第47話 強敵と書いてドル箱と読む
今日のツェンタリアさん
「精霊には学校も試験もなんにもございませんが体重増への恐怖はアルノデス。体重計に乗った時に1キロでも増えていようものならゲゲゲのゲです」
「『決戦』レベルというのは久し振りですね。昔、戦場を駆け巡っていた頃はよくあったのですがご主人様が傭兵になられてからは初めてです。ちなみに『決戦』の上にはご主人様でも勝率が5分な『死闘』というレベルがあるそうです……まあ今までそこまでいったことは無いのですがね」
●依頼内容「エアフォルクを決戦の地まで護衛せよ」
●依頼主「エアルレーザー国王リヒテール」
●報酬「60万W」
俺とツェンタリアがジュラム平原に向かう道に立っていると、エアルレーザー軍が到着した。
「ようエアフォルク、相変わらず辛気くせぇツラしてんな」
俺は軍の先頭を進んでいた指揮官のエアフォルクに爽やかな笑顔で挨拶をする。エアフォルクはそんな俺を見てため息を付いたあと馬を並べてきた。顔には苦笑いを浮かべている。
「先輩……これは戦いを前にした真面目な顔というものですよ」
「そういうもんかね?」
「そういうものです」
「……表情が硬いな、緊張しているのか?」
「……そう見えますか?」
「そう見えるなぁ」
ここ十年間のキツい戦場は全て俺が担当してきている。そのため、エアフォルクは国と国が互いの存亡を賭けてぶつかり合うような戦場で指揮を取るのはこれが初めてなのだ。
俺が傭兵になって陣営から抜けた後、リヒテールも「これはマズい」と感じたのだろう。エアフォルクに三国の駐屯地の守備を任せたり、色々な戦場に出しているようだが、ここの所は4国が牽制しあう状態であったため、現在に至るまで大きな戦場での指揮の経験を積ませることができていない。
「それにしてもエアルレーザーはケチ臭いよな」
「どうかしたのですか?」
いきなりの発言にエアフォルクが首を傾げている。俺は両手を頭の後ろで組みながら苦笑する。
「いやな、今日の依頼のことだよ」
俺は「リヒテールから依頼内容を聞いているか?」と尋ねたがエアフォルクは「僕は軍の準備に手一杯だったので……」と首を振った。
「俺は決戦に参加するなってよ」
「え?」
「今回の俺の任務はお前をジュラム平原まで護衛するだけってことだ。後はお前の仕事だ」
「そうなんですか……僕はてっきり先輩も一緒に戦ってくれるのかと思ってました」
なぜリヒテールがこういう依頼をしてきたのかといえば理由は2つある。1つはエアフォルクの成長を促すため。そして2つめは俺を決戦に使うと金がかかるから。
これまでの追い払ったり撃退といった依頼ではなく今回はアップルグンドとエアルレーザーの決戦だ。つまり人を殺す可能性も充分にある。そうなると俺への報酬が膨れ上がるのでそれを嫌ったというわけだ。
「まあ……今回の場合はジュラム平原に着くまでが勝負になるって感じだがな」
俺はぼそっと呟く。そしてツェンタリアに合図してエアフォルクから離れた。
◆◆◆◆◆◆
「先ほどご主人様がおっしゃっていた『ジュラム平原に着くまでが勝負』というのはどういう意味なのでしょうか?」
エアルレーザー軍の隊列の右側に移動したところでツェンタリアが尋ねてくる。
「何しろシュタルゼは傭兵の俺にまで魔法生命体ジャデンを差し向けてきてんだ。そんな事する奴がエアルレーザー軍の布陣を待ってくれるわけねぇだろ」
「なるほど、確かに移動中の部隊に奇襲を仕掛けた方が被害を増やせますからね」
そんなことを言っていると隊列の先頭が騒がしくなっていた。
「どうしたのでしょうか?」
「おおかた斥候が戻ってきて『ジュラム平原からアップルグンドの主力部隊の姿が消えました!』とでも言ってんだろうさ。ツェンタリア、人間形態になっとけ」
「あ、はい……ってまさか?」
ツェンタリアは素直に頷いて人間形態に変化する。
「そのまさかだ。シュタルゼは最初っからジュラム平原で決戦なんてする気なんざねぇってことさ」
「奇襲部隊に主力を使ったのですか!?」
ツェンタリアの言葉に呼応するように隊列の後ろ側から悲鳴が上がった。
「ツェンタリアはここで待っとけ」
俺はツェンタリアから自分の武器が入った荷物を受け取ると、トップスピードにギアを入れ一瞬でエアルレーザー軍の後方まで移動した。
◆◆◆◆◆◆
「キーッ!」
聞き慣れたガーゴイル語が聞こえる。空襲部隊ヴィンドだ。三代目隊長が「コロセコロセコロセ」と叫んでいる。俺は舌打ちをした。
「……やっぱり軍全体が欲望に飲まれてやがる」
体が魔力で膨れ上がったガーゴイル達は目を血走らせてエアルレーザーの兵を襲っている。かなりの速さで駆けつけたのだが、もう既に何人かの兵が倒されてしまっている。
「これは奇襲である間違いない!」
「ヤバイッペヤバイッペ!」
「なぁに言ってんのさ、逆にアタイ達の力を見せる時さ!」
その中で奮闘する三人の兵がいた。三馬鹿である。いや、空襲部隊ヴィンドの猛攻を受けてこの程度の被害で済んでいるのは間違いなくこの三人のおかげだ。三馬鹿というのは適切ではない。
マルモル(女)クラニート(ノッポ)パサルト(デブ)の前を駆け抜けるとき俺は「お疲れさん! 後は任せて負傷した兵士の保護を優先してくれ!」と声をかけた。
「まずは……テメエだ!」
俺は荷物から火傘ジルムを取り出して跳躍。狙うのは三代目隊長だ。
「キキーッ!」
三代目隊長の合図に周りのガーゴイルが機敏に反応、一斉に矢を飛ばしてくる。前隊長の時と比べて連携が格段に向上しておりズイデンのおかげで矢の威力も高い。
しかし、俺の相手をするには100年早い。
「邪魔だぁ!」
俺は火傘ジルムを薙ぎ払う。すると俺に飛んできていた矢が全て焼き落ちた。今までビームしか出せなかった火傘ジルムだが、シッグ爺さんの強化によってより細かい精度の攻撃が可能となり使い勝手が向上したのである。
「ギィィィィィッ!」
三代目隊長が接近してくる俺に対して三叉の槍を構える。膨れ上がった体で大きな三叉の槍を構える姿は中々の迫力だ。
「弓矢だけとか言ってたくせに結構サマになってんじゃねぇか」
俺は右手をスナップしてトンカチを取り出しながら口の端を上げた。
「ギィッ!」
繰り出された三叉を、空中を蹴って回避する。三代目隊長は完全に虚をつかれた形だ。
「人間は空中戦が苦手という固定観念に縛られたな?」
俺はそのまま三代目隊長の後ろに回り込みトンカチで背中を強打する。
「ギャァァァァァッ!」
ボキィッ!という音と共に三代目隊長の絶叫が木霊する。背骨が折れたのだろう。泡を吹いて落下していく。それを見ながら左手をスナップしてトンカチをしまう。
「さて、これで撤退してくれると良いんだが……」
「キーッ!」「キキーッ!」
しかし、俺の願いは通じなかった。三代目隊長は部下に抱えられすぐに後方に退いたのだが他のガーゴイル達は本能のままにエアルレーザー軍を襲い続けている。俺は「まあそうなるか」と頭をかく。
「しょうがねぇ、火傘ジルムで一掃するか」
そう言って火傘ジルムを構えた瞬間、急に当たりが暗くなった。いや、暗くなったのではない。上空に出現した何者かによって光が遮られ、辺りが影になったのだ。
「……今度は何だよ?」
俺は上空を見上げて「げ」と声をもらす。そこにいたのは翼を広げた漆黒の龍だ。どこかで見たことがある。コイツは確か海竜王を調べていた時に見た……
『貴様がジーガーか?』
「そういうアンタは空帝カイザールか?」
『いかにも』
「……シュタルゼの奴め」
俺は出しかけていた火傘ジルムをしまい右手をスナップする。
「海竜王の倍どころじゃねぇのが出してきやがったな!」
次の瞬間、俺の右手には最強の武器、死剣アーレが握られていた。
■依頼内容「エアフォルクを決戦の地まで護衛せよ」
■経過「ヴィンドと戦っている最中に空帝カイザールが現れた」
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