第28話 水面に踊るマーセナリー
今日のツェンタリアさん
「ノリでやってみまたのですがおでこからも炎って出せるものなのですね。自分の体の事ながらこの柔軟性にはちょっと驚いています……っということはこんなとこからも?」
「辛い料理……ちょっと興味があったのですが残念です。そうだ、今度フロラインさんに教えてもらいましょう。さっちゃんも呼んで女子会、あ、いえ香辛料の研究会です!」
●依頼内容「秘蔵の品をアップルグンドから守ってくだサーイ」
●依頼主「世界一の大商人クオーレ」
●報酬「10万W」
「ご主人様おはようございます!」
キッチンに降りていくとそこには全身が赤く染まったツェンタリアが!?
「って何だその格好?」
ツェンタリアはどこから調達したのかミニスカサンタ服を着ている。
「友達のさっちゃんから借りました。男性を幸せにする服だと聞いています」
「あーまぁ幸せにはなるだろうが……暑くないのか?」
どちらかと言えばエアルレーザーの気候は温暖だ。いくらミニとはいえモコモコ白いのがついたサンタ服を着るのは大変だろう。現にツェンタリアは汗をかいている。
「はい、暑いです。特に胸元のあたりが」
ツェンタリアはそう言って胸元の生地をのばして手でパタパタと仰ぐ。赤い服の合間から見えるツェンタリアの白い谷間が汗で扇情的な輝きを放つ。うーむ、これは確かに眼福だ。ここまで計算してのサンタ服だとしたら、さっちゃんと言うのは天才的なエロセンスの持ち主なのだろう。
だがまぁ、あまりにもツェンタリアが汗をかいていて辛そうなので、俺は元の服に戻るようにお願いした。俺が幸せになるためにツェンタリアが大変な思いをさせるわけにはいかない。……あとこの流れだと部屋の隅に置いてあるガチなサンタ服を俺が着せられそうで怖いからな。
◆◆◆◆◆◆
「メーア湖は広いですねぇ」
「最初ツェンタリアは海と勘違いしたもんな」
俺達は目の前に広がるメーア湖を見ながらたわいのない話をしていた。後ろには洞窟がぽっかりと口を開けている。この洞窟の奥にクオーレの秘蔵の品が隠されているらしい。それを守るのが今回の依頼というわけだ。
「ここに攻めてくるとなると空襲部隊ヴィンドでしょうか?」
「その可能性もあるし海戦部隊ヴェレイグかも知れねぇな」
海戦部隊ヴェレイグとはアップルグンドの誇る海上の戦闘に特化した部隊である。部隊構成としては大イカの指揮のもと海の生物たちで構成されており、海の上では無類の強さを発揮する。この洞窟は崖の下にあるため船でしかたどり着けない地形になっている。そのため地上部隊ヴェルグが来る可能性は無い。あとは海か空かと言うところなのだが……
◆◆◆◆◆◆
「2人とも半分正解でしたね」
「シュタルゼも少しは手加減して欲しいぜまったく」
水平線に現れたアップルグンド軍を見て俺はため息をつく。そりゃそうだよな。魔王シュタルゼが戦力の逐次投入なんて馬鹿な真似するわけねぇよな。
アップルグンドの軍は空と海から来た。つまり空襲部隊ヴィンドと海戦部隊ヴェレイグの共同作戦である。
「ツェンタリアは洞窟の中で待機しててくれ」
「分かりました。ご主人様はどうします?」
「迎え撃つ」
俺は水を操って水柱を何本も立たせた。これが今回の俺の足場だ。
◆◆◆◆◆◆
「クオーレの秘蔵の品ってのはそんなに大事なもんなのかね」
俺はアップルグンドの誇る2つの部隊相手に大立ち回りを演じながら呟いた。戦いはすでに開始から3時間を経過している。今までで結構な敵を倒しているはずなのだが、一向に数が減らない。
前回、エアルレーザーの前線基地を守る際に空襲部隊ヴィンドと地上部隊ヴェルグの襲撃を受けたことがあるが、今回はどうやらそれ以上の規模の戦力が投入されているようだ。
俺は首を切り飛ばそうと飛んでくるヒトデや、腕を貫こうとしてくる矢を避ける。そして今回の得物を投げて反撃する。木製のブーメランだ。それを魔法で操り1回投げるごとに1体、また1体と敵の数を減らしていく。
時間はかかるが、敵にほどほどの手傷を負わせるにはこれが確実だ。
矢を放ちながらキーキーっとガーゴイル達が会話している。翻訳すると「くっなぜだ!? なぜたった一人の人間を抜くことが出来ないのだ!?」「水柱のある場所を狙え、ジーガーの動きを予想して矢を放つのだ!」と言っている。その言葉どおり一斉に全ての水柱に向かって飛び道具が飛んで来る。
「だが遅い」
俺は今飛んできている武器の数倍の早さを誇るノイの風弓グリュンリヒトを無傷で避けることができるのだ。そんなものに当たる道理がない。
『グゴゴゴゴゴっ!?』
海戦部隊ヴェレイグの隊長である大イカも触手を避けられヤキモキしている。
『グゴっ!』
多分「そこだっ!」という感じなのだろう。俺の手からブーメランを放たれたところを狙って触手が伸びてくる。
「勘弁してくれよ。そういうのはツェンタリアに頼むぜ?」
俺はそう言いながら伸びてきた触手を手刀で切断した。
◆◆◆◆◆◆
「……やっこさんしつこいね」
敵の数は半分ほどに減らしたが、数匹うしろに通しちまった。
「まぁツェンタリアが撃ち漏らすとは思えないが、よろしくないね」
1対1の場合は目の前の敵を倒せば依頼完了なのだが、1対多、しかも防衛任務だとそうはいかない。一人でも撃ち漏らせば被害が出る。二人撃ち漏らせば被害は倍だ。今回は後ろにツェンタリアがいるがその状況に甘えてはならない。一人で防衛任務をこなす事態に陥った時、泣きを見るのは俺自身だ。
「最近ちょっと考え方がぬるくなってんな」
自戒も込めて俺は頬を思いっきりたたく。俺の思い切りである。当然、普通の威力では無い。バァンっという音がメーア湖に響き渡った。
「よっし反省した俺は強いぞ」
そして左手をスナップしてブーメランを収納する。
「多人数を相手にしての不殺の殲滅戦は難しいからちょっと本気を出させてもらうぜ」
右手をスナップして『対多人数用の本気の武器』を取り出す。死剣アーレでは無い。死剣アーレでも多人数も相手にすることは出来るが基本的には1対1用の武器だ。
俺の対多人数用の武器、それは扇である。
『キーキーッ』と数を半分に減らしたガーゴイル達が騒いでいる。「何だあれは?」「扇を取り出して死を覚悟した舞踏でもするつもりか?」などと言っているようだ。水上で曲舞とか清水宗治かよ。
『グゴゴゴゴゴ』と触手の数が半分に減った大イカも笑う。「ついにあきらめて陵辱される気になったか」とでも言いたげた。
「どっちもまっぴらごめんだバカ野郎」
的外れな2つの軍の予想に俺は苦笑する。どこをどう見たら俺が諦めたように見えるのだろうか。
「諦めて許しを請うのはお前らだ」
そう言って俺は扇を1振りする。信じにくい話だろうがアップルグンドの主力部隊2つを追い払うのにはそれで十分だった。
何を持っていない状態でも俺は風を操り竜巻を起こすことが出来る。その操る能力を増幅させるのがこの王扇ブァンだ。
俺が王扇ブァンを1度あおいだだけで竜巻が2つ発生し空襲部隊ヴィンドと海戦部隊ヴェレイグを飲み込んた。『キーッ!?』という悲鳴、『グゴゴゴゴゴ』という嘆きのハーモニーを聞きながら俺は満足そうにそれを眺める。
最終的には舞い上がったガーゴイル達は翼をメタメタにされて水上に落下。大イカの触手は1本を残して竜巻に全て持ってかれていた。
これで勝負ありだ。後は適当に相手をし、やがてアップルグンド軍は撤退していった。
◆◆◆◆◆◆
「ありがとう助かったわ」
全てが終わったあとに到着したジュメルツから報酬を受け取る。
「社長出勤とはしばらく見ないうちにずいぶんと偉くなったなぁ?」
俺の言葉にジュメルツが眉を吊り上げる。
「冗談言わないで、コッチはコッチで仕事をしていたのよ」
「へぇ、どんな?」
「それはね……おっと機密事項だったわ!?」
わざとらしく口を手で隠してオホホッと笑うジュメルツ。しかし目は口ほどに物を言う。「聞きたい?」と顔に書いてある。気にならないと言ったら嘘になるがそれ以上に顔がうざい。
「あっそ、どうせ馬糞の回収とかだろ」
そう言ってさっさと俺はジュメルツに背を向ける。
「ちょ、待ちなさいよ!?」
後ろからジュメルツの声が聞こえたが待たない。そのまま俺とツェンタリアは家路についた。
◆◆◆◆◆◆
「あのー、ご主人様?」
「おぉ、どうしたツェンタリア?」
依頼をこなした後ずっと静かだったツェンタリアが口を開く。疲れているのかとも思ったどうやら何か考え事をしていたようだ。
「えぇっとですね……」
ツェンタリアはしばらく言葉をためらう。「口ごもるなんて珍しいこともあるもんだ」と思いながら次の言葉を待っていると、やがてツェンタリアが口を開いた。
「ご主人様っておっぱい好きなんですか?」
「へ?」
てっきりクオーレの秘蔵の品についての質問でも飛んでくるのかと考えていた俺は面食らう。しかし、ツェンタリアは大まじめらしい。
「フロラインさん、ジュメルツ様のお二方と話している時に胸に目が行った割合を調べたのですが、ジュメルツさん2%に対してフロラインさん80%と明らかな差がでていたのですが?」
「へぇ」
「そして私は顔と胸が半々だったのですがこれは……」
「ツェンタリアの顔も同じくらい好きってことだな」
「へ?」
「さあさあ帰るぞ」
胸の魅力について語りだしそうな気配だったツェンタリアに綺麗にカウンターが決まったところで俺はさっさと歩き始めた。ツェンタリアはまた静かになってついて来ているが、今度は気にならなかった。なんとなくどんな顔してるかわかってるしな。
■依頼内容「秘蔵の品をアップルグンドから守ってくだサーイ」
■結果「空襲部隊ヴィンド・海戦部隊ヴェレイグからの防衛に成功した」
■報酬「10万W」
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