第44話 楽しいけれど楽には生きれず
今日のツェンタリアさん
「私にも誕生日が出来ました。どうやら聞いた話では誕生日にはプレゼントが貰えるようなので108年分のプレゼントをお願いしてみましょう! そうですねぇ、まずはご主人様の煩悩全てを私にぶつけてもらい……冗談です違いますぶつけて欲しいのは煩悩であって殺意ではございません」
「た、大変です! ご主人様がすごく疲れた顔で返ってきました!? 何があったのか聞いても『変な奴に絡まれた』としか答えてくれません!」
●依頼内容「できているはずの弓を取りに行って欲しいッス」
●依頼主「フェイグファイア王子ノイ」
●報酬「6万W」
「なぜ世界一の職人がこのような過酷な場所にいるのでしょうか?」
ツェンタリアの言葉に俺も頷く。
「よっぽど集中したいのか、それとも何か他の理由があるのか、ってところだな。流石に変人揃いの職人でも好んでこんな活火山に工房なんて建てないだろ。必要性が薄すぎだ」
「必要性もそうですが……酸素も薄くなってきていますね」
俺とツェンタリアは文句をたれながらフェイグファイアの領内にある山を登っていた。その山は名も無き新山である。とても高く、暑い。周辺にはマグマが固まってできたのだろうか小さな穴がたくさん空いた石が転がっている。
「まったく、ノイの依頼じゃなかったら受けねぇぞこんなの」
今日の依頼主はフェイグファイアの王子として世界各地の戦場を飛び回っているノイである。ノイは先日とある爺さんに風弓グリュンリヒトの補修を依頼した。しかし、最近アップルグンドとの戦いが激化してきたため、期日を過ぎても受け取りに行くことが出来ず、俺にお鉢が回ってきたというわけである。
だが、あの爺さんがいつも作業している工房を訪ねてみたら『諸事情により山にいる』との張り紙があるのだから驚いたもんである。あいかわらず自由というかなんというか。
「ノイ様はなぜフェイグファイアの兵士にお願いしなかったのでしょうか?」
ツェンタリアの疑問はもっともだ。しかし、この山は高く常人では登れない上に、山頂の工房にこもっている爺さんはそれ以上に高くて『面倒くさい』こだわりを持っている。
「無理だな。あの爺さんは面白くない人間が訪ねてきても会わねぇんだよ」
「そうなのですか? 私は簡単にお会いすることが出来ましたし、かなり親切にしてもらったのですが」
「そりゃツェンタリアが天然で面白いからだよ」
「……」
ちょっとムッとしているツェンタリアを見て、俺は心の中で「やっぱり天然だな」と苦笑する。
「他に誰なら会うことができるのですか?」
「そうだなぁ、フェイグファイアに限定して言えば、トレイランツは当然としてノイとジーンバーンくらいなもんだろうなぁ……フロラインでも微妙なところだ」
「えぇ!? さっちゃんも大丈夫でしたよ!?」
ツェンタリアの中ではフロラインも個性的な部類に入るのだろう。それが『微妙なところ』と言われたので大層驚いている。
「あの爺さんの面白いの基準は長年付き合ってる俺でもわかんねぇんだよ。あえて言うなら新しい発想ができるかどうかって所なのかもな」
「なるほど、確かにフロラインさんは破天荒では有りますが伝統も重んじる方ですからね」
ああ見えてフロラインは心配りが細やかなのだ。その辺りは流石はフェイグファイアの中でも名門の家の長女として育てられただけのことはある。あの爺さんはそういう臭いには敏感なのだ。
「もっと酷いのはヴァリスハルトだな。天中殺ってやつだ」
「確かに相性は良くなさそうですね」
「相性どころか互いをゴミのように毛嫌いしてるぜ。実際にパラディノスとあの爺さんはほとんど商取引をしたことはなかったはずだぞ」
「へぇ……気難しい方なのですね」
その通り、だから俺は少しあの爺さんの生き方に憧れているのだ。
「自分で認めた人間としか話さず武器も作らない。徹底的に客を選ぶ。そういう男なんだよシッグ爺さんってのは」
顔を上げると小さな工房が見えてきた。長かった登山の終りも近い。
◆◆◆◆◆◆
「よぉシッグ爺さん久しぶり」
「おぉ小僧じゃないか! 久しぶりじゃな!」
俺のにこやかな挨拶にシッグも両手を広げて答える。同じ動きをしているのだが恰幅のいいクオーレには冷たい印象、小さくしわがれたシッグ爺さんには温かい印象を覚えるのは、心からこの爺さんが俺を歓迎しているからなのだろう。
シッグ爺さんはとにかく楽しいことに全力なのだ。そして、俺は格好のターゲットらしく、これまでも数多くの武器や装備を作ってもらっている。しかも無償でだ。本人曰く「小僧に使われることによって宣伝になる」とのことだが、多分それは建前だろう。具体的には王扇ブァン・宝帯ファイデン・火傘ジルム等がシッグ爺さんの作った武器である。
「おや今日は嬢も一緒かい?」
「えぇ、その節はお世話になりました」
ツェンタリアの空槍ルフトもシッグ爺さんの作品だ。しかし、ツェンタリアの言っている『その節』というのは空槍ルフトを作ってもらった時のことを指しているのではない。
「それですくーる水着とやらで小僧は落とせたか?」
「ふふ、絶好調です」
ニヤニヤ笑うシッグ爺さん。そして微笑むツェンタリアの間に俺は割って入った。
「はいはいその話は後にして、ノイから頼まれてたもんはできたのか?」
「ふむ、風弓グリュンリヒトのことじゃな? それが中々難物でのぅ」
俺の言葉を受けてシッグが難しい顔をする。
「へぇ、珍しいこともあるもんだ。世界一の職人のシッグ爺さんもついに老いに負けたか?」
「アホゥ、小僧と同じくわしゃ万年成長期じゃ。問題なのは腕ではなく材料なのじゃ」
「えーっと確か風弓グリュンリヒトの材料ってのは……」
「ザックリ言って3つじゃな。弓の本体部分は麒麟の背骨、矢は不死鳥の羽、そして弦は龍の髭じゃ」
「仰々しい物ばかりですね」
「他に安価で丈夫で手に入りやすい物質があるってのにシッグ爺さんは浪漫を求めるからなぁ」
「浪漫が武器を強くするのじゃよ」
「ハッハッハ、ちげぇねぇや」
シッグ爺さんの事を知らない人が聞いたら馬鹿げてると笑うだろう。しかし、このシッグ爺さんは実際に強度やしなりで劣っている物品を駆使して世界一の弓 風弓グリュンリヒトを作ったのだ。日々良い物質を研究している学者や職人にしてみればたまったもんじゃないだろう。もはや腕とかそういうレベルではない。魂だの怨念だのが篭っているとかそういうオカルトの世界だ。そのため俺はシッグ爺さんの武器を使う度に「科学ってなんなんだろうな」と考えてしまう。
「それにしても……なるほどな。いつもの工房じゃなくてわざわざここに居た理由がやっとわかったぜ」
「そうなのですか?」
首を傾げるツェンタリアの隣でシッグ爺さんが目を細める。
「さすがは小僧、いい勘じゃな」
「そりゃあそこまでヒント出されりゃ馬鹿でもわかるぜ。何しろここは」
『グオオオオオ!』
俺の言葉は工房の外から聞こえた咆哮で遮られた。
「な、なんですか!?」
「ノイの奴め、こうなることを解ってて俺達に頼んだのか?」
「行けるか小僧?」
「当然、俺もシッグ爺さんと同じで万年成長期だぜ?」
俺は右手をスナップして火傘ジルムを取り出す。そして困惑しながらも空槍ルフトを構えているツェンタリアに「いくぞ」と声をかける。
「大丈夫なのですか?」
「大したことじゃねぇさ、残しておいてやった『もう一本』を回収するだけだ」
俺は下手くそなウィンクをして見せた。
■依頼内容「できているはずの弓を取りに行って欲しいッス」
■経過「できていなかったのでお手伝い」
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