第64話 そして力は国すら壊す
今日のツェンタリアさん
「振動とか大きくなるとかそういう話は大好物です!」
「それにしてもベルテンリヒトそのもの動かしてくるとは……ヴァリスハルト様の発想は恐ろしい物がありますね」
●依頼内容①「ベルテンリヒトの攻略」
●依頼主「エアルレーザー国王エアフォルク」
●報酬「100万W」
●依頼内容②「砕くのを手伝え」
●依頼主「フェイグファイア国王トレイランツ」
●報酬「100万W」
「ツェンタリア、ちょっと加速してくれ」
俺の言葉にツェンタリアが「はい」と頷いてグングンとベルテンリヒトを引き離していく。
「先ほどの依頼はどなた様からだったのですか? 矢文が飛んできた方向からエアフォルク様ではないことはわかるですが」
「その依頼主様に今から会いに行くのさ……いや今回の場合は共闘者でもあるのか」
◆◆◆◆◆◆
「よう、待たせたな」
依頼文に書かれていた待ち合わせの場所に行くと既に相手は到着していた。
「……1分ダ」
俺の後ろにいるツェンタリアがその相手を見て口をパクパクさせていている。意外な人物の登場に言葉が出てこないようだ。
「相変わらず時間に厳しいな、トレイランツ」
そう、今回の依頼主兼共闘者はフェイグファイア国王のトレイランツである。ちなみに先程の言葉の意味は予定時間から『1分遅れているぞ』という意味である。
「……迎撃するゾ」
そう言ってトレイランツが歩き始めた。相変わらず言葉の少ないやつだ。俺もそれに並ぶ。
「了解、そう言えばアンタと共闘するのは初めてだったな?」
「そうだナ……嬉しく思うゾ」
トレイランツがフッと笑った。
俺が「久しぶりにアンタの笑顔を見た気がするぜ」と茶化すと、トレイランツは「そうカ……?」と答える。
最近はノイの名声を高めるために王座でふんぞり返っているのが仕事のようなところがあったが、本来のトレイランツは『戦馬鹿』と呼ばれるくらいの好戦的な男である。何しろエアルレーザー軍に無人のネルン村が襲われた(しかもそれはトレイランツの仕掛けた罠)だけで厩を破壊仕返すような奴だ。そんな男がヴァリスハルトのベルテンリヒトを使った侵略を黙って見過ごすわけがない。長年の遺恨もあったのでわざわざ出てきたのだろう。
「……状況ヲ」
「ベルテンリヒトは南西にあるフェイグファイアの王都に一直線に向かっていてこの地点を通過するのは5分13秒後。一時間ほど並走していた俺に対してベルテンリヒト内部からの攻撃は無し。魔力も探ってみたんだがそちらも無し。たぶん無人だと思う。移動手段はベルテンリヒトの下部から生えている無数の足。ありゃゴーレムだな、しかもバンデルテーアの遺産級の」
「そ、そうなのですか?」
トレイランツショックが収まったツェンタリアがまた驚いている。俺は「ああ」と頷いたあとトレイランツに向き直る。
「さて、こんな所だが何か妙案はあるかね?」
「……砕ク」
「気が合うな」
単純明快な竜王の作戦に俺は苦笑した。
◆◆◆◆◆◆
ズゴゴゴゴゴゴゴゴとパラディノスの王都ベルテンリヒトが迫ってきている。その前に立っているのは間違いなく世界TOP3に入る力を持っている俺とトレイランツである。ツェンタリアは巻き添えになると危ないので少し離れてもらった。
「それじゃあ手はず通りに頼むぜ?」
「……うム」
そう言ってまず俺が死剣アーレを持って駈け出した。走り始めの頃と違い加速したベルテンリヒトは結構なスピードになっている。それに向かって俺は駆けている、すぐに距離は縮まった。
俺の後ろでトレイランツが力をためている。ヒュー、緊張感で背中がピリピリしやがるぜ。それに押されるように俺は更にベルテンリヒトに踏み込んでいく!
「全く誰だこんな滑稽なゴーレムなんざ作ったのは……」
俺は苦笑死剣アーレを構えた。ベルテンリヒトから生えている足の高さはちょうど俺の身長と同じくらいである。
つまり、『斬りやすい』位置にあるということだ。
「……フッ!」
目前に迫っていたベルテンリヒトの足が俺を弾き飛ばそうとした瞬間、カウンター気味に死剣アーレを一閃した。
これで下部全面に生えていた足は全てベルテンリヒトとはオサラバだ。いきなり足がなくなって、勢いのついたベルテンリヒトが俺の上を通過していく。
「これで俺の仕事はおしまい。あとは頼んだぜ、トレイランツ」
上を通過していくベルテンリヒトを見ながら俺は苦笑した。なぜ苦笑したのかといえばトレイランツの考えた作戦にである。①俺がベルテンリヒトの足を切って勢いを削ぐ。②勢いの弱まったベルテンリヒトをトレイランツが砕くというのだから……。
「全く馬鹿げた作戦だぜ……………げっ!!!???」
そこで俺の表情が凍りついた。なぜなら今、轟音を立てながら俺の上を通過していったベルテンリヒトの内部から聞き覚えのある音がしたためである。それは俺の顔の横についている耳が直接聞いた音ではないが紛れも無く『俺が聞いた音』だった。
俺は振り返って叫ぶ!
「逃げろトレイランツッ!!!!! 爆弾だっ!!!」
そう、先ほど耳に届いた音はネイベル橋で俺の分身が聞いた爆弾の音だったのである。しかし、俺の声は轟音にかき消され、なおかつ集中しているトレイランツには聞こえない。
「グオオオオオオオオオオオ!」
力をため終えたトレイランツが気合とともに跳躍してしまった。
「グッ……間に合ええええええっ!」
俺はトップスピードにギアを入れて走る。いやトップスピードじゃ間に合わねぇ、もっとだ。もっと早く走るんだ!
俺は限界を越えたスピードで足を回転させ、ベルテンリヒトの下を駆け抜ける。
そして、今まさにベルテンリヒトを砕かんとしているトレイランツに手を伸ばした。
ここで大爆発が起こった。
◆◆◆◆◆◆
「お、落ち込まないでくださいご主人様」
「あぁ……」
俺はトボトボと家路を歩く。あの時、俺はトレイランツの前に立って爆風をもろに受けた。俺自身はあの程度の爆風ではビクともしないのだが、他の人物に取っては致命傷となるような爆発だ。それはトレイランツも例外ではなかった。
「俺にもう少し身長があったらなぁ……」
「トレイランツ様も一命を取り留めたのですし、ノイ様達も感謝してましたよ?」
そうなのだ。俺が巨体のトレイランツを庇うには面積が足りなかったのだ。そのためトレイランツは爆風によって両足を持ってかれてしまった。
「……そうだな。報酬も貰えたしな」
こんな事を言っているが当然すぐに切り替えられるほど俺の頭はおめでたくない。これは横で俺を励ましてくれているツェンタリアに対しての礼儀というやつだ。もちろんツェンタリアもそんなことは百も承知なのだが乗ってくれた。
「そうですよ、悪いのは全てバンドゥンデンとヴァリスハルトです!」
……あ、ツェンタリアがヴァリスハルトを呼び捨てにし始めたぞ。完全にお怒りモードだ。こうなったツェンタリアへの対処法は2つしかない。1つは近づかないこと。もう1つは……
「よし、ツェンタリア。作戦会議も兼ねて旨いもんでも食いに行くか!」
この後めちゃくちゃ食事した。
■依頼内容①「ベルテンリヒトの攻略」
■結果「ベルテンリヒトは破壊した」
■報酬「100万W」
■依頼内容②「砕くのを手伝え」
■結果「破壊はしたものの反省すべき点のある任務だった」
■報酬「100万W」
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