第59話 優れた勘はもはや予言
今日のツェンタリアさん
「くっ、さすが賢人シュテンゲ様、手強い……しかし私は負けられないのです! 全国の(淫)夢見るうら若きしょ(う)じょのために!」
「真面目な所、最初は押していたのですが攻めきれず最終的には5分5分でした。あれだけの魔法を連続して撃って息1つ乱さないというのは信じられませんね」
●依頼内容「ちょっとそこまで調べ物と修行」
●依頼主「俺とツェンタリア」
●報酬「今後の戦いに関わる知識と自己の研鑽」
「入るぞー」
コンコンとノックをしたあと、俺は世界図書館ヴェンタルブーボの一室に入る。そこは奥に見える窓以外のすべての壁が本棚になっている部屋だった。本棚以外の家具は窓の前に設置された机のみである。その机の前の椅子に、この奇妙な部屋の主が腰掛けていた。
「なんだいジーガー夜這いかい?」
椅子を俺の方に向けてニヤニヤ笑っているのはシュテンゲである。食事を終えた俺はシュテンゲの部屋にやってきたのだ。ちなみにツェンタリアはエロ本コーナーで鼻息を荒くしていたので置いてきた。
「まだ夕方にもなってねぇだろ。それにノックする夜這いがあるか」
「いやいや見られて喜ぶタイプの男かもしれんだろう?」
「冗談よせよ、興味ないくせに」
そう言いながら俺は近くあった三段ほどの脚立に腰を下ろす。するとシュテンゲがヒヒっと笑いながら手のひらをグーパーさせる。
「いやいや興味はあるよ? ただこの体はヤルための体じゃないんでね」
「……そうなのか?」
「あれ、言ってなかったっけ? この体はついてないのさ」
「そりゃ知らんかった。すまんな」
俺が頭を下げるとシュテンゲは「いいよいいよ」と手をひらひらさせた。シュテンゲの言っている『ついてない』と言うのは運が悪いという意味ではない。シュテンゲは胸こそ膨らんでいるが男性器も女性器もついてないのだ。
「アンタなら作れそうなもんだけどな」
「ハッハッハ、ジーガーも知ってるだろ? アタシは求められたものしか作れないのさ」
「……そうか」
シュテンゲは人間では無い。いやもっと言ってしまえば生物ですら無い。元々シュテンゲとは『他者から求められたものを差し出す』という能力を持ったバンデルテーアの遺産の名前である。そこに昔の物好きがゴーレムを憑依させてできたのが俺の目の前にいる賢人シュテンゲである。勿論この事は極秘だ。何しろこれほど使い勝手の良いバンデルテーアの遺産というのは聞いたことがない。そのため、この事を知っているのは唯一の弟子である俺だけとなっている。
「あのツェンタリアって子、強くなるね」
「ああ、人のために傷つくことができるからな」
俺の言葉を聞いたシュテンゲが苦虫を噛み潰したような顔になる。
「……アンタは本当にいきなり核心部分を話すね。それはもうちょっと話した後に師匠のアタシがビシっと決めるセリフだろ」
プンプン怒っているシュテンゲは人間にしか見えない。しかし、あれだけ激しくツェンタリアと戦ったにもかかわらず、疲れた様子が見えなかったのは、やはりシュテンゲが人間ではないという事を如実に表している。
「それじゃあ今度は俺の話の核心部分、本題に入っていいか?」
「オーケーオーケー、ババアで良けりゃ答えてやるよ」
元々がそういう物であったためか、シュテンゲは人の話を聞くのが好きだ。今も俺の言葉をワクワクしながら待っている。俺が苛烈な詰め込み教育から最後まで逃げなかったのは、どんな質問にも答えてくれるこのシュテンゲの姿勢が大きかったと言える。こういう教師が担当だったら俺の学校での成績も良かったのかもなぁ。
そして、10年経った今でも俺はシュテンゲにド直球の質問を投げようとしている。
「なぜ俺を選んだ?」
俺の質問はそれだけである。短すぎて他の人間なら全く意味がわからないだろうが、シュテンゲなら解る。なぜならシュテンゲは俺の召喚主だからだ。
「おう、10年越しの質問だね」
10年前のここ、世界図書館ヴェンタルブーボで俺を召喚したバンデルテーアの遺産が口角を上げる。
「前々から聞きたいとは思ってたんだが忙しくてな」
「そうみたいだね、随分と依頼をこなして稼いでるみたいじゃないのさ」
賢人が人差指と親指でお金のマークを作っている……色々と酷い絵面である。俺が「ぼちぼちでんな」と棒気味に答えるとシュテンゲは「はは、なにそれ」と笑ったあと真顔に戻る。
「質問の答だけどねジーガー、アンタ勘違いしてるよ」
「つまり……アンタが俺を選んだのではなく、アンタに対して『誰かが俺を求めた』のか?」
俺の言葉にシュテンゲが無言で頷く。
「それは誰なんだ?」
「それは教えらんないね」
「なぜだ?」
「疑問ばっかりだね、アタシはアンタをそんな能なしに育てた覚えはないよ……ま、ヒントを出すとするならば4国の王じゃないよ」
シュテンゲは「ふっふっふ」と笑う。なるほど、先ほど核心部分を突かれたことに対するお返しというわけか……っとなると俺もシュテンゲの隠している『誰か』を当てる必要があるな。しかも迅速に。
「こっちの世界だとでも言うんじゃないだろうな?」
「ギクッ」
あ、シュテンゲが珍しく固まった。しかし、動きは止まったのは数秒、すぐに諦めたようにため息をつきながらぶーたれる。
「ほんっとうに馬鹿げた勘を持ってる上に容赦なく核心突いてくる弟子だね!」
「おいおいマジで当たりかよ」
プンスカプンスカしているシュテンゲを見て俺は半笑いになる。いやなんとなく話の流れ的にそうじゃないかとは思っていたがまさか本当にそうだとは思わなかった。
「ほらほら帰った帰った」
シュテンゲは俺をグイグイと部屋から押し出そうとする。力では俺のほうが強いのだがシュテンゲの剣幕がすごく、何となく止まれない。
「おいおいまだ質問が」
「そんくらいシワクチャの脳みそ持ってる自分で考えな! あ、そうそう契約は切られているから安心して好きなように生きればいいじゃないか誰も咎めやしないよ! はいおしまいバイバイさようなら!」
「お、おう……そうするよ」
バタンと閉じられた扉に俺は微妙な返事を返した。
■依頼内容「ちょっとそこまで調べ物と修行」
■結果「俺は本を読み漁り、ツェンタリアはシュテンゲと修行を行った」
■報酬「今後の戦いに関わる知識と自己の研鑽、そして賢人からありがたいお言葉を賜った」
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