第58話 よく食べよく学びよく稼ぐ
今日のツェンタリアさん
「上手く逃げられましたね……いや普通ということは裏を返せば異常なのでは!? つまりご主人様は異常に私ことが好きということに!? あ、逆に異常に嫌いな可能性は考慮しませんよ? ありえませんしね」
「まさかシュテンゲ様が女性だとは思いませんでした。ちょっと警戒しましたがご主人様とはそういった雰囲気では無さそうなので一安心ですね」
●依頼内容「ちょっとそこまで調べ物と修行」
●依頼主「俺とツェンタリア」
●報酬「今後の戦いに関わる知識と自己の研鑽」
『あの気難しいジーガーが連れてるから只モンじゃ無いと思ってたけど、まさか炎の精霊とはね。どおりで水に弱そうな顔つきだったわけだよ!』
『ですが今はこの氷杖リエレンがあります!』
俺は窓の外から聞こえてくる二人の声をバックミュージックにして調べ物をしていた。聞こえる呪文や音から察するにシュテンゲが大きな水の塊を放ったが、ツェンタリアは氷の壁を作って塞いでいるようだ。
「これならいい修行になりそうだな」
俺はシュテンゲに2つのことを頼んだ。まず1つ目はツェンタリアに稽古をつけてやって欲しいということ。もう1つは……
「それにしても10年分の書物ってのは結構な量だな」
俺はシュテンゲに用意して貰った資料の山を見て「見込みが甘かったと」ため息をつく。この山は俺がここを出て以降に刊行された全ての書籍によって形成されているのだ。俺がここに来た目的はこれのチェックと、今後戦うであろうモンスターや人物達の戦力の復習のため、あとはちょっとした事である。
俺は作業を続ける。
「次の本は『リヒテール国王単独インタビュー! 裏切られないマネジメント!』……ギャグかよ。んでこっちは『ジーンバーン写真集 君臨せし機動部隊隊長の日常に迫る ※巻末付録前機動部隊隊長ラート氏の批評有り』……興味深いな」
『それでジーガーとはどこまでやったのさ!? まさか10年も一緒にいてBもやったこと無いってことはあるまいね!?』
『か、過去の話なんて無意味です。私は何をやったか思い出すのでは無く、これから何を為すかを考えます!』
外ではツェンタリアとシュテンゲの戦いが佳境に入ってきたようである。両者共に声を荒げて攻撃力の高い技を放つようになってきた……というかあの2人喋らなきゃ戦えないのかね。
「それじゃあ俺もスピード上げますかね」
俺は椅子の上で伸びをした。速読を取得はしているのだがそれでもこの量だ、1人では終わらない。そのため速読も使えて、文句も言わず、利害も一致している都合の良い30人の助っ人を呼ぶことにした。
「知っててよかった分身の術っと」
俺はベアンヅを発動、分身を30体作った。俺は出てきた分身を見渡したあと口を開く。
「さて、何をするか言わなくても分かるよな?」
「当然だ」
「それじゃあ俺はフェイグファイアで刊行された資料を」
「俺とそこの俺はパラディノスだな、あそこ資料多いし」
「それじゃあ俺がアップルグンドで」
「エアルレーザーは俺と……もう一人頼めるか? あそこの書物頭悪すぎて大量に読むのはキツい」
「わかった俺が手伝おう」
「残った俺達は復習って事で良いんだよなオリジナル?」
「あぁ、特にバンデルテーアの遺産と伝説級のモンスターについて重点的に調べてくれ」
テキパキと役割分担した分身に俺は満足気に頷く。さすが俺だ、話が早い。ちなみに分身が得た知識は元に戻るときにシッカリ頭に入るようになっている。俺が世界一の賢人シュテンゲからの苛烈な詰め込み教育をモノにすることができたのはこの術による所が大きい。
「それじゃあ作業に入るぞ」
俺たちは輪に並んで「ご安全に」と言った後、部屋に散った。
『鍛錬無しに戦地へ赴いた剣士がすぐ死ぬように、知識のみで行為ができると過信していたらその先に待つのは酸っぱい経験よ!?』
『初めの拙いところも含めて愛してくれるのがご主人様です!』
外ではまだ女の戦いが続いている。ちなみにもちろん俺はそういった事に言及したことは一度もない。まぁ……色々とデリケートな問題だからな。
◆◆◆◆◆◆
2人が部屋に戻ってきた。
「よ、お疲れさん。勝手にキッチン使わせて貰ったぜ?」
「あら、調べ物はもう終わったのかい? ずいぶんと早いんだね」
俺は作っておいたランチと共に修行を終えた二人を出迎えた。テーブルには冷製パスタ、シーザーサラダ、コーンポタージュ、更に運動してきた2人のために作ったサンドイッチが並ぶ。挟まっているのはタマゴと鶏の照り焼きだ。
「わぁ、ご主人様ありがとうございます!」
テーブルの上に並ぶ品々を見てクタクタになっていたツェンタリアが元気を取り戻す。多分この後自分がランチを作らなければと思っていたのだろう。一方でシュテンゲは疲れた様子もなく俺の顔をニヤニヤしながら見ている。
「へぇ、戦いばかりに明け暮れていたってのに美味しそうじゃないかい。どれどれ味は……」
「おっと手は洗ったか?」
外から戻ってきたシュテンゲがそのままサンドイッチに手を伸ばそうとしたので、俺は皿を操って浮かせる。
「あ、こりゃ失敬。自分で教えたこと忘れちゃいかんね」
そう言ってシュテンゲが呪文を唱える。すると拳ほどの大きさの水の玉が現れシュテンゲの手を包み込んだ。
「よし、これで清潔!」
俺は相変わらず「便利なやっちゃな」と苦笑しながら皿を戻した。
そうしてツェンタリアと俺も手を洗い終え、俺たちはランチを食べ始めた。
「それでどっちが勝ったんだ?」
「はい、結局ビッチと処女どちらが男性は好きかという議論は平行線に終わりました」
「いやそういう意味じゃなくてだな」
ツェンタリアはダメだと判断した俺はシュテンゲに目を向けるが……
「ほいひー! ちょっとジーガーいつの間にこんな腕上げたのよ。コッホ村出身のシェフ並じゃない」
「……はぁ、もういいよ」
■依頼内容「ちょっとそこまで調べ物と修行」
■経過「調べ物と修行は終えた。後は……」
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