第50話 動かす金塊 動かされる土塊
今日のツェンタリアさん
「私は気にしないんですけどね……シタことはないですけど」
「ご主人様から聞いたのですが、魔王城に攻め込んだ時は今回以上に強力な罠が張り巡らされていたらしいです。罠+襲ってくる主力を倒して、かつ魔王シュタルゼ様を殺しかけるというのは……本当の所、ご主人様はどこまで強いんでしょうかね?」
●依頼内容「ヴルカン鉱山に住み着いたゴーレムを退治せよ」
●依頼主「アップルグンド国王シュタルゼ」
●報酬「50万W」
まだ日も明けぬ頃、俺は魔王の間にいた。魔王の間にいるのだから当然目の前には魔王シュタルゼがいる。
「……大丈夫なのか?」
狂ったと聞いていたが、目の間にいるシュタルゼにいつもと変わった様子はない。しかし、シュタルゼは俺の言葉に自嘲気味に笑う。
「月の光が弱まり太陽が登らぬこの時間はな」
「そうかい、そりゃあ良かった。軍の指示もこの時間に出してるのか?」
「うむ、どうやら我輩は短い時間に集中したほうが良い作戦を立てる事ができるらしいな」
ガッハッハとシュタルゼが笑う。ふざけているように見えるが、事実として戦力だけでなく策でもエアルレーザーを圧倒しているのだから笑える話た。
「それで、今日の依頼は何なんだ? いざという時に介錯でもしてくれってか?」
「ぬかせ、自分の始末は自分でつけるわ。今日呼んだのはこれじゃ」
そう言ってシュタルゼは一枚の地図を投げてよこす。俺はそれを受け取って開く。何の変哲もないアップルグンドの地図だ。
「これがどうかしたのか?」
「南西の部分に丸がついておるだろ?」
「えーっとここは、誰かに爆破されたヴルカン鉱山だな」
先日爆破した場所に丸が付けられていたので取り敢えず俺はすっとぼけた。それを見たシュタルゼが「ぬかしよる」と笑う。そのシュタルゼの様子から、どうやら俺が爆破したことを咎める気はない事は察せられた。
「そこにバンデルテーアの遺産を使ったゴーレムが現れたらしい」
「そりゃあまた……なんでだ?」
俺の疑問にシュタルゼは首をふる。
「詳しいことはわからん。我輩が解っているのは、腕に覚えのある者を調査に向かわせても誰も帰って来ていないという事実のみだ」
「……ついでにもう1つ質問良いか?」
「うむ」
「今は戦争中なんだし別に放っておいても良いんじゃないのか?」
シュタルゼは意地の悪い笑みを浮かべた。
「理由は3つある。1つは国内にいる不確定かつ危険な因子の排除。もう一つの理由は、なにやら悪い胸騒ぎがするのだ。まあこれは我輩の勘だから理由としていいのか微妙なところだがな……そして最後の理由は、お前をこの依頼に縛り付けておけば我輩の軍の行動を邪魔されることはないのでな」
「そうかよ」
◆◆◆◆◆◆
星のふりかけが取っ払われたウルカン鉱山の内部は暗い。
「暗いな」
俺がそのまんまの感想を述べると後ろにいたツェンタリアが火を灯してくれた。俺は「サンキュー」とお礼を言った後、あたりを見回す。先日の爆発によってかなりの部分が崩落しているが、狭いながらもギリギリ通れる箇所がいくつか見えた。
「確か、シュタルゼ様の映像ではあの穴から中心部に繋がっていましたよね?」
「そうだな」
ツェンタリアがそのうちの一つを指差す。ツェンタリアの言っている『シュタルゼ様の映像』とは、探索を依頼した者にかけたベイルムによって撮られた映像の事である。一人の冒険者がツェンタリアの指差している穴を登って行き中心部に到達、その後ゴーレムと思わしき物体によって倒されるまでの顛末がバッチリと映っていた。
「ツェンタリアはどうする?」
俺が訊ねるとツェンタリアは迷いなく「私はご主人様の光です」と答えた。俺は「愚問失敬」と苦笑したあと穴に入る。
「後ろから変なことするなよ?」
「と、ととと当然じゃないですか」
今度は動揺しまくりのツェンタリアの声が後ろから聞こえてきた。
◆◆◆◆◆◆
しばらく穴を進むと開けた場所に出た。少し待つとツェンタリアが穴から出てきて周囲の様子が見えてくる。
「ここは?」
「ヴルカン鉱山の中心部だったところだな。ついでに言うとアイツに探索者がヤラれた場所でもある」
俺はツェンタリアに振り向いて答える。
「『アイツ』って誰です?」
『ギュアアアアアン!』
ツェンタリアの言葉を遮って、何者かがこの空間の中央に位置するエネルギー供給装置の方から突進してきた。
「ご主人様!?」
ツェンタリアの叫び声と、何者かが『ギュワアアアアアン!』と音と立てて吹っ飛んだのはほぼ同時だった。しかし、その何者かは吹っ飛ばされる直前で両手をクロスさせてガードしていたらしい。吹っ飛ぶ最中にエネルギー供給装置を掴んですぐさま体制を立て直した。
「へぇ、俺の回し蹴りをガードするたぁ、少しはマシになったじゃねぇか」
ツェンタリアが照らしたその先には、赤い一つ目のゴーレムがいた。氷の巨人でも炎の巨人でもない。見た目はどこにでもいるような一般的なゴーレムだ。しかし、バンデルテーアの遺産の札で作られているためか動きが違う。
『ギュイイイイイン!』
けたたましいモーター音を響かせながら再びゴーレムは俺に接近してくる。なかなかのスピードだ。そしてそのスピードから流れるように正拳突き、肘打ち、裏拳、前蹴り、回し蹴りを繰り出してくる。並の剣士なら裏拳あたりで倒されてしまうだろう。しかし俺は全て受け流してゴーレムの土手っ腹に膝を入れた。
ズンっという音がヴルカン鉱山の中心部に反響する。
『ギュッギッ……』
「確かに早くて強くて基本に忠実な動きだが3点問題があるな」
俺はゴーレムが体制を立て直す前に足払いを賭けて転ばす。
「まず、基本に忠実すぎて次の動きがわかりやすい」
跳躍して両足でゴーレムの両手を踏み抜く。
「次に、モーター音がうるさすぎて攻撃のタイミングがバレバレだ」
俺は右足を高く上げた後、ゴーレムのモノアイに踵を落とした。
「最後に、俺は一度見た技は忘れねぇんだよ。それが視界の隅でギリギリ見ていたくらいでもな」
『ギッ……』
俺は静かになったゴーレムの体から降りて、ツェンタリアに向き直り「帰るぞぉ」と声をかけた。しかし、ツェンタリアは俺の後ろを指差して叫んだ。
「ご、ご主人様!」
振り返るとそこには再び立ち上がったゴレームの姿があった。モノアイが爆弾の形になって……
「ってやべぇ! 自爆モードだ逃げろ!」
そうは言ったものの、この前のリヒテールの爆弾とは意味が違う。ゴーレムの自爆というのは機能が停止した際の最後っ屁である。つまり相手に逃げる時間など与えず明確な殺意を持って爆発するのだ。
「む、無理ですよ!」
「間に合わねぇかっ……ならば!」
俺は右手をスナップして死剣アーレを取り出す。
「いくぞおおおおお!」
そして気合と共に死剣アーレを十字に振った。すると中心部から水平に真っ直ぐ数百メートルに渡って十字の穴が空き、その先に海が見えた。
俺はトップスピードを超えたトップスピードにギアを入れてツェンタリアを抱きかかえると一気にその穴を走り抜けた。
……ヴルカン鉱山が先日に続いて二度目の大爆発を起こしたのは、俺が海に飛び込んだ後だった。
◆◆◆◆◆◆
「ご主人様はあのゴーレムのことを知っていたのですか?」
今回は依頼主であるシュタルゼの都合によって前払いだったので、俺とツェンタリアはそのまま家に向かっている。
「ツェンタリアも薄情なやっちゃな」
「えぇ!? 私も知っているのですか」
「あぁ……姿形は違ってるがあのゴーレムの元ネタは人間だ」
「……本当……ですか?」
俺の発言にツェンタリアの顔が曇る。これはゴーレムが改造された人間の成れの果ての姿とか良からぬ事を考えている顔だな。俺はツェンタリアの間違った想像をさっさと否定する。
「いや、ツェンタリアの思っているような意味じゃないぞ。とある人間の動きを記録してそれをゴーレムに移植したって感じだ。その人間は生きてるよ」
「あ、そういう意味ですか」
ツェンタリアはほっと胸をなでおろす。
「それで誰だったのですか?」
「おいおい、結構分かりやすく戦っただろ? 気づかない振りからの回し蹴りを使ったり、腹に膝蹴りを喰らわせたり……って膝は別の人間だったか」
「回し蹴りに膝蹴り……ってまさか!?」
ツェンタリアは俺の言葉を反復しつつ記憶の糸をたぐり、とある人物に思い当たったようだ。
「ご主人様とヴェバイスコロシアムで戦ったあの!」
「ご名答、『努力家オルデン』君だな」
微笑む俺の顔を見てツェンタリアが呆れている。
「よく覚えていましたね」
「俺は記憶力はいいんでな」
「……17日前の夕食はなんでしたか!?」
「コンソメスープにラザニアにライ麦パン」
「……えーっと、正解……です?」
「自分で答えがわからない質問すんなよ……」
■依頼内容「ヴルカン鉱山に住み着いたゴーレムを退治せよ」
■結果「中心部にいたオルデンインストールゴーレムを倒した」
■報酬「50万W」
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