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第63話 富は国すら走らせる

今日のツェンタリアさん

「私が今送っているこの風を何か別のことに使えないのでしょうか。例えばお風呂あがりの石鹸のいい香りをご主人様に送ってみたり……ってそのために空槍ルフトを手に取っていたら怪しさ爆発ですね」


「今度あの薬を貸してもらいましょう、いえ別に何も企んでませんよええ」

●依頼内容「ベルテンリヒトの攻略」

●依頼主「エアルレーザー国王エアフォルク」

●報酬「100万W」


「……」


 俺はベルテンリヒトの城門に手をかけたまま固まっていた。


「……どうしたのですかご主人様?」


 後ろで首を傾げるツェンタリアの言葉に答えられないほど俺は集中しているのだ。その意識はベルテンリヒトではなく地下に向けられている。


「ツェンタリア……振動を感じないか?」


「え、振動ですか?」


「僕には感じられませんが……」


 ツェンタリアはまだ気づいていないらしい。信者たちを撤収するよう部下に指示を出していたエアフォルクも感じられないほどの微弱な振動。しかし、俺はハッキリと感じ取れる。俺は城門から手を離して振り向いた。


「だんだん大きくなってやがる」


「えーっとシモネタですか?」


「んなわけねぇだろ。エアフォルク、撤退の準備をしてくれ」


「ど、どうしてですか!?」


 急な俺の言葉に納得できないエアフォルクが声を荒げる。しかし、もはや疑惑が確信に変わった俺にはエアフォルクと悠長に口論をしている暇はない。俺は普段と変わらぬ口調ながらも殺気をにじませた声でエアフォルクを説得する。


「いいからさっさとしろ。せっかくリヒテールから受け継いた騎士を全員死なせたいのか?」


「……そこまでですか?」


「多分な」


「わかりました。すぐに撤退させます」


 俺の様子からエアフォルクは状況の深刻さを理解してくれたようだ。すぐさま伝令を呼び寄せ撤退の準備を始める。


「私達はどうするのですか?」


「ちょっと離れて様子を見るぞ」


「殿軍ということですね?」


「場合によっては……な」


 俺はベルテンリヒトから離れながら、左手をスナップして巾着を収納した。・


◆◆◆◆◆◆


 ゴゴゴゴゴと地面が揺れている。もはや振動は誰にも感じられるくらい大きなものになっていた。ベルテンリヒトの前にいるのは俺とツェンタリアのみだ。エアルレーザー軍はエアフォルクの指揮のもと迅速に撤退した。


「エアフォルク様、最後まで残りたがってましたね」


「まったくバカフォルクめ、まだ王の自覚がねぇのか。それならその地位俺によこせってんだ」


「本当に欲しいのですか?」


「……んなわけねぇだろ」


「これからどうなるのでしょうか?」


「わからん。ただ、ヴァリスハルトが意味もなく地面を揺らすなんてことはありゃしないからな。きっと碌でも無いことが起きるぞ」


 するとピタリと揺れが収まった。


「さーて鬼が出るか蛇が出るか……」


 辺りを警戒するが何も出てこない。いや、何かが動いている気配があった。耳を澄ますとズズ……ズズ……と何かを引きずるような音がしている。


「ご主人様、あのー……」


 どこから音が聞こえているのか、俺はそれを探るために集中する。するとツェンタリアがおずおずと話しかけてきた。俺が集中している事は解っているだろうに、それでも声をかけるということは重要な事なのだろう。俺が努めて優しく「どうしたツェンタリア?」と尋ねるとツェンタリアはベルテンリヒトを指差して口を開いた。


「ええっと私の気のせいだと良いのですが……ベルテンリヒトが大きくなっていませんか?」


 俺はすぐさまベルテンリヒトの方に向き直って意識を集中する。


「なるほど……音がするのもベルテンリヒトの方角だ。だが、大きくなるってのはどういう了見だ?」


 ベルテンリヒトを見上げながら呟いていると……今、確かにベルテンリヒトがじわりと大きくなったように見えた。そこで俺は先程から続いていた振動の正体に気づいた。


「いや違うぞツェンタリア、ベルテンリヒトが大きくなってるんじゃねぇ……」


 俺の言葉を遮るかのように再び振動、しかし今度は地面の中からではなく目の前のベルテンリヒトが発生源だ。俺は内心で「マジかよ」と思いながら苦笑いを浮かべる。


「ベルテンリヒトがこっちに近づいて来てんだよ!」


「えぇっ!?」


 ツェンタリアの声に呼応するかのようにズワァっとベルテンリヒトの下から虫の足のようなモノが無数に伸びてきた。それらが蠢いて巨大なベルテンリヒトをジワジワと移動させていたのである。


「チッ、ヴァリスハルトもとんだ隠し玉を持っていたもんだぜ」


「どうしますか!?」


「とりあえず馬形態になってくれ。並走しながら考える」


 そしてパラディノスの王都ベルテンリヒトは移動を開始した。


◆◆◆◆◆◆


「南に向かっていますね」


「そうだな……ついでに言うとフェイグファイアの王都まで一直線だ」


 俺は頭の中で地図を浮かべながら頷く。ベルテンリヒトはエアルレーザー軍を追うわけでもなく川を渡り丘を乗り越え、今はフェイグファイアとの国境近くにある平原を走っている。最初はズリズリとした移動だったのだが下部前面に生えている足が段々と発達していき、今やかなりのスピードとなっている。


「なぜベルテンリヒトはフェイグファイアの王都に向かっているのでしょう?」


「さあな、湖を超える必要があるエアルレーザー王都、段差の多いアップルグンドの魔王城に比べて道が平坦だからじゃねぇのか……それか誰かに個人的な恨みでもあるとかな」


「ヴァリスハルト様の個人的な恨みですか?」


「ああ、ヴァリスハルトとトレイランツの2人は昔っから仲悪かったからなぁ」


「なるほど、個人的な武勇を誇るトレイランツ様と人海戦術を駆使して戦うヴァリスハルト様では考え方にかなり隔たりがありますね」


「ああ、その他諸々あってヴァリスハルトにとって国としてはアップルグンド、個人としてはトレイランツが仇敵なんだ」


「なるほど……ところでフェイグファイアに入ったのですが……いかが致します? 壊しますか?」


「まあそう焦んなさんなって。自分を安く売るなんてのは昔の俺みたいなバカがする事さ」


 幸か不幸かベルテンリヒトの進む先には村も民家もなく、フェイグファイアの王都につくまで充分に時間がある。


「その発言は先ほどの飛ばしていた紙飛行機と何か関係があるのでしょうか?」


「お、さすがツェンタリア鋭いな……おっと!?」


 ハッハッハと笑っている俺に向かって矢文が飛んできたので素手でキャッチする。手早く手紙を開いて内容を確認すると俺は「よしっ」と呟いたあと右手をスナップした。


「それじゃあ依頼も来たことだし、ちゃっちゃと破壊しますかね」


 死剣アーレを手にした俺がニヤリと笑う。


 さあ、仕事だ仕事だ。


■依頼内容「ベルテンリヒトの攻略」

■経過「めんどいのが出てきた!? part2」

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