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第45話 かと言って苦労を買う気はサラサラ無し

今日のツェンタリアさん

「天然じゃありません! 例え天然に見えたとしてもそれは天然という名の淑女です」


「シッグ様がそれほどまでに気難しい人だったとは意外でした。さっちゃんとノリノリでスクール水着や淫夢を見る枕を開発する姿を見て少年のような方だとは思っていましたが。え、なんですかご主人様? 『スクール水着を自作するような少年は嫌だ』?」

●依頼内容「できているはずの弓を取りに行って欲しいッス」

●依頼主「フェイグファイア王子ノイ」

●報酬「6万W」


『グオオオオオッ!』


 工房の外に出た俺を怒りの咆哮が迎える。大きな翼を羽ばたかせて降りてきたのは全身が硬い岩で覆われた竜だ。


「よお、久しぶりだな土石竜エイルダ」


『ほっほう! 我の山の頂に愚か者が居を建てたと思うたら中から無礼者が出てきおったわ!』


「ど、土石竜エイルダってフェイグファイアの山々の王のエイルダですか!?」


「おう、そのエイルダで間違いねぇぞ」


 俺の後ろでツェンタリアが空槍ルフトを構えもせず棒立ちになっている。まあそりゃそうか。並の竜の髭を使ってはいないことくらいは察していただろうが、まさか世界の中でも上位ランカーの竜が来るとは思っても見なかっただろう。


『腕の悪い理容師ジーガーよ、なぜお前がここに居る?』


「なぜだと思う。当ててみろよ?」


 理容師とは上手いことを言う奴だ。10年近く経った今でもご自慢のヒゲを切り落とされたエイルダの怒りは収まっていないらしい。どころか俺の言葉で怒りは倍増したようだ。ワナワナと震えだす。


『我に質問するなど……分際を弁えよ小動物が!』


 そう言ってエイルダが腕を振り下ろすと、突然俺の頭上に巨大な岩石が現れる。ツェンタリアが「ご、ご主人様!?」と叫んでいるが俺は無言で手をヒラヒラさせる。


「やれやれ、相変わらず岩もでかけりゃ態度もでかいな」


 俺は右手に持った火傘ジルムを頭上に掲げる。


「だが覚えとけエイルダ。昔から人間ってのはジャイアントキリングをし続けて世界を制覇したんだよ!」


 火傘ジルムから炎のビームが空に伸びる。


『ふん、この程度では倒せないことはこの間の戦いで承知よ!』


 穴が開いてドーナツ状になった岩石が俺の周囲に落ちるのを見てエイルダが鼻を鳴らす。その言葉を聞いたツェンタリアが首を傾げる。


「ご主人様、『この間』ってどういう意味です?」


「1000年以上生きてるアホには『十年一昔』ってのが通じないって事だな」


「なるほど……ところでご主人様」


「なんだ?」


「助太刀してもいいですか?」


「ご自由に」


 俺の同意の言葉を半分も聞かない内にツェンタリアはフッと消える。そして次の瞬間にはエイルダの右頬付近に現れた。


『甘いわ!』


 エイルダも戦闘力で言えば世界上位の実力を持つ竜だ。シッカリと見えていたのだろう。ヒゲを狙って繰り出されたツェンタリアの槍を一番の硬度を誇る右手の甲でガードする。さすがの空槍ルフトもそれを突き破ることは出来ずツェンタリアは俺の近くに跳躍して戻ってきた。


「ハッハッハ、小僧も嬢も更に腕を上げとるのぅ」


 工房の中でシッグ爺さんが手を叩いて喜んでいる。


「ご主人様、シッグ様はあの工房にいて大丈夫なのでしょうか?」


「大丈夫大丈夫、既にあの工房で何度かエイルダの攻撃を凌いでいると思うぞ」


「そうなのですか?」


「何しろエイルダはフェイグファイアの山の全て、霊峰ゾンネですら自分の所有だと信じて疑わない奴だからな。この山にシッグ爺さんが工房を建てた翌日には察知して壊しに来てるはずだ」


「その通り、さすがに小僧は良い読みをしておるのぅ。エイルダが来たのはこれで138回目じゃ」


「……待て待て待て待て、シッグ爺さんいつからここに居るんだ?」


「2週間前じゃな」


 2週間前、つまり14日で138回ってことは1日で約10回の計算である。借金取りだってここまで熱心に訪問してくることはないだろう。俺は呆れた視線をエイルダに向ける。


「……お前どんだけ暇なんだよ?」


『グゥッ』


「隙ありです!」


 明らかに動揺したエイルダのヒゲを再びツェンタリアが襲う。


『ヌォゥ!?』


 今度は間一髪で避けるエイルダ。奇襲に失敗したツェンタリアが「惜しかったですね」と言いながら戻ってくる。


「どうしたんだ、今日は随分やる気じゃねぇか?」


「はい、水ほどではないですが燃えない岩も苦手ですので、弱点克服の練習になるかと」


 生真面目に答えるツェンタリアに俺は苦笑する。どうやら以前の格付けで14位に甘んじたことが悔しかったらしい。俺は後ろを振り返って工房に声をかける。


「って事なんだがシッグ爺さん、なんかいいもんないか?」


「なんじゃと!? 随分と気軽に言ってくれるのぅ!」


 そう言いながらもシッグ爺さんはステッキを投げてきた。俺は「あるんじゃねぇか」と言いながらそれを受け取ってツェンタリアにパスする。


「無いとは言っておらんわい」


「ありがとうございます!」


「お礼をいうのはまだ早いぞツェンタリア、まだ使えるものとは決まってねぇんだからな」


「人の自信作を受け取っておきながら口の減らない小僧じゃのぅ。ほれ、とりあえずそこの竜に向けて魔力を発射する感じで集中してみぃ」


「こ、こうですか?」


 そう言ってツェンタリアはステッキの先をエイルダに向ける。一方のエイルダは『そのような細い棒きれで何ができるというのだ』と余裕の笑みを浮かべている。しかし、次の瞬間エイルダの表情が凍りついた。


 カキィィィン!


『こ、これは!?』


 喉を震わせて声を発しているのではなく、テレパシーで喋っているエイルダの驚きが俺の耳に届いた。それはそうだろう。俺もまさかあの大きなエイルダが一瞬にして氷漬けになるとは思わなかった。


「ヒュー、さすがシッグ爺さんの自信作だけはあるな。エゲツねぇ威力」


「これが氷杖リエレンじゃ、とは言えここまでの威力になるとは想定してなかったがな……それだけ嬢の魔力が高かったという事じゃ」


「す、凄いです! 一瞬で氷が広がって!?」


 ツェンタリアはまだ興奮冷めやらずと言った感じだ。氷杖リエレンを握りしめている。


『ぐぬぬぬ、ジーガーだけでなくこのような小娘に!』


「あ、そうだったそうだった。目的を忘れるところだったぜ」


 悔しげなエイルダの声を聞いて俺は当初の目的を思い出す。そしてわざとゆっくりエイルダに近づいていく。


「さぁて腕の悪い理容店ジーガー・ザ・パーフェクトへようこそ。え? 何がパーフェクトかって? そりゃあもちろんヒゲを綺麗さっぱり切り落とすことにかけては世界一でさぁ」


『やめろ! やめろおおおおお!』


 暴れようとするエイルダだったが分厚い氷に囲まれては文字通り手も足も出なかった。


◆◆◆◆◆◆


「依頼も達成、素敵なステッキも貰えて万々歳でしたね」


「ああ、まさか火傘ジルムまで強化してくれるとは思ってなかったぜ」


 シッグ爺さんはエイルダと俺達の戦いを見れたのでご機嫌だった。すぐさま風弓グリュンリヒトの弦を貼り終え、更に火傘ジルムの出力も上げてくれたのだ。


「それにしても……ツェンタリアは気づいたか?」


「え、何がですか?」


「この風弓グリュンリヒトだよ、明らかに以前より篭ってる魔力が上がってるぞ?」


 集中した俺の目には風弓グリュンリヒトから赤い濃霧のような魔力が立ち上っているのが見えている。この弓をノイが使い始めたら、その実力はエアフォルクに匹敵するかもしれない。


■依頼内容「できているはずの弓を取りに行って欲しいッス」

■結果「無事完成、さらにオマケも」

■報酬「6万W+氷杖リエレン+火傘ジルムの強化」

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