第36話 情報屋には金銭を 盗人には鉄槌を
「ご主人様は探偵業でも食べていけそう……とも思いましたが、そうポンポン難事件が起きるわけが無いですよね。夜叉に命を狙われたり、ミイラが増えたり減ったり、劇場に怪人がいたり、あるわけ無いですよ」
「バンドゥンデン様……いえもうバンドゥンデンでいいですね。まさかここでバンドゥンデンが関わってくるとは思いませんでした。確かに言われてみればネイベル橋で私を妨害して来た亡者の数は多かったですね。あの時、亡者を傷付けることはしませんでしたが、今では良い判断だったと思っています」
●依頼内容「聖典を盗もうとした犯人に報いを」
●依頼主「パラディノス国王ヴァリスハルト」
●報酬「4万W」
「なにか面白い記事でもございましたか?」
「ん? まあ面白いといえば面白いかな」
朝食を終えて新聞を読んでいる俺にツェンタリアが微笑みかけてくる。俺はテーブルの上に新聞を広げて一つの記事を指差した。
「『2日前の深夜、パラディノスの聖典を盗もうとした忍び込んだ者がいた。しかし警備に見つかって逃亡、現在侵入者の行方を追っている』ですか……確か聖典というものはヴァリスハルト様が今まで見聞きしてきたことを全て記した書物のことですよね?」
「そうだな、まあ早い話がヴァリスハルトの日記帳みたいなもんだ」
「ありがたみが激減しましたね」
俺は新聞を閉じてテーブルの脇に置く。
「だが自分の身に置き換えてみるとヴァリスハルトの怒りも分からないでもないんだよなぁ」
「確かに、私もご主人様以外に日記帳を見られたら地の果てまで追って殺しますね」
物騒なことを言っているツェンタリアに俺は苦笑したあと、イスの後ろにかけてあったバッグから一通の依頼文書を取り出した。
「さて、ここに取り出したるは昨日ヴァリスハルトから速達で届いた依頼文書だ。……どんな依頼だと思う?」
それを見てツェンタリアは事情を察したようだ。
「……なるほど確かに面白い記事に面白そうな依頼ですね」
◆◆◆◆◆◆
俺とツェンタリアはアップルグンドのとある酒場の前に来ていた。看板を見上げたあとツェンタリアが俺にジットリとした目を向けてくる。
「ご主人様って結構性格悪いですよね」
「心外だな。手っ取り早く情報を集められるから来ただけだぜ?」
「だからといって何もゲルトの本部に来なくても……」
「使えるものは使っとく。んで蛇の道は蛇ってもんだ」
そう言って俺は『傭兵協会ゲルト 本部』の看板が掲げられた酒場の中に入っていった。
◆◆◆◆◆◆
「ゲヒャアアアッ!」「怯むな! やっちまえ!」
数分後、俺はゲルトの本部でザコ傭兵どもをタオル1枚で薙ぎ倒していた。結構倒したはずのだが、どこから湧いてくるのか傭兵どもは元気に襲い掛かってくる。
「まったく何でこんなことに。俺は平和的に話し合いをしたかっただけなんだがなぁ」
「それだけ恨みを買っていたということなのでしょうね」
俺の後ろで傍観しているツェンタリアが呆れている。なぜこのような事になっているのかというと、ゲルトに寄せられた任務の中に『傭兵ジーガーを殺せ』という依頼が合ったらしい。しかも報酬は超高額で『アップルグンド国王シュタルゼを殺せ』という依頼の倍の値段が付けられていたようだ。そりゃザコ傭兵でも眼の色変えて襲ってくるよなぁ。
「なるべく無駄な恨みは買わないようにしてたんだがなぁ……」
そう言いながら俺はタオルをムチのように扱って最後に残ったザコ傭兵の足を払う。クルリと回転したザコ傭兵が「グヘェッ」と情けない声を上げながら背中から落ちた。
「よーしこれでおしまいだな?」
俺はそう言ってあたりを見渡す。俺がジーガーだと名乗った途端、目の色を変えて襲ってきた連中は全員床でノビている。あとは非戦闘員の傭兵が何人かが端のテーブルに座っているのみだ。
非戦闘員の傭兵、つまり依頼を各支部に伝える情報屋達である。そして俺がゲルトの本部に来た理由はその中の一人から情報を得るためであった。
「ここ、いいかい?」
俺はツカツカとテーブルまで進んで相手の返答よりも先に腰を下ろす。そんな俺を見て50歳前後の情報屋の男が苦笑した。
「おいおいジーガーよぉ、こっちはまだ返事してねぇだろうが」
「おっと悪いなヴィッツ、こっちも疲れてるんでよ」
この情報屋はそこそこ名の知れた情報屋ヴィッツだ。情報収集能力は若干心もと無いが義理堅く、最高とまでは言わないがそこそこ優秀な情報屋である。
「嘘つけ、ったくなんの用だ? まぁ大体検討は付いてるが……」
「単刀直入に言う『いくら必要だ?』」
それを聞いたヴィッツは少し考えた後、指を2本立てた。
「名前で2万」
「オーケー充分だ」
俺は右手をスナップしてWの入った袋をヴィッツに渡す。その見返りとして聖典を盗もうとした者の名前が書かれた紙を受け取った。
「それじゃあ行くぞツェンタリア」
「え、もうですか?」
他のテーブルに座って一人でミルクを飲んでいたツェンタリアが慌てて立ち上がる。
「会話は最小限にってのがこういう場の鉄則だからな」
「ですがご主人様は要件すら伝えていませんでしたよね?」
「俺が来た意味も分からない上に、嫁さんが書いてる新聞記事を読まないような情報屋だったら使わねぇよ」
◆◆◆◆◆◆
「ご主人様、夜分にどちらへ向かわれるのですか?」
風呂あがりのツェンタリアが出かける準備をしていた俺を見て首を傾げている。
「あ、もしかして今から聖典を盗もうとした犯人を懲らしめに行くのですか!?」
俺は「7割正解だ」と言ってバックを背負う。それを見てツェンタリアは疑問を持ったようだ。「随分と軽装でお出かけになるのですね」と聞いてくる。
「そりゃそうだバックの中に入ってるのは……おっとこれは秘密だった」
「何だか楽しそうですね……ついて行っても」
「だめだ」
俺はツェンタリアの言葉を即座に却下する。そしてついてくることも家で出迎えることも禁止したうえで俺は家を出た。
◆◆◆◆◆◆
「とは言ってもそりゃついて来るよなぁ」
夜道を歩きながら俺はため息をついた。後方に意識を集中している俺にはツェンタリアが抜き足差し足でついて来ていることが手に取るようにわかる。まあ予想出来ていたことだ。だがら約束の時間まで6時間以上あるにもかかわらず家を出たのだ。
それくらいの時間があれば充分にツェンタリアの事を撒いたうえで誰にも見られない森を見つけることができるはずである。
「よし、それじゃあ行くか」
「あ!?」
そう言って俺はいきなりトップスピードにギアを入れ、ツェンタリアと本気の鬼ごっこを開始した。
結果としては大陸を縦断横断していくうちにツェンタリアから逃げ切ることに成功。そして俺は深い森に入っていき……バッグの中から藁人形・五寸釘・木槌を取り出した。
◆◆◆◆◆◆
翌日、新聞にどこそこの村にいたそこそこ優秀な傭兵が心臓発作で死んだとの記事が新聞に載った。その人物の名はヴィッツから貰った名前と同じであった。
依頼を達成したとヴァリスハルトに報告したのだが、中々俺の手柄であることは理解してもらえず。仕方なく向こうの世界に伝わる呪術についてじっくり説明して報酬を得ることが出来た。
■依頼内容「聖典を盗もうとした犯人に報いを」
■結果「代表的な方法で犯人を呪殺した」
■報酬「4万W」
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