第53話 運は実力の大部分
今日のツェンタリアさん
「ここまでは順調に来ていますね……(ジャーン)」
「急にしゃがんでどうしたのでしょう。2階級特進スープによる腹痛でしょうか? おや?何やら中央部が騒がしく……ってぇぇえぇ!?」
●依頼内容「エアルレーザー軍に奇襲を仕掛けよ」
●依頼主「アップルグンド国王シュタルゼ」
●報酬「50万W」
「……」
「くっ、あと少しだったのに……」
悔しげな声を絞り出しつつエアフォルクが膝をついた。全身に痺れが回ってきたのだろう。
右翼の方ではしゃがみ込んだツェンタリアがこちらを見ている。右手の痺れによって危剣フォルコンの動きが鈍ったのが幸いしたらしい。間一髪でツェンタリアがしゃがむ方が早かった。
「…………」
「グウッ!」
俺は無言でエアフォルクのに歩み寄り、脇腹を蹴り上げた。
今のは運が良かっただけだった。積み上がった「たまたま」のどこかが崩れていたらツェンタリアは血を流して倒れていただろう。
「クッ!」
ゴロゴロと転がったエアフォルクに俺は近づき、今度は横っ面を踏みつける。そしてギリギリと力を込めていく。
「なんということを!」「ジーガー貴様! エアフォルク様から足をどけろ!」
「なら止めてみろよ」
俺のまわりでエアルレーザーの兵が騒いでいる。だが所詮遠吠えだ。実際に俺の行動を止めようとするヤツなんていやしない。まぁ、俺が辺りに散らしている殺気に気付けないアホならエアフォルクの近くに配備されないだろう。
俺の足の裏でエアフォルクがどんな表情をしているのかは定かでは無い。しかし、時折聞こえるギリギリという音から奥歯を噛み締めていることは間違いない。
「……」
何も言わずその様を俺は見下ろす。そして体重をかけ続ける。やがて端正なエアフォルクの頭蓋からミシミシと音が鳴った。
「ガアアアアアァァァアァァ!?」
恐怖と痛みによって引きずり出されたエアフォルクの叫びが戦場に響く。それを聞いたエアルレーザー兵の顔が青ざめていく。たぶん「元エアルレーザーのジーガーが王子であるエアフォルクを殺すわけがない」などと考えていたのだろう。
俺も逆の立場ならそう考える。だが『戦い』『争う』等という物騒な文字が連なった『戦争』という言葉は常に残酷な現実を見せるものである。もちろんその残酷な現実の中には『大切な人間の命が絶たれる』なんてのも含まれている。
だから俺はツェンタリアの命を刈り取ろうとしたエアフォルクを許しはしない。人に剣を向ける者は人から剣を向けられることも考えなければならないのだ。
「覚悟はできてるんだろうな?」
「……最初か言っているでしょう。覚悟がなければ剣は抜きません」
その言葉を聞いて俺はフッと笑った。ここでエアフォルクが命乞いをするような人間でなくて良かった。ここで命乞いをされていたら……俺は渾身の力を足に込めていたかもしれない。
「殺しはしない。そういう依頼だ。お前を生かすことが俺の利益にもなるからな」
「そうですか……」
「ただ、しばらくは城で寝ていて貰うぜ?」
そう言うやいなや俺はエアフォルクの手を取り捻りあげた。
「グッウアアァァァアアアアッ!!!」
◆◆◆◆◆◆
「よぉ、危なかったなぁツェンタリア」
俺は手をシュタッと上げて近づいてきたツェンタリアに挨拶する。普段と変わらぬ様子の俺を見てツェンタリアが深く長い安堵のため息をついた。
「し、死ぬかと思いました」
「ハッハッハ俺はツェンタリアがショートカットになっちまうかと思ったぜ」
「おや、ご主人様はそちらの方がお好きですか?」
「いや俺は今のままの方が好きだな」
そう言いながら俺はツェンタリアの頭を撫でる。すると、ガイコツ達に撤退の指示を出し終えたベンジョブが顎を「カタカタカタ」鳴らしながら近づいてきた。
「おぅ、ベンジョブもお疲れさん」
俺にキツいお灸をすえられたエアフォルクは激痛によって気絶した。俺はエアフォルクで一通り憂さ晴らしをしたあと近くにいた兵に投げ渡した。指揮官がヒドい状態になってしまったエアルレーザー軍はすぐさま撤退、現在岩場には俺とツェンタリアとベンジョブが立っているのみだ。
「ここから見てたが大活躍だったじゃねぇか」
「カタカタッカタカタッ」
「ハッハッハ、相手の陣形が見えてんだから勝てるように布陣するのは当たり前ってなもんよ」
格付け的に言えば、14位のツェンタリアを22位のマルモル・クラニート・パサルトの三人組に当て、23位のベンジョブを24位のジュバイに当てたのだ。こうすることによって俺は5位のエアフォルクに専念できるようになる。必殺技を使われたときは少し危なかったがそれ以外は勝てるべくして勝ったと言うべきだろう。
「ただそれにしてもベンジョブの活躍は目を見張る物があったなぁ」
「はい、寡兵ながらジュバイ様の率いるエアルレーザー軍を翻弄しさんざんに追い立てていましたからね」
「カタカタカタカタ」
「はは、ベテランのジュバイを『まだ若い』と言ってのけるか」
ジュバイも10年間戦い続けている百戦錬磨だが、ベンジョブの戦歴はそれを上回っている。長さで言えば世界で二番目だろう。それ以上の戦歴を持っているのはパラディノス建国当時から生きているヴァリスハルトくらいなもんだ。そのため俺はある程度ベンジョブには敬意を払っている。
「それでーあのご主人様?」
「ん、どうした?」
見るとツェンタリアがくすぐったそうにしている。
「いえ、そのー……いつまで頭を撫でてらっしゃるのかなぁっと」
「……あ」
先程からずっとツェンタリアの頭を撫でていたことに気付いた俺は「おぉスマンスマン」と苦笑しながら手を引っ込めようとした。しかし、その手を掴まれ、今度はツェンタリアの頬に持ってかれた。
「うふふ……頭だけではなく今度はこちらでお願いします」
「……しょうがねぇなぁ」
そういえばと辺りに目をやると、いつの間にかベンジョブの姿は消えていた。
◆◆◆◆◆◆
「ご主人様、楽しそうでしたね」
「……なにがだ?」
帰り道、ツェンタリアの唐突な質問に俺は首をかしげる。するとツェンタリアが頬を染めつつ口を開いた。
「それはその……エアフォルク様を嬲っているときですよ」
「えぇっ!? そう見えたか?」
「はい、肩を外したあたりは辛そうな顔をしていましたが、気絶したエアフォルク様の髪の毛をチリチリに焦がし始めたあたりからは……」
俺はその時のことを思い出して「あー」と声を漏らす。言われてみれば途中から楽しかったような気がする。特に筆で顔に『むっつり大将軍』と書いてたあたり……
「まあ……楽しんでたかもな」
俺の言葉を聞いてツェンタリアは「やはりそうでしたか」神妙な顔をして考え込んでいる。
「ん? どういう意味だ?」
「あれは、高度なSMプレイだったのですね!?」
「あぁ、うん。ツェンタリアって性知識に自信あり気な割には結構な確率で間違うよな」
俺の深く長いため息を見てもツェンタリアのテンションは下がらない。
「ご冗談を、私のようなカリスマエロソムリエに対して」
俺は「カリスマとソムリエに謝れよ」という言葉は飲み込んで、それならばと代わりにクイズを出してやる。
「んじゃ胸が育つ野菜はレタスとキャベツどっちだ?」
「レタス!……と見せかけてどちらも不正解で人参が正解という流れですね!?」
「ハズレ、正解はキャベツ。深読みしすぎだ」
「そ、そんなぁ。もう一問チャンスをください!」
「えーっと、男が一度起ってしまったら出さなければ戻らない○か×か?」
問題を聞いたツェンタリアが苦笑する。
「ご主人様、それは私のことを馬鹿にしすぎですよ。そういった本で読みました。そんな時は頬を染めつつも興味ありげにチラチラ観察して『お、男の人はこうなっちゃったら出さないと収まらないんだよね?』と言った後おずおずと手を伸ばし」
「ハズレ」
「えぇー……」
その後、家に帰るまでツェンタリアにねだられクイズが続いた。だが、ツェンタリアの正解率は脅威の0%だった。
■依頼内容「エアルレーザー軍に奇襲を仕掛けよ」
■結果「エアフォルクを傷めつけて撤退させた」
■報酬「50万W」
ブックマークありがとうございます。花見になりま……ハゲミになります




