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第42話 時と場合と金による

今日のツェンタリアさん

「よく考えなくても体調を崩したご主人様を見るのは初めてですね。こう、弱って寝ていることを見ると襲いたく……はなりませんね。健康第一、看病大事です。それにしても体調を崩す原因が『休んだから』というのはとんちのような話ですね」


「『そ簡ごだ』……むー、ダメですかね? ダメでしょうね」

●依頼内容「荷物をとある人に渡してください」

●依頼主「傭兵協会ゲルト団長バンドゥンデン」

●報酬「20万W」


「追ってきてんのは10人か……」


 俺はエアルレーザーの森を駆け抜けながらため息を付いていた。空には星が光っている。つまり夜だ。


「まあ俺が信用出来ねぇってのはわかるけどよ。見張りが付くってことくらい教えてくれてもバチは当たらねぇと思うんだがなぁ」


 今回の依頼主はなんとバンドゥンデンである。内容は今俺が脇に抱えている小さな箱をとある小屋に住んでいる老人に届けること。単純な依頼だがどうやら箱の中身は重要なものらしく報酬は高額、そして秘密バレバレの尾行もついているというわけである。


 クオーレの件もあるので俺は最初は断ろうと思った。しかし、大量のWを見せながら「ジーガー君も傭兵ならば昨日の敵が今日の友となることくらい理解できますよね?」とからかうように言われたら断るという選択肢は口からは出てきはしない。


「それにしても条件が厳しいよな。①輸送している所を誰にも見られてはならない。②もしも見られた場合は目撃者を全員殺さなければならない。ってんだから」


 高額な報酬にはこの条件の絶対順守も含まれているのだろう。だから俺は街道を行かずに夜の森を走っているのである。


「……ちょっとスピード上げてやろうかな?」


 そう言って俺は少し足を早めた。理由は2つだ。1つはもう少しで森を抜けて平野をに出るためである。そして2つめは、尾行している連中に対してのちょっとした憂さ晴らしである。


「これくらいスピード出しときゃ常人はちょっと強い風が吹いた程度にしか思わんだろ」


 幸い今夜は任務に連れて行かないとブーたれるツェンタリアはいない。友達と会う約束があるとかで泊まりで出かけているのである。大方アップルグンドのさっちゃんと良からぬ話に花を咲かせているのだろう。


 普段なら「次はどんな知識を仕入れてくるのやら」と頭を抱えるところだが今回の依頼においては幸運である。なにしろ国が違うのだからツェンタリアに合う可能性は皆無に近い。


「あれ? ご主人様?」


 そうそう、こんな言葉が聞こえるはずが「……あれ?」俺は立ち止まった。おかしいな、なんで今ツェンタリアの声が聞こえたんだ? いやでも人の気配が2つくらいあったような気がするし……。


 恐る恐る振り返ると、そこには星の光を受けて金色に輝く髪を揺らす女性がいた。メガネを掛けて秘書のような格好をしている。うん、これは世界に三人いるそっくりさんとかではなく確実にツェンタリアだ。


「やっぱりご主人様です! どうしたのですかこのような夜更けに?」


 ツェンタリアがポンと手を叩いて楽しそうに微笑んでいる。こっちは全然楽しくないってのに呑気なもんだね……ってやべぇ!


「ツェンタリア助けてくれ! 変な奴らに追われてるんだ!」


「えぇ!? りょ、了解しました!」


「森から出てくるぞ、数は10人だ!」


「はい!」


 俺もツェンタリアもこういう時はまったく迷わない。俺はツェンタリア第一だし、ツェンタリアも戦闘での俺の指示に間違いはないと思ってくれている。


 バンドゥンデンの『ジーガー君も傭兵ならば』などという言葉が脳裏をよぎるが、そんなものは糞食らえである。文句があるなら報酬全額どころかのしを付けて顔面に叩きつけてやる。いくら積まれても俺はツェンタリアを優先する。


 俺は右手をスナップして宝帯ファイデンを取り出した。その様子を見てツェンタリアが「それほどの敵なのですか?」首を傾げる。


「いや、事情があってな、倒すときに姿を見られたらマズいんだ」


 何しろバンドゥンデンからの依頼である。尾行者の中に一人は亡者がいると考えて間違いない。


「なにやら複雑な事情があるようですね」


 そう言ってツェンタリアが空槍ルフトを構える。運良く月に雲がかかり始めた。よし、これでコチラの姿を見られる可能性が減ったぞ。


「ところでさっき人の気配が2つあった気がしたんだが、気のせいか?」


「あ、それはですね」


 そう言いかけたところで森から尾行者が飛び出してきた。森の途中でスピードを上げた俺の姿を見失ったのか焦っているようである。


「……ッ!」「……ッ!」


 そこを俺とツェンタリアが無言で迎え撃った。


「ギャアアアア!」「グアァァァッ!」


 宝帯ファイデンを目に巻きつけられた上に空槍ルフトで吹き飛ばされた尾行者達の悲鳴が木霊する。


「♪」


 ツェンタリアは「上手くいきましたね」とでも言いたげだが、俺は必死に周りの気配を探る。どこだ!? 今の一瞬で倒したのは9人、残りの1人が見当たらない! 誰だ月に雲がかかって運がいいなんて言ったアホは!?


「大丈夫だぞー兄ちゃん」


「誰だ!?」


 いつまでたっても残りの1人が見つからず、段々と焦りが募っていた所に後ろから声をかけられ俺はガバッと振り返る。


「兄ちゃんを追ってきた奴はちゃんとココにいるぞー」


 最後の尾行者がドサリと地面に転がる。見ると俺の胸くらいに頭のある小さな人物が「えっへん」とでも言いたげにポーズをとっていた。月にかかっていた雲が過ぎ、段々とその姿が現れていく。


「……えぇっと、誰だ?」


「な、ひどいぞ兄ちゃん!」


「いや俺お前のこと見たことねぇし」


 月明かりに照らしだされたのは、薄い青のショートヘアに太眉が特徴的な少女だった。年は10歳位だろうか、しかし突き出された胸はぷるんと大きく揺れている。大きい……というかカップだとこれツェンタリアを超えてないか?


「ルールフちゃんも手伝ってくれたのですね」


「ルールフ?」


 怪訝そうな俺の顔に気づいたツェンタリアが少女に自己紹介するように促す。するとルールフは俺の方を見てニパッと笑った。八重歯が光っている。


「ワタスの名前はルールフだよろしくな兄ちゃん!」


「あぁ、よろしく……それでどこで会ったっけ?」


「ご主人様、覚えてないのですか?」


「いや見覚えのある魔力ではあるんだが……」


 先ほどから俺はこのルールフと言う少女の魔力を観察している。ただ、見覚えはなんとなくある魔力なのだがガチっとハマるような記憶が脳内のデータベースには無い。


「こういう場合は①前にあった時より成長したのか②全く別の姿になってるかって所なんだが……」


「おーさすが兄ちゃん!」


 ルールフが元々大きい目をさらに見開いて驚いている。ツェンタリアも予想外だったのか手を口に当てている。


「流石はご主人様、かなりいい線いっていますね」


「……俺そんなに難しい問題を出されてたのか」


「デンケの森で会ってからワタスも修行して精霊になったからな」


 ルールフはそう言ってちょっと照れくさそうに笑みを浮かべる。って待てよ今『デンケの森』って言ったか? 俺はちょっと考える。そしてとある人物……というか一匹に思い当たって声を上げた。


「お、お前まさかデンケの森の守り主の!?」


「おおーそのとおりだぞ兄ちゃん!」


 そう言ってルールフは一振りのナイフを見せてくる。間違いない。俺があの時渡したナイフだ。


◆◆◆◆◆◆


「友達ってルールフの事だったのか」


 翌日、バンドゥンデンから報酬を受け取った(「なにかおかしなことはありませんでしたか?」と聞かれたがすっとぼけておいた)俺は家に戻ってきた。するとツェンタリアとルールフが合作料理を作って待っていたので、ちょっと豪華なランチと相成った。


「はい、すみません。内緒で連れて来てご主人様を驚かせるつもりだったのですが」


「いやこっちの方こそいきなり依頼に巻き込んじまって悪かったな」


「でも無事に終わってめでたしめでたしだぞー」


「まぁな、おかげでバンドゥンデンに気取られず報酬を全額せしめることも出来たしな……ところでいつの間にツェンタリアとルールフは友だちになったんだ?」


「んーっと兄ちゃんが森を助けてくれたあと姉ちゃんが何回もおいしい食事を持ってきてくれてたんだぞ」


「へーそんなことやってたのか」


 俺は「えらいえらい」と隣りに座っているツェンタリアの頭を撫でる。くすぐったそうにしながらツェンタリアは頬を赤らめる。


「いえそんな大したことは……それにルールフちゃんには精霊になれる素質もあるようでしたし」


「あぁ、そういえば精霊になったとか言ってたな?」


「はい、ルールフちゃんはどうしても人間形態になってご主人様にお礼をしたいと頑張ったんですよ。この料理だってその一環で」


「ちょ、姉ちゃんそれは二人の秘密だって言ったはずだぞ」


「あ、そういえばそうでしたね」


「もー姉ちゃんは真面目なのにポンコツだぞ」


「うふふ、すみません」


 プンスカしているルールフに律儀に謝るツェンタリア。その姿は姉妹のようでとても和むことが出来た。


◆◆◆◆◆◆


「それじゃあまた今度だぞー!」


「おう、またなー!」


「気をつけて帰ってくださいねー!」


 夕方になって俺とツェンタリアはルールフを見送った。


「本当に送っていかなくて大丈夫だったのか?」


「大丈夫ですよルールフちゃん強いですから」


 確かにツェンタリアの言うとおり尾行者を倒すだけでなく、焦っていたとはいえ俺に気取られずに背後に立っていたあたり並の才能ではない。


「……ナイフの扱いも教えたのか?」


「はい、私は槍が本命なので大したことは教えられなかったのですが、あとは自己流で急激に上達しましたね」


「なら大丈夫か」


「ええ、ご主人様が送り狼になる必要はありません」


「……それはちょっと意味が違くないか?」


 そう言いながら俺はポンコツェンタリアの首筋を撫でた。


■依頼内容「荷物をとある人に渡してください」

■結果「尾行者を始末し任務を遂行した」

■報酬「20万W」

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