第33話 反省すれども後悔はせず
今日のツェンタリアさん
「キーッと言ってるだけにしか聞こえないのですが……やはり世界トップレベルの難易度を誇るガーゴイル語は難しいですね。ご主人様も覚えるのには苦労したとおっしゃっていましたし、とりあえずアイラブユーくらいは言えるようになりたいですね」
「エアフォルク様が危剣フォルコンで空襲部隊ヴィンドを狙った時は心臓が止まるかと思いました。ご主人様が気付いていなければ部隊の全滅の充分にありえたと思います。卓越した個人は戦術に匹敵するとご主人様がおっしゃっていましたが、エアフォルク様のあれはもはや戦略レベルな気がしますね」
第33話 反省すれども後悔はせず
●依頼内容「パーティーをするぞジーガー!」
●依頼主「アップルグンド国王シュタルゼ」
●報酬「うまい食事にうまい酒」
「よくやったぞジーガー!」
酔っ払った魔王シュタルゼがバンバンと背中を叩いてくる。
「やめっ痛いっての!」
魔王シュタルゼと言えば召喚術をはじめとした魔法のイメージがあるが意外と力も強い。ここは魔王城の魔王の間である。空襲部隊ヴィンドと俺の活躍によって大規模なエアルレーザー軍を撃退したことを祝うパーティーが行われているのだ。
ツェンタリアは会場の隅でサキュバス族の女性と話している。先程挨拶されたのだがあれが噂のサキュバスのさっちゃんらしい。ちなみに本名はサーヘルと言っていた。
さっちゃんもツェンタリアに負けず劣らずの美人だ。真っ白な肌に紫色のローツイン、その髪のかかる胸はツェンタリアに比べるとやや小ぶりだがハリがあり美乳といえるだろう。格好は胸元の大きく開いた真っ赤なドレスを着ており、白いドレスのツェンタリアとは好対照だ。
そんな二人の話しているテーブルはパーティー会場の中でも一段と華やかである。そしてそんな二人をアップルグンドの野郎共が遠巻きに見ている。普段の俺なら「ナンパくらいすりゃ良いのに」と思ってしまうところだが、今回に限ってはそれが正解だろう。なにしろ内緒話の内容が酷い。周りの野郎には聞こえていないようだが、集中した俺の耳にはその内容がバッチリ聞こえてくる。
「スクール水着どうだった?」
「バッチリでした。やはりあの名札が強かったのではないかと思います」
「だよねー、あれでツェンタリアちゃんの胸の大きさをドンと強調! 襲われる倍率もドン!」
「あ、いえ襲われるまでは……」
「えぇ!? も、もしかしてジーガーさんって不能なんじゃ」
「いえそれは無いと思いますよこの前お風呂場でウフフ」
ウフフじゃねえよ。常時この調子で8割が痴的な内容である。まあ聞かぬが仏と言う奴だろう。
「ジーガー少しよいか?」
「うお!?」
急に肩をポンと叩かれて俺は飛び上がる。そうだった、そういえばすぐ隣に魔王シュタルゼがいたんだった。「な、なんだ?」と横を向くとシュタルゼが魔王の間から繋がる私室を指差している。
「ま、まさか魔王シュタルゼ、アンタも!?」
「な、なんだ急に殺気などをだして!?」
俺以上に魔王シュタルゼが驚いている。そ、そりゃそうか単体生殖が可能な魔王シュタルゼが猥談なんてしねぇよな。
◆◆◆◆◆◆
シュタルゼの部屋は質実剛健、と言うか質素なものだった。1人用のベッドに本棚、そしてどこかで見たような応接セットがあるのみである。俺はその応接セットを撫でたあと顔を上げる。
「応接セットだけは豪華なんだな」
「我輩だけが使うものではないからな。魔族の王達と話すときはこれを客間に運ぶのだ」
「これを買った相手はやっぱり?」
シュタルゼは「うむ、クオーレからだ」と頷いたあと、まあ座れと俺を促した。
◆◆◆◆◆◆
「いつか我輩はお前に殺されるのだろうな」
俺が座った途端シュタルゼがそんなことを言い始めた。
「なんでまたそんなことを?」
意図を掴みかねている俺が訊ねるとシュタルゼは薄く笑った。
「トーナメントで強い者が勝ち残るように吾輩もお前もトレイランツやリヒテールごときに遅れはとらんということだ」
俺も口の端を片方上げる。何だそういう話か。
「まあそうだろうな、それどころか全世界を敵に回しても負ける気はしねえ」
俺の言葉を聞いて魔王シュタルゼが「フッ」と笑った。
「我輩もお前ぐらいの頃はそう思っていたさ、そしてバンデルテーアの遺産であるズイデンを見つけてその思いは確信に変わった」
「そんなにズイデンとやらは便利なのかい?」
俺は内心で首をかしげながら会話を続ける。俺とシュタルゼは実力を認め合う旧知の仲だ。しかし、部外者の俺に国家の機密であるバンデルテーアの遺産の話をするのはかなり違和感のあることである。
「うむ、なにしろ今までは1の力を10にするだけだったが、改良に成功した今では1の力で20まで引き出せるようになったからな」
「そいつはすげえな」
「うむ、そうなれば我がアップルグンドを止めることが出来る国はなくなる」
「『国』は……な?」
俺とシュタルゼは3秒ほど無言で目を合わせた後、弾けたように笑った。
「グワッハッハッハッハ!」「ハッハッハッハッハ!」
なるほどな、だからトーナメントに例えたのか。確かにズイデンの威力が更に上がったのであればアップルグンドが世界一の力を持つ国家ということになるだろう。そしてその反対側のブロックから上がってくるのは個人で世界最強の力を持っている俺だ。
「だがズイデンが倍にするのは力だけではない」
「へぇ、そうなのか? それは初耳だ」
「ズイデンは欲望も倍にする。その事に我輩が気付いたのは世界を敵にした後だった」
「……世界を敵に回して後悔してるのか?」
少し沈んだように見えたシュタルゼだったが、顔を上げて笑った。
「グワッハッハ、なぁに世界を征服するまでの予定が少し早まっただけの事よ。それに我輩は戦いでの反省はするが生き方を後悔はせん」
「奇遇だな、俺もだ」
それでこそ魔王シュタルゼである。強く、大きい。
「それになジーガー、欲の力は強いぞ?」
最後に俺を見つめてシュタルゼがニヤリと湿度の高い笑みを浮かべた。
◆◆◆◆◆◆
「楽しんだか?」
「もちろんてすよーごしゅしんさまはー?」
「今現在は楽しくねぇよ」
「またまたー、ほーらおっぱいですよー?」
俺は酔っ払いの馬精霊に肩を貸して家に戻ってきた。腕に絡みついているツェンタリアが胸をモニュモニュと押し付けてくるが酒臭い息で台無しだ。
「まったく、飲むのはいいが自分の限界をいい加減覚えろよ……」
俺はツェンタリアを椅子に座らせて戸棚を開ける。
「えへへーすみません」
「こらこら左右に揺れるな椅子が倒れるぞ?」
俺はそう言いながら戸棚から取り出した液体の入った小瓶をツェンタリアにパッパとふりかけていく。
「あれあれなんてすかこれー」
「解魔法薬だ。ああいう場所で遊んだ後にはいつも使ってんだ。ベイルムが知らないうちにかけられたりするからな」
「なるほどーあたまいいてすねー」
「だろ? ついでに言うと頭はいいが俺は性格もいいんだ」
そう言いながら俺はツェンタリアの真っ正面に置かれている戸棚にベイルムをかけておいた。クックックこの醜態を明日ツェンタリアに見せてやろう。
■依頼内容「パーティーをするぞジーガー!」
■結果「ツェンタリア撃沈」
■報酬「うまい食事にうまい酒、そして楽しい話をした」
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