第32話 金を喰らえば崖すら下る
今日のツェンタリアさん
「カーカラックに仕事を奪われる天使兵……結構怖い話ですね。むこうの世界にはくるまという早い乗り物やひこうきという飛ぶ乗り物ができて馬が廃れたとも聞きます。私も今の自分に満足せず早く、高く、そして時くらいは駆けるようになりたいものですね」
「ネットワークにつながっている正規のカーカラックとはこんなにも厄介なものだったのですね。たしかにハイデの塔やグリッペ洞窟にいたカーカラックとは段違いに強くなっていました。何か弱点などはないのでしょうかね」
●依頼内容「領内を侵攻するエアルレーザー軍の撃退」
●依頼主「アップルグンド国王シュタルゼ」
●報酬「12万W」
「シュタルゼって朝食何食べてるんだ?」
「キー」
「へー食べない派なのか」
「キー?」
「え? 俺はしっかり食べる派だなぁ」
「朝食べないと力が出ませんしね」
「っというより俺は腹が減っていると機嫌が悪くなるんだよ」
俺とツェンタリアは夕暮れの森をゆっくり歩いていた。隣でキーキー喋っているのはアップルグンドの誇る空襲部隊ヴィンドの新隊長である。
以前俺がエアルレーザー前線基地で空襲部隊ヴィンドを撃退した際に、乱れかけた隊列を即座に組み立てなおし、数人の部下に先代隊長を連れて帰るように指示を出していた中々に優秀な奴だ。
「キーッ」
「へーアンタの朝食は自家製のほうとうなのか……ほうとう!? う、うどんとかそばとかそうめんとからーめんとかじゃなくて!?」
……中々に面白い人物である。
◆◆◆◆◆◆
「んで、エアルレーザーの騎士団は本当に崖の下で休憩するのか?」
「キー」
隊長が「任せておけ」とばかりに胸を叩く。それを見て俺は苦笑する。
「まあアンタらがそこまで言うんなら大丈夫なんだろうな」
「そうなのですか?」
「元々空襲部隊ヴィンドは斥候部隊だったんだよ」
「キキーッキーッ」
「えぇっと……」
隊長に話しかけられたツェンタリアがちょっと困ったようにこちらを見た。ガーゴイルの言葉が分かるのは俺だけなのでこの2人は言葉が通じていないのである。
「要約するとだな。戦闘の少ない斥候部隊ではアップルグンド軍の中での地位も低くガーゴイル達は何か出来ないかと思案した。そして空中から弓矢を射ると言う結論にたどり着き、武勲をたてて主力部隊に成り上がったのが初代隊長。指揮は悪いが体を鍛える訓練指導者としては優秀だったのが二代目隊長、これは俺が倒したヤツだな。んで今ここにいるのが三代目隊長って事だ」
「よ、要約したのにやたら長いのですが」
「そうか? これでも半分に削ったくらいだぞ?」
「えぇ……」
ガーゴイル達の言語は短い言葉に多くの意味を含ませるように出来ている。そのため世界の中でトップクラスの難易度を誇っているのだ。
ツェンタリアは意味が分からないですねとコメカミに手をやった。その横で三代目隊長が話を続ける。
「キーッ」
「へー二代目隊長は後進の育成に励んでいるのか。確かにそっちの方が向いてるよなぁ」
そんなことを話していると森を抜けた。
◆◆◆◆◆◆
「やっぱり厩が破壊されると機動力が落ちるもんだね」
俺は崖の遥か下にいるエアルレーザー軍を見下ろして呟く。
「そうですね。馬があるならばエアフォルク様もこのような場所に陣は張らなかったでしょう」
「これを見越してんだとしたらシュタルゼもかなりの戦術家だぜ」
「キーッ?」
三代目隊長が「あれはシュタルゼ様がやったのか?」と聞いてきたので俺はすっとぼけて「そうじゃないのか?」と聞き返す。
「魔王シュタルゼ様ではないとすると、やっぱりお馬さんを憂いた正義の忍者ですかね?」
とりあえずツェンタリアは俺の仕業だとは考えていないらしい。そのことに俺は内心ほっとしたあとエアルレーザー軍の様子を観察する。
「それでもさすがのエアフォルクだな、ちゃっかり一番険しく高い崖の下に位置取ってるぜ」
「はい、士気も高く保ってますし警戒も怠ってはいませんね」
例え不利な状況に陥ったとしても、その中での粘り強く最善の選択していく。エアフォルクとはそういう指揮官である。
「本当に有能で優秀だなぁ」
俺はからかい半分にエアフォルクを評した。そして右手をスナップする。
「だからこそ蹂躙しやすいんだがな!」
そう言って俺は崖から飛び降りた。右手にはさびた剣を握りしめている。
◆◆◆◆◆◆
数分後、ほぼ壊滅したエアルレーザーの陣地内で俺はエアフォルクと対峙していた。
「まさか崖から降りてくるとは思わなかっただろぅ?」
「身投げかと思いましたよ……相変わらず先輩は僕の想像を超えるのが趣味のようですね」
まず俺の地面への一撃によって多くの兵士をふっ飛ばした。これで陣地は混乱、その後左右から回り込んできた空襲部隊ヴィンドによって挟撃したのだ。突然の奇襲、更に包囲されたことによる恐怖によって騎士たちは一時的に混乱状態に陥った。
「お前は目線が固定され過ぎなんだよ。下り坂も逆立ちして見れば上り坂よ」
「フフッ僕はそこまで柔軟に物事を考えられませんよ。つまり……先輩は僕の敵です」
逃げ惑っていた騎士をすぐにまとめ上げ、その殿を務めているエアフォルクが危剣フォルコンを大上段に構える。
「それは良いけど少しは手を抜いてくれよ? 明日には肩を並べる仲間になるかも知れねぇんだから」
軽口を叩きながら俺も両手で錆びた剣を握る。エアフォルクは危剣フォルコンによる必殺技で勝負に出るつもりだ。だが、俺にそれは効かないことはこの前の修練場で実証済みである。俺はエアフォルクがどういう手を使ってくるのか頭をフル回転させながら観察する。
「安心してください。先輩は僕の敵ですが、先輩は狙いませんっ!」
「……そういうことかよ!」
そう言ってエアフォルクは俺に背を向けて危剣フォルコンを横に薙ぎ払おうとした。そこにはエアルレーザーの騎士達を狙っている空襲部隊ヴィンドの姿がっ……エアフォルクが行動を移すより少しだけ早く糸を理解した俺はすぐさまトップスピードにギアを入れる!
ガキィッという音が戦場に響く。
「ヒュー危ねえ! あと少し気づくのが遅かったら全員真っ二つにされるところだったぜ!」
間一髪で俺はエアフォルクの危剣フォルコンから出現したオーラを受け止めてヴィンドを守った。
「流石ですね」
「その杓子定規に物事考えるのをやめろって前に言っただろうが」
オーラを収めたエアフォルクがフッと笑いバックステップで距離を取る。
「おや、『常に最適解を目指すべし』と教えてくれたのは先輩だったはずですが?」
「そればっかりだから行動を読まれるんだよ。常に最善の選択ばっかしてれば良いってわけじゃねぇぞ」
戦いの時のエアフォルクは絶え間なく現在の状況や彼我の戦力差を分析して、相手に一番大きなダメージを与えるような思考回路になっている。だから先ほどの空襲部隊ヴィンドを狙った攻撃を俺は防ぐことが出来たのだ。つまり俺に傷一つ負わせることが出来ない以上とりあえず倒せる敵を倒そうという考えに帰結するのがエアフォルクの思考回路なのである。
「……だからお前あの子に『話が面白く無い』とか言われんだぞ?」
「な、ななななにを言っているんですか先輩! 戦場ですよ!?」
予想外な方向からの煽りにエアフォルクが取り乱している。顔が真っ赤だ。そんなエアフォルクに俺はニッヒッヒと笑いながら剣先を向ける。
「いや戦場でそこまで取り乱すお前のほうが悪い」
「クッ! まあ良いでしょう。殿の勤めは果たしました!」
そう言ってエアフォルクは自分の馬を呼び寄せ去っていった。俺はそれを追わない。なぜなら今回の依頼はエアルレーザー軍の撃退であるためだ。
「キーッ」と声のした方を見ると空襲部隊ヴィンドも引き上げ準備に入っているようだ。
「そういえばツェンタリアはどこいったんだ?」
ふと気がついてあたりを見回す。
「ご主人様~!」
ちょうど崖を下り終えた馬形態のツェンタリアが俺の方に走ってきた。
「なんだツェンタリア、随分ゆっくりしてたじゃないか」
空を飛べるペガサス形態になればすぐ降りてこれるし、人間形態でもこの崖くらいからなら落ちても平気だろうに。俺はなぜか馬形態で崖を降りてきたツェンタリアに首を傾げた。
「いえ、以前ご主人様から聞いた、馬で崖を下って相手を倒した人の真似をしてみようかと思いまして」
「あーそういえばそんな話もしたな」
以前ツェンタリアと戦術の話をしている中で、義経の坂落しの話をしたような覚えがある。
「だがありゃここまでの崖じゃなかったぞ?」
「そ、そうなのですか!?」
「たしかに崖のような坂道と説明したが崖そのものだとは言ってねぇよ」
「あ、そういえば」
「それにもしも義経のそばにツェンタリアがいたなら間違いなくペガサス形態にしていただろうよ」
まったくエアフォルクといいツェンタリアといい素直というか柔軟性が無いというかなんというか……
■依頼内容「領内を侵攻するエアルレーザー軍の撃退」
■結果「相手を撃退、さらに味方全滅の危機を救った」
■報酬「12万W」
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