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第31話 積み荷をよこせ! さもなくば死ね!

今日のツェンタリアさん

「ご主人様が女性になったらという仮定でシレッと息子を増やそうとしたトレイランツ様も凄いですが、やはり一番障害になりそうなのはジーンバーンですね。何しろご主人様が男性のままでも怪しい雰囲気が有ります。最近そういうのも増えてるみたいですし……」


「閉鎖的な機動部隊という組織でずっと上の立場にいると、こうも人の話を聞かなくなるものなのですね。ジーンバーンには呆れ果てました。とはいえご主人様も躊躇なくトゲを投げましたね。大変な毒だったらどうするおつもりだったのでしょうか。え?『その時はその時だ』って、雑に考えてますねー」

●依頼内容「パラディノス輸送部隊の荷物を奪ってほしい」

●依頼主「フェイグファイア国王トレイランツ」

●報酬「6万W」


「あ、怪しい奴め、顔を見せろ!」


 三人の天使兵が杖を構えてジリジリとジーンバーンに近付いていく。それを見ながら準備を整えた俺は「それじゃあ行くか」と言って一歩踏み出す。


「グエッ!?」


 俺は一瞬で荷物の前に移動し終えた。途中でジーンバーンのような物体を踏んだが気にしてはいけない。そしてなるべく天使兵達の注意をひくように大声を張り上げた。


「やぁやぁ俺こそは世界一の腕を持つ傭兵の中の傭兵ジーガー! 本来ならばマジシャンよろしく誰一人傷つけること無く荷物を奪う予定だったのだが、助手の馬鹿太郎君の不手際によって予定変更した次第!」


 俺はアホな口上を述べ始めた。倒れているアホを馬鹿太郎などと適当な名前で呼んでいるのは、ジーンバーンの正体から襲撃の依頼主を悟られないようにするためである。フェイグファイアとしては秘密裏にこの荷物を奪う予定だったのだ。


「ジ、ジーガー!?」


「だが心配ご無用、大人しく積み荷を渡せば人の命までは取りはせぬ!」


 こちら側に振り向いた天使兵に対して俺はなおも演説をぶつ。相手に俺の印象を強く刻みつけて、なるべくジーンバーンの印象を薄めようとしているのである。まあ、ぶっちゃけ派手な衣装を着たジーンバーンのインパクトは強く、かなり無理があるのは承知だが、こうなった以上仕方ない。とりあえずトレイランツに「最善は尽くした」と言えるようにしておかなければならない。


『キシャァァァッ』


 箱の上のカーカラックも俺の方に意識を向けたようだ。荷物の警備全員が俺注目した瞬間を見計らってツェンタリアがジーンバーンを茂みに引きずり戻す。


 2人の天使兵がその時のガサガサと言う音に釣られて横を向いた。俺はそれを見逃さずに動いた。


「グワッ!?」「ギャアアアッ!?」


 2人のアゴを的確にデコピンで打ち抜き昏倒させた後、もう1人の背後にトップスピードで回り込む。


「グムッ……!?」


 俺は懐から取り出したハンカチを天使兵に押し当てる。


「グッ…………」


 少しモガモガしたあと体から力が抜けて天使兵は倒れた。


「ジーンバ……馬鹿太郎の奴、どこからこんな毒を仕入れてるんだよ」


 俺はハンカチをまじまじと見つめながら呟く。


 このハンカチは先程までジーンバーンのウニのトゲを包んでいた物である。倒れたジーンバーンの様子から少量でも効果を発揮するたぐいの強めの毒だと判断して使ってみたのだが読みが当たった。ちなみに効果がなかった場合は締め落とす予定だった。


「さーて、戦って死ぬか、それとも逃げて生きるか?」


 俺は残った最後の天使兵を脅す。「死ぬか」と言っているがもちろん殺す気は毛頭無い。そんなの依頼にないしな。怯えて逃げてくれるのが最良なのだがはたして……


「笑わせるな!こちらにはまだカーカラックがいるんだ!」


 残念ながら最後に残った天使兵は逃げる気は無いようだ。どうだと言わんばかりに腕輪を見せつけてくる。


「随分と自信があるんだなっと!?」


『キシャァァァ!』


 それまで荷物の上から状況を見守るだけだったカーカラックがいきなり襲ってきた。最後の天使兵が指示を出しているのだろう、何やら呪文のようなものを唱えている。


「相変わらず情緒が無いねぇ」


 俺はため息をつきながらカーカラックの爪をチョキで挟んで受け止める。


「そんなんじゃ女にもてないぜっと!」


 そしてそのままカーカラックを持ち上げて投げる。


「キシャッ!」


 しかしカーカラックは地面にぶつかる直前で受け身を取った。以前の反応速度なら地面に叩きつけられておしまいだったんだが強くなってやがる。天使兵が高笑いをサンフット街道の空に響かせる。


「ハーッハッハッ、諸国の強者をカーカラックにぶつけた甲斐があったわ!」


「へぇ……」


 俺は感心しながらカーカラックの様子を眺める。確かに以前ベルテンリヒトで戦った時とは違い、動きがより洗練されている。


「でもそんなんしたらアンタ失業するんじゃねえの?」


「ウッ……」


 俺の言葉に天使兵が動揺した。素朴な疑問だったのだが意外と深刻な問題だったらしい。天使兵は不安やらなにやらが混ざった複雑な表情を見せて「そ、それでもパラディノスが勝てばいいのだ」などと自分に言い聞かせている。


「あ、いや何でもないんだ気にしないでくれ」


「う、うむ。さぁいけカーカラック!」


 一瞬微妙な空気が流れたが、天使兵が腕輪を掲げるとカーカラックが再び襲ってきた。


 先ほどから呪文に聞き耳を立てていたのだが、カーカラックを操る呪文は簡素化されているようだ。このあたりの系統の構築はヴァリスハルトの得意とするところである。


『キシャァァァ!』


「少し本気で行くぜぇ」


 迫るカーカラックの腕。それを体を回転しながら巻き込んで俺は腰で相手を浮かせる。カーカラックを背負う形になった俺はそのまま「セリャァッ!」と言う声と共に思い切り投げ飛ばした。


『キシャァァァ!?』


 カーカラックは地面と水平に吹っ飛んだ後、先程ハンカチで眠らせた天使兵に勢いよくぶつかったように見えた。


「あ、やべぇ」


 カーカラックの反応速度をギリギリ上回る速度を出すことに集中しすぎて、投げる先のことを確認していなかった。不慮の事故とはいえ天使兵が死んじまったら色々と面倒だ。


「死んだ……かな?」


 俺はおそるおそるカーカラックと天使兵に近寄って確認する。


「お、カーカラックはともかく天使兵は無事だな?」


 どうやらわずかに軌道がズレていたらしい。天使兵には土埃しかついていなかった。そして倒れたカーカラックはピクリとも動かず機能を停止している。


「バカな!? アレくらいの速度なら充分に反応できたはず!?」


 後ろで最後の天使兵が必死に呪文を唱えているがカーカラックはうんともすんとも言わない。よしよし、ミッションコンプリートだ。


「さぁて、憂いもなくなったところで……」


俺はユラリと最後の天使兵に向き直る。


「地に足着けて勇気ある撤退をするか、地面に転がるか、選んで貰おうか?」


「クッ!?」


 天使兵にしてみたらなかなかに残酷な質問だろう。立場と本能の狭間で揺れる心が手に取るようにわかる。ちなみに発言の趣旨としては脅し3割おふざけ7割である。


「よーしそれじゃあ」


「お前が死ねジーガー!」


「は?」


 俺はいきなり後ろから飛んできた複数のウニのトゲをなんとか避ける。


「なにすんだよジーンバ……馬鹿太郎君!?」


 全弾避け終えた俺は、後ろで息を荒げながら立っている馬鹿太郎君ことジーンバーンを睨みつける。そう言えば毒の有効時間は知らなかったな。あの倒れっぷりからもっと長く効果が持続するもんだと思ってたぜ。


「俺様の獲物を取りやがって!」


「獲物も漬物もあるかよ馬鹿太郎君。だいたい俺がお前の代わりに天使兵とカーカラックを倒してやったんだから一言あるべきだとは思わないのかい?」


「お前を……狩る!」


 あ、ダメだこれ。手鉤を構えてヤル気満々だ。


「やめたまえ馬鹿太郎君、今は仲間割れをしている場合じゃ」


「うるせえ! だいたい俺の名前は」


「チィッ!? この馬鹿野郎が!」


 サンフット街道にゴゥッと風が吹いた。


 そして次の瞬間にはジーンバーンの姿は忽然と消えていた。当然俺の仕業である。以前ウチに来たときと同じようにぶっ飛ばしたのだ。ただし緊急かつ俺のイライラが募っていたため今回は殴りではなく蹴りだ。ジーンバーンは今頃空の彼方で体液を撒き散らしていることだろう。


「まったく馬鹿太郎君は名前の通り度し難い馬鹿だな」


「ご主人様!」


 ツェンタリアがこちらに走ってきた。天使兵は、と見ると俺達とジーンバーンが争っているうちに逃げたようだ。つまり今ここには俺とツェンタリア、そして倒れた三人の天使兵と大きな荷物だけが残っている状態である。


「さて、それじゃあこの荷物、どうするかねぇ」


 本来はジーンバーンが持って帰る予定だったのだが空の彼方だしなぁ。


「開けますか?」


「それもマズいだろ。仕方ねぇ、トレイランツに送ってやるか」


 俺はそう言って荷物を片手で持ち上げる。


「持って運んでいくのですか?」


「いやフェイグファイアの竜王の間に投げるのさ」


「へ?」


 そう言って俺は方角を確認して竜王の間に狙いを定める。ツェンタリアは俺の言葉がまだちょっと理解できていないのか「え? え?」ポカーンとしている。


「安全安心ジーガー便ですよっと!」


 そう言って俺は荷物を投げた。すぐに荷物は見えなくなる。荷物は数秒後に竜王の間のガラスを割って到着するだろう。


 手をパンパンと叩きながら俺はクルリと振り返って呟く。


「判子はいらないぜ?」


◆◆◆◆◆◆


 次に日の新聞にはフェイグファイアの竜王の間に謎の物体が飛来。竜王の間にいた機動部隊隊長ジーンバーン氏直撃したという記事が載っていた。


 ……そういえばジーンバーンも箱も同じ方向に飛ばしていた気がする。ジーンバーンの奴、今回は踏んだり蹴ったり潰されたり大変だったな。最初の2つは自業自得だが潰されたのには同情するぜ。


■依頼内容「パラディノス輸送部隊の荷物を奪ってほしい」

■結果「積み荷は無事に奪って、フェイグファイアまで届けた」

■報酬「6万W」

ブックマークありがとうございます。あいまいみーになりま……はげみになります。

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