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第60話 高きものは頭とプライドと恨み

今日のツェンタリアさん

「これは……興味深いですね……実に興味深いですね……なんと、そのような悦ばせ方が!? なるほど挟んだうえに舐める……ふむふむ……」


「///……/// !? ご、ご主人様いつからそこに!?」

●依頼内容「ベルテンリヒトの攻略」

●依頼主「エアルレーザー国王エアフォルク」

●報酬「100万W」


「ご主人様、そんなに新聞を睨んでどうしたのですか?」


「ん? あぁ、そうかそんなに険しい顔をしてたか」


 食器を洗い終えたツェンタリアの言葉で俺は眉間にシワが寄っていたことに気付いた。ハハハと笑いながら俺は親指で眉間のシワを伸ばす。そして俺はツェンタリアに今日の一面を見せた。ツェンタリアは顔を近づけて新聞を声に出して読み始める。


「えーと……『剣王リヒテール退位! 先日のカーカラックの襲撃によって負傷していたエアルレーザー国王リヒテールが退位を発表した。今後は一人息子のエアフォルク氏が国王となる模様。リヒテール氏は世界屈指の大国エアルレーザーを23歳になって継いで以降国家の発展に尽力、近年では騎士団から頭角を表した勇者ジーガーの活躍によって周辺国2つを併呑、1国に苛烈な攻撃を仕掛け……」


 新聞を読むツェンタリアの眉間にどんどんシワが寄っていく。なるほど、俺もこんな顔だったのか。俺は充分にツェンタリアの顔を観察し終えたあとで「シワ寄ってんぞ」と指摘する。慌てて眉間の皺を伸ばすつツェンタリアをみて俺は笑った。


「なるほど、これは確かに先ほどのご主人様の顔のようになってしまいますね」


「いや、俺があんな顔になっていた理由はエアフォルクが項王になったってだけじゃねえぞ?」


 そう言って俺が取り出したのは2枚の依頼文書だ。それを見ただけでツェンタリアは俺がこれから何を言うのか察しがついたようだった。


◆◆◆◆◆◆


「エアフォルク様も即位してすぐにパラディノス攻撃を決定するなんて意外と過激なんですねぇ」


「そりゃ『騎士王エアフォルク様』の初陣だ。力を国民だの騎士団だの周辺国だのに見せつけなくちゃいけねぇからな」


 俺とツェンタリアはパラディノスの国境近くにてエアルレーザー軍の到着を待っていた。ツェンタリアの言っている通り、エアルレーザーに即位した騎士王エアフォルクはすぐさまパラディノスに宣戦布告した。剣王リヒテールを退位に追い込んだパラディノスへの復讐を果たす戦いの中で自らの地位を盤石にする狙いがあるのだろう。そのためには辛勝では足りない、普通の勝利でも足りない、完勝が必要となってくる。だからエアフォルクは大金を積んで俺に依頼したのだろう。


 事象だけ見ればパラディノスは踏んだり蹴ったりである。カーカラックが急にエアルレーザーに向かって暴走した挙句、リヒテールを傷付けてしまった。そして必死の弁解も聞き入れてもらえずに本気のエアルレーザー軍に攻められるのだ。


 国王が凡人ならばカーカラックが暴走してしまったという弁解も信じてもらえたのかしれないが、なにしろパラディノスの指導者は聖王ヴァリスハルトである。なにしろ弱兵を抱えながらも頭脳だけでアップルグンドやエアルレーザーと渡り合ってきたヴァリスハルトだ。暴走を繰り返していたのもこのための布石……と言われても納得できてしまうのだ。


 まあ、今回の場合は相手も悪かった。爽やかな外見に騙される奴が多いが、騎士王エアフォルクの本性は糞真面目にゲスい。そんな奴がこんな美味しい敵を放っておくわけがねぇ。


 ちなみになぜエアフォルクに騎士王などという修飾語が付いているのかと言うと、この世界の王には必ずこういった肩書がつく決まりがあるのだ。その他にも世間から一目置かれている俺やシュテンゲにもそれぞれ「勇者」だの「賢人」だのが肩書が付いている。まあ俺は返上したけどね。


「あ、エアフォルク様がお見えになられましたよ」


 ツェンタリアが指し示す方角を見ると、相変わらず重そうなフルアーマーに身を包んだエアフォルクが馬に乗って向かってきていた。


「相手は騎士王様だ。土下座でもした方がいいかね?」


「ど、どうなんでしょう?」


 俺の冗談に真面目なツェンタリアがあたふたしている。そうこうしている内にエアフォルクの馬が俺達の前で止まった。


「ジーガーさん。本日は我が陣に馳せ参じていただきありがとうございます」


 馬上から降りずに見下ろしながらエアフォルクは微笑んだ。


「……」


 ……俺はそのエアフォルクの態度にムッとしたあと、足に力を込めた。


「ああ、よろしくなエアフォルクくん」


「ご、ご主人様!?」


 俺はエアフォルクの馬の頭に立って慇懃な態度で無礼に礼を返す。エアフォルクに対して「俺に舐めた態度を取るには100年早い」というのを分かりやすく行動で示したのだ。ちなみに馬の負担にならないように周りの風を操って体重はほぼゼロにしている。そのまんま馬の頭の上に立ったらツェンタリアが悲しむからな。


 一方のエアフォルクは数刻こちらを凝視したあと苦笑し、顔を近づけて囁いた。


「……勘弁してくださいよ先輩」


 つまり、エアフォルクとしては自分のメンツがあったのでああいう態度を取ったとでも言いたいのだろう。だがそんなことは俺の知ったことではない。俺は再び風を操り、馬の頭からふわりと浮いて空中を歩きはじめる。もちろん頭の高さはエアフォルクより少し高めだ。


 そして俺はエアフォルクにしか聞こえないように声を低くして呟いた。


「俺にはパラディノスのヴァリスハルトからも依頼が来てるってことを忘れるなよ?」


「…………はい」


 流石にマズかったと思ったのだろうエアフォルクが俺の言葉にシュンとしている。


「あと、俺でなくてもいいから本音で話せる奴を作っとけ……でないとこの先辛くなるぞ」


「はいっ!」


 エアフォルクが今度は元気に返事をした。


■依頼内容「ベルテンリヒトの攻略」

■経過「エアフォルクと合流した」

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