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第49話 モノより大切なモノ

今日のツェンタリアさん

「最後にご主人様とエアフォルク様が話していた『あの子』とは誰なのでしょうか? 今度、さっちゃんに聞いてみましょうかねぇ」


「は~ビックリしました。いきなり黒炎が迫ってきた時は死を覚悟したのですが、ご主人様の死剣アーレは炎も切れるのですね。メーア湖を一振りで割ったのは見たことあるのですが、炎まで切れるというのは初めて知りました」

●依頼内容「占拠されてしまったカーカラック研究所を開放してくれ」

●依頼主「パラディノス国王ヴァリスハルト」

●報酬「40万W」


「結局戦いは決着付かずかぁ」


 朝食を終えた俺は新聞を読んでいた。新聞の一面にはエアルレーザー対アップルグンドの決戦の結果が載っている。その見出しには『エアルレーザー軍攻めきれず決戦は引き分けに終わる!』と書かれていた。内容を要約するとこうだ。


 最初はエアフォルク率いるエアルレーザーが押していたのだが、突如としてジュラム草原に食人植物が生え始めた。その植物群はエアルレーザー軍の兵を食って戦線を押し戻す。エアフォルクも必殺技で応戦するが無限に生えてくる植物に対して有効打は無く、最終的に撤退した。


「まさか樹師ナトゥーアまで投入してくるとはね」


 俺は苦笑した。どうやら俺に当ててきた空帝カイザールはシュタルゼの切り札ではなく、通常の手札の一枚だったらしい。


「狂っていても、そこは魔王シュタルゼ様ということですね」


「そうだな。しかも『もう一手』も抜かりなく打ってやがった。本当に食えない奴だぜ」


 新聞を畳んだ俺はツェンタリアに「ごちそうさま。美味しかったよ」と声をかけた後、今日の依頼の準備に取り掛かった。


◆◆◆◆◆◆


「そして、またココなんですね?」


「ああ、またなんだよ」


 俺とツェンタリアは再びパラディノスのカーカラック研究所の前に来ていた。


「新聞で読んだかもしれないがここにアップルグンドの一部隊が入り込んで占拠したって話だ」


「エアルレーザー軍を迎え撃ちつつパラディノスのカーカラック研究所を占拠するとは、本当に魔王シュタルゼ様は並外れた指揮能力を持っている方ですね」


「ヴァリスハルトの話じゃ完全に不意を突かれたらしい。歯噛みして悔しがってたぞ」


「それはちょっと見てみたいですね。おや?」


 そんな事を喋っていると、研究所の方からポーンコロコロコロと丸い何かが転がってきた。よく見るとヒモがチョロっとついている。いや、これはヒモじゃない。シューッと音を立てているのは導火線、つまりこの丸い物体は……。


「爆弾だ!」


 俺は右手をスナップして風呂敷を取り出し魔力で強化する。そしてその風呂敷で爆弾を包み込んだ。……しばらくして風呂敷がボフンと音と立てる。中で爆発したのだろう。


「び、ビックリしましたね」


「ああ、でもこれでアップルグンドのどの部隊が来てるのかわかったぜ」


「工作部隊マヴルフですね?」


「ああ、どんな木っ端と戦うのかとも思いきや……面白くなってきやがった」


◆◆◆◆◆◆


「……面倒くせぇ」


「ご主人様、飽きるの早すぎです」


 ツェンタリアが呆れたような視線を向けてくる。カーカラック研究所に入ってから3時間、攻略は遅々として進んでいない。


 とにかく罠の上に罠を重ねるような仕掛けによってこちらの行動が制限される上、カーカラック研究所中では大暴れとはいかないので精神力が削られる。かと思えば無意味に五色米が置かれている(しかも非常に失礼な言葉)などコチラを混乱させる仕掛けも有り、それがリズムを狂わせていた。


「まあ危険な罠がないのは良いんだがよぉ」


 そう言いながら俺は横から伸びてきた竹槍を手刀で切る。すると切られた竹の中から粉末がバフっと出てきたので今度は風を操作して吹き飛ばす。万事がこの調子だ。


「結構あぶない罠も有る気がするのですが……」


「今度は鴬張りの廊下かよ。研究所の周りには鳴子もあったし……何でこんなに忍者じみた仕掛けが混じってんだよ」


「言われてみればそうですね。ちょっとマヴルフらしくない気がします」


「……待てよ、忍者?」


 自分の言葉によって俺は1つの仮説に思い至った。『忍者』と言って思い浮かぶ奴が1人いるな。っというかコレほぼ確実に正解に近いだろ。


「シュタルゼめ、ゲルトに手を借りやがったな」


「た、確かに出来損ないの忍者がいるとは聞きましたがそれは早合点では?」


「いや、微妙に疑問に思ってたことがそれなら説明がつくんだよ」


「何か気になる部分があったのですか?」


「あぁ、いくら不意を突いたと言っても、戦闘能力皆無の工作部隊マヴルフが、カーカラックも守っていた研究所を落とせるとは思えなかったんだよ」


「えーっと、つまり武力と罠の部分でゲルトが手を貸していると?」


「その通り……だから廊下にむき出しで置かれた痺れ団子とか馬鹿みたいな罠もあるんだ」


 先ほどからあのアホシスターの張った罠にまで「工作部隊マヴルフの張った罠なのだから何かある」と考えこんでしまいリズムが狂わされていたのである。


 だが、そうとわかれば話は早い、工作部隊マヴルフの危険な罠とアホシスターのマヌケな罠とを見定めてさっさと進んでしまえばいいのだ。


◆◆◆◆◆◆


 アホシスターが協力しているとわかってからは、ズンズンとカーカラック研究所の中を進み、俺達はついに最深部に到着した。


「フッフッフ、よくぞアタチとマヴルフの必殺の罠を潜り抜けてここまで来たんだわさ!」


「ウルセーっ!」


 俺はドヤ顔していた傭兵協会ゲルト副団長のチビアホシスターメイサに腹パンを入れる。


「オッフ! いきなり何するんだわさ!?」


「五色米で俺の悪口書きやがって許さん!」


「ゲゲッ!? 読めたんだわさ!?」


「ったりめぇだ俺を誰だと思ってやがる!」


 そう言いながら俺はメイサの忍者服の襟を掴む。そして「誰が○う○いじゃボケエエエエエ!」と言って思い切りメイサを投げ飛ばした。「だわさあああああ!?」っと窓を割って地面と水平にすっ飛んでいくメイサ。やがてメイサの姿が見えなくなると、俺の後ろに立っているツェンタリアがオズオズと口を開いた。


「わ、私はご主人様がh」


「もういい、頼むから何も言うな!」


◆◆◆◆◆◆


「おお、どうだったジーガー!?」


 珍しくヴァリスハルトが興奮気味に俺を出迎えた。しかし、テンションが低い俺はぶっきらぼうに答える。


「工作部隊マヴルフは俺達が踏み込んだ時には撤退済みー、ゲルトが後ろで手を引いてやがったよー……」


「……?」


 ヴァリスハルトが俺の後ろに立っているツェンタリアを無言で見る。ツェンタリアは無言で首を横に振った。


「そ、そうかアップルグンドに加えてゲルトか。奴らめ、よっぽどカーカラックが気になると見えるのぅ」


 そう言いながらヴァリスハルトは俺の手に報酬の40万Wを乗せる。緊急であったとはいえ依頼の難易度を考えると高額だ。


「……金で動く俺が言うのもなんだが、随分と羽振りが良いんだな?」


 現金なもので報酬を手に入れて少し元気が戻った俺が尋ねると、ヴァリスハルトが「ホッホッホ」ととぼけた笑いを聖王の間に響かせる。


「うむ、信仰心に目覚めたとある人物から大量の寄付があってのぅ」


「へぇ……それは」


「誰か教えることは出来んのぅ」


「だろうな」


「ただし、お主がワシの国の専属になるというのなら話は別じゃ」


 それを聞いて、今度は俺が聖王の間に笑い声を響かせた。


「おいおい……冗談だろ?」


「金ならある」


 ヴァリスハルトが真顔で答える。……これはどうやら本気で俺を陣営に引き入れようとしているようだ。俺は「いくらだ?」と聞くとヴァリスハルトが金額を耳打ちする。かなりの金額だ。だが……


「それじゃあダメだ」


「ふむ、なぜじゃ? お主はアップルグンドの魔王シュタルゼにはこの金額を提示したと聞いたぞ?」


 ヴァリスハルトは「まさか相手によって金額を変えているのではあるまいな?」と言葉を続けるが俺は「そうじゃない」と首を振った。


「人を見て金額なんて決めねぇよ。俺が金額を決定する要因は……時だ」


 ちょっとボカしたつもりだったが、俺と同じ銭ゲバのヴァリスハルトはすぐに真意を読み取ったようだ。


「つまり、お主は今がふっかけ時と考えているわけじゃな?」


「ま、そういうこったな」


「いくらじゃ?」


「想像にお任せするよ」


 そう言って俺とツェンタリアは聖王の間を後にした。正直、現状どこかの陣営に入る気はない。なぜなら、もう少し場を荒らして数カ国から打診を受ける状態を作ることができれば、それが一番の得になるからだ。金額を明言しなかったのはそのためである。


「面白くなってきやがった」


 今日二回目の言葉を呟きながら俺はニヤリと笑った。


■依頼内容「占拠されてしまったカーカラック研究所を開放してくれ」

■結果「残っていたメイサを星にした」

■報酬「40万W」

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