第54話 歴史と大金の動く時
今日のツェンタリアさん
「ご主人様の前だったので気丈に振る舞いましたが、実際は真面目に死を覚悟しました……まあ精霊に死があるのかはわかりませんが」
「それにしてもおかしいですね……全て2択なのに正解率0%とは。やはり最初に答えたように途中で正解の無い2択を選ばされていたのでは!? え、そんなことはしていない? 本当ですかぁ?」
●依頼内容①「夫のヴィッツを助けて」
●依頼主「新聞記者ラート」
●報酬「20万W」
●依頼内容②「暴走したカーカラックを排除して欲しい」
●依頼主「パラディノス国王ヴァリスハルト」
●報酬「100万W」
「ジーガーよぉ、勇者ジーガーよぉー」
「ん……ここは?」
俺が意識を取り戻した所は一面の花畑だった。花畑と言ってもヒマワリやチューリップではなく全てブタクサというのは気に入らないが、目の前にいる人物に比べたら些細な問題である。
「我輩はいま意識を飛ばしてお前の夢に登場しているのだ」
「俺の夢に不法侵入とは随分と暇そうじゃねぇかシュタルゼ」
そう、花畑で俺と向かい合っているのはただ今絶賛昏睡中のアップルグンドの魔王シュタルゼである。それを踏まえた俺のイヤミにシュタルゼは「まあそう言うな」苦笑する。俺はため息を付きながらシュタルゼに訊ねる。
「それで、今度は何の危機なんだ?」
「ふむ、話が早くて助かるぞ」
「何しろアンタが夢に出てくるくらいだ。霊峰ゾンネの噴火並かそれ以上の危機なんだろうさ」
実は前にも一度シュタルゼが夢に出てきたことがある。その時シュタルゼは霊峰ゾンネに大噴火の予兆があると言ってきた。『前』ということからも分かる通り、その当時は俺とシュタルゼは敵同士である。しかし、あまりにも必死でシュタルゼが頼む(というか5日連続で夢に出てきた)ので俺はしぶしぶ了解。かくして俺は魔王城に向かう途中でUターン、フェイグファイアの豪族をなんとかかんとか説得して霊峰ゾンネに登山することになったのだ。
以来俺とシュタルゼはある1つの考え方を共有している。それは『世界の危機は放っておかない』という点だ。簡単にいえば『国破れて山河あり』ならぬ『世界滅びて国は残る』というのは極力避けようとする考え方である。
「うむ、ただいまお前の部屋に1人の女が向かっている。その者に協力してやってくれ」
「それはまた、随分と遠回りなアドバイスだな?」
以前『つべこべ言わず霊峰ゾンネの噴火を止めよ! さもなくば我輩が手を下すまでもなく世界が滅びるぞ!』と直球で語っていたのとは対象的である。
「理由は2つだ。我輩よりその女の方が説明がうまい」
「へぇ、アンタも結構な知恵者だと思うんだがそれ以上なのか」
「うむ、何しろ説明のプロだからな。そして理由の2つめは、あと数秒でその女にお前は起こされることになるからだ」
「へ?」
◆◆◆◆◆◆
「大変よジーガー!」
「うぉわっと!?」
俺の部屋のドアが勢いよく開いて一人の女が入ってきた。よく通る声が部屋に響き、俺は飛び起きる。「なんだなんだ」とドアの方に顔を向けるとそこには最近見ることはなかったが、見知った顔があった。
「よぉ、ラートじゃないか久しぶり」
「久しぶりねジーガー、確か顔を合わせたのはベルテンリヒト以来かしら……ってそれどころじゃないのよ!?」
「声がでかいぞラート。ツェンタリアが起きる……わけねぇか」
この女は新聞記者ラート、以前情報屋ヴィッツという奴がいたがその妻である。優秀では有るのだが見た目は普通のオッサンのヴィッツと違って、ラートはパンツスーツをパリッと着こなすキャリアウーマンといったいかにも仕事ができそうな見た目である。実力も見た目通りでこの世界の新聞が俺の元いた世界以上の質になっているのは、ひとえにこのラートのおかげである。
「それで何が大変なんだ?」
「それが大変なのよ! 夫のヴィッツがカーカラックでエアルレーザーに!」
「落ち着けラート、らしくないぞ」
そうは言いながら俺はすぐさま二人分の支度を開始した。先ほどのシュタルゼの話を頭から信用するわけじゃねぇが、ラートが「話がある」と言っている時は、世界を揺るがすほどの事件が起こる前であることが多い。
特に今回のラートの取り乱しぶりから察するに、これから説明される出来事が緊急的かつ世界最大規模の事件である事が容易に察せられる。
俺の言葉を受けてラートは2・3回深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。そして順序立てて説明し始めた。
◆◆◆◆◆◆
「っというわけなのよ」
「さすがは世界一の新聞記者、簡潔かつわかりやすい説明だったぜ」
俺は心からの拍手をする。ラートの話を更に要約するとこうだ。①パラディノスのカーカラックが大量に暴走②向かっている先はエアルレーザー王都③そこには夫の情報屋ヴィッツがいるので助けて欲しい。
うん、とてもわかりやすい。
「だがタダで頼みは聞く訳にはいかない……わかるよな?」
「……」
「今の俺の存在は『金でしか動かない』という一つの絶対的なルールで成り立ってんだ。ここでヴィッツを助けに行ったら結果としてエアルレーザーばかりが得をする形になっちまう。一つの国にそこまで肩入れすることは出来ねぇな」
無表情に俺の顔を見つめていたラートの口角が上がった。
「解ってるわよ。はい、私からの夫ヴィッツの依頼文書と……ヴァリスハルトからの依頼文書よ」
「相変わらず手が早いな」
俺は差し出された文書を読んで苦笑する。ラートからだけでなくヴァリスハルトの依頼まで取って来ているとは思わなかった。
「アッハッハ手じゃなくて……足よ」
その俺の様子を見てラートがパンと肉付きの良い太ももを叩く。
「こりゃ失敬、元フェイグファイア機動部隊隊長様に失礼をば」
「ま、腕が落ちたのは確かだけどね」
俺は「それじゃあ準備するぜぇ」と言って隣の部屋に向かう。ツェンタリアを叩き起こしに行くのだ。
■依頼内容①「夫のヴィッツを助けて」
■経過「戦闘力皆無だからなあのオッサン」
■依頼内容②「暴走したカーカラックを排除して欲しい」
■経過「またカーカラックか」
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