フェイグファイアはトレイランツが両足に傷を負ったことを隠しておく方針みたいだな」
「みたいですね。やはり周辺国への影響を懸念してでしょうか?」
「それもあるだろうがどちらかという国内を意識しての行動だろうな。なにしろフェイグファイアはトレイランツのカリスマ性と武力で国としての体裁を保っている国だ。ここで国内の豪族に怪我のことが知れたらほぼ確実に内乱が起きるはずだ。俺が豪族ならそうする」
「なるほど、となると世間への目眩ましのためにトレイランツ様が退位してノイ様が即位するというわけですね」
ツェンタリアの言ったとおりそういった記事がこれまた新聞に書かれている。
本来ならばフェイグファイア国王交代というのは一面を張れるポテンシャルを持った記事なのだが、さすがにベルテンリヒトが動いた記事やトレイランツがそれを素手で破壊した(事になっている)記事に比べるとインパクトが弱かったのか扱いはやや小さめだ。
「そのとおり、エアフォルクと比較するとノイはまだ育ちきってはいないが、俺もこれが現時点での最善手だと思う」
「そしてその最善手を今から見に行くわけですね」
「そうだな、そろそろ支度するか」
そう言って俺は新聞を畳んだ。
◆◆◆◆◆◆
エアルレーザーの国王交代の儀式は関係者意外立ち入り禁止かつ厳かな雰囲気のもとで行われたのだが、フェイグファイアの国王交代の儀式は違う。
「ごっしゅじんさまー! のんでますかー!?」
顔を真赤にしたツェンタリアがベタベタと腕に絡みついてくる。俺はツェンタリアのドレスのズレてしまった肩紐を直してやりながら「おー飲んでる飲んでる」と答える。竜王の間では各地の豪族が集まっての大宴会が行われている。いや、竜王の間だけではない。今日は国民全員が宴会を開いているようだ。
「アニキとツェンタリアさん、今日は来てくれてありがとうございますッス!」
「よおノイ……いやこちらこそお招きいただき光栄です牙王ノイ様……」
挨拶してきたノイに丁寧に返事を返す。するとノイは少しの間呆気にとられたあとで破顔する。
「やめてくださいよ、自分はそんな柄じゃないッスから」
「何言ってんだ。これからはそういう場面も必要になってくるぞ?」
俺の言葉にノイは「うーん」と腕を組んで少し考えたあと口を開く。
「でもアニキはアニキッス。それに自分はそういう事が言い合える人がいることが重要だと思うッスから」
「……そうか」
俺は微笑みながら心の中で『育ちきってないとか言って悪かったなノイ』と前言撤回した。ノイは本質的に王に何が必要なのか理解できているのだろう。
「それじゃあ自分は豪族たちに挨拶してこないといけないのでこれで!」
そう言ってノイは忙しそうに去っていった。俺はそれを見送ったあとあたりを見渡す。ツェンタリアはフロラインと話に行ったようだ。……お、今ならトレイランツの周りに誰もいないな。
「よ、トレイランツ」
「……うム」
王座に座っているトレイランツが右腕を上げる。どうやら返礼のようだ。俺は王座の右隣に立って竜王の間を眺める。
「……ここが竜王の間と呼ばれるのも今日までか」
「……ノイをよく育ててくれたナ」
「よせよ、お世辞なんてアンタらしくもない」
トレイランツが冗談を言うような人物でないことは知っているのだが俺はそんな言葉を返す。するとトレイランツがフッと笑った。
「……ジーガー、共闘できて楽しかったゾ」
どうやらコレもトレイランツの本気の言葉であるらしい。俺は苦笑しながら口を開いた。
「ああ、俺もだよ。またやろうぜ」
豪族の長老達がこちら側とチラチラと見ている。どうやらトレイランツと話したがっているようだ。それを察した俺はトレイランツに軽くお辞儀をして王座から離れた。
さて、今度は誰と話そうかね……と考えていた俺にすぐさま声が掛かる。
「あーご主人様だー!」
「あ、良かったジーガー、ちょいと助けとくれ!」
見るとフロラインがツェンタリアに絡まれていた。どうやら「うへへへよいではないですかー」とほざくツェンタリアにドレスを脱がされそうになっているようだ。
俺は「……やれやれ」と呟いたあと迅速に対応した。「はーいお客さん終点だよー」と言いながら引き出した巾着袋をツェンタリアに押し当てて意識を刈り取る。そしてガクンとなったツェンタリアに対して「おいおいツェンタリア、もう酔っ払っちまったのか? しょうがねーなー」と平坦な発音で声をかけた。「ああもうこりゃだめだ帰ろう」しばらくして意識がないことを確認した俺はお姫様抱っこをして竜王の間から出ていこうとする。
その背中にフロラインが「手慣れたもんだねぇ」と声をかけてきたので「ツェンタリアはこうすれば俺に構ってもらえることを知ってるからなぁ」と返しておいた。
■依頼内容「大事なパーティーに出席して欲しいッス!」
■結果「酔っぱらいの馬精霊を連れて帰った」
■報酬「5万W(5万Wは結婚のご祝儀も含めてノイに渡しておいた)
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