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第27話 山に登る理由とは? 「愛」

今日のツェンタリアさん

「本邦初公開! ご主人様と私の馴れ初め! これは結婚式で語られるエピソードですね! え、草原で居眠り? 何言ってるんですか草原を軽やかに駆ける私をご主人様がそっと抱きしめてくれたんですよ?」


「やっとザンゲリウム雪原に到着することが出来ました。長かったです……と思ったら本当に人為的に吹雪が起こされていたとは驚きました。いえ人為的ではなく精霊的といったほうが正しいのでしょうか? 何にせよご主人様に危害を加えるような不良精霊は成敗しなければなりませんね」

●依頼内容「霊峰ゾンネに登って欲しい」

●依頼主「フェイグファイア国王トレイランツ」

●報酬「10万W」


『うらめしい あぁうらめしい うらめしい』


 その声と共に今回の標的の姿がザンゲリウム雪原に現れた。これがトレイランツが警戒していた氷の精霊である。


「おいわさん!?」


 ツェンタリアの発言に俺は一瞬「なるほど似てるな」と納得してしまう。


「いや、ありゃフリーレン、氷の精霊だ。とにかく嫉妬深い奴でカップルを見ると氷付けにしちまう厄介な奴だ」


 俺達やノイ達を吹雪で邪魔してるのもフリーレンだろう。


「なんて恐ろしい……は、と言うことは私とご主人様はカップルに見えると言うことですね!?」


「ハッハッハ確かにそういう考え方も出来るか」


 ツェンタリアの前向きさは俺も見習うべき所があるなぁ。と感心する。


「しかしフリーレンが霊峰ゾンネにいるなんて話は聞いたことないんだがな……」


「そうなんですか?」


「雪山で凍死した女性の恨みがまとまって精霊になった奴だからな。こういう清浄な場所には寄りつかないはずなんだよ」


「めんどくさい精霊ですね」


『うらめしい ああうらめしい うらめしいぃぃぃっ!』


 フリーレンは五七五のリズムを叫びながら両手を高く上げる。


「氷なら炎で御相手します!」


 ツェンタリアも相手に習って右手を構えた。炎で迎え撃つつもりだろう。俺はそんなツェンタリアを見てフーンと顎に手を当てたあと口を開く。


「……まあやってみ」


「何か含みのある言い方ですね?」


 ツェンタリアが怪訝な顔をして俺を問おうとするが、それよりも早くフリーレンから氷が放たれた。俺は手を出さない。まあいい勉強になるだろう。


 ツェンタリアは「ハァッ!」と言う気合いと共にフリーレンに向けて炎を発射する。お互い精霊同士、力も互角、連射力も同じだ。二人の間で氷が溶け、炎が消える。


『うらうらうらめし!うらめしねぇ!』


「らぶらぶらぶりん!らぶりんこぉ!」


 ……そしてかけ声のレベルも同レベルである。「フリーレンはともかくツェンタリアはふざけてるのか?」とも思ったが表情を見る限り大真面目だ。


 俺はしばらく炎と氷のぶつかり合いを観察する。そしてツェンタリアに声をかける。


「さてツェンタリア、自分が押し始めてることに気づいてるか?」


「はい、もちろんです! ご主人様への愛の力は誰にも負けません!」


 じわじわとツェンタリアの炎がフリーレンに近付いていく。しかし、俺はツェンタリアの答えを聞いてため息をつく。


「愛の力が偉大じゃねぇとは言わねぇが、もうちょい頭使え」


「頭……つまりこうですね!?」


 両手からだけではなくおでこからも炎を出し始めるツェンタリア。


「なるほど、これなら更に連射力アップですね! 流石ご主人様!」


「口から出さないだけマシか……ってそうじゃねぇよ!」


 俺はノリツッコミを入れる。


「へ?」


「いいか、拮抗状態を相手が崩し始めたときはまず策を疑え!」


「策、ですか?」


 キョトンとしているツェンタリア。


「そうだ。自分の力が相手に勝っているなんて過信もいいところだ!」


「な、なるほどつまり……!?」


 俺はトップスピードにギアを入れツェンタリアの背中に迫っていた氷柱を砕く! フリーレンは力を分散してツェンタリアの後ろにゆっくりと鋭利な氷柱を作っていたのだ。


「……つまり俺に防御は任せてさっさとやっちまえってことさ」


 俺は氷柱を砕いたあと振り返り、ツェンタリアの背中を押してやった。


「はいっ!」


 怒られると思っていたツェンタリアは俺の激励に元気に頷いてフリーレンに向き直った。そして雪に刺していた空槍ルフトを抜き、構える。


「破壊力とは威力とスピードの乗算、私の白炎の威力はすぐには上がりませんが、スピードは上げられます!」


 空槍ルフトに白炎が宿る。


「貴方が氷を風に乗せて吹雪とするように、炎も風に乗り舞い広がります。更に……っ!」


 螺旋状の白炎を纏った空槍ルフトを脇に抱えてツェンタリアが走る。前にも言ったがツェンタリアの地上における機動力は俺を除けば世界一だ。


『うひっうらっうひひひひぃぃ!?』


 恐怖の感情を見せたフリーレンが氷を放つ。全力なのだろう。今までとは桁違いの数と大きさだ。


「だが、遅いな。ツェンタリアは風よりも早いんだぜ?」


 氷を空槍ルフトで弾きながら、華麗なフットワークで躱していくツェンタリア。


『ひいいいいいぃぃぃ!』


「全世界の愛のため何よりご主人様のため……成敗します!』


 もはや戦意を失い背中を見せて逃げようとするフリーレンをツェンタリアの白炎を纏った槍が貫く!


「容赦なしだな」


「当然です。人の恋路を邪魔する者は、馬に蹴れられる運命なのです!」


 フリーレンの冷たい体が炎に包まれる。そして次の瞬間には悲鳴すら残さず、氷の精霊フリーレンは溶け去った。


◆◆◆◆◆◆


「あっ、アニキ達、お疲れさまッス!」


「いま戻ったよ!」


 先に城に戻った俺とツェンタリアが竜王の間で待機していると、ノイとフロラインがニコニコしながら入ってきた。フリーレンを倒したことでノイ達を襲っていた吹雪も晴れ、つつがなく二人は結婚の儀式を終えることができたようだ。


「……うム」


 王座からトレイランツが二人の様子を見ている。その眼差しは優しい。


「どうやら成功したようですねっ!」


「おっ、わかっちまうかい? 照れるねぇ!」


 ツェンタリアとフロラインが談笑している。片方が牛だが馬が合うらしい。


「それでどんな儀式なんだ?」


 一応ザンゲリウム雪原から霊峰ゾンネの火口付近でノイとフロラインが何かをしているのはわかったのだが、詳細までは見えなかったので訊ねてみた。


「リング、ダ……」


 午前とは違い今度はノイへの質問にトレイランツが答えた。


「リングってーとエンゲージリングか?」


 俺はトレイランツの手に光る指輪を指差す。するとトレイランツがゆっくりと頷いた。


「フェイグファイアの王族は霊峰ゾンネの祝福を得なければならんのダ」


「ノイ、通訳頼む」


 トレイランツは話が抽象的すぎていかんね。ノイも俺に話を振られる事が分かっていたのかすぐに説明に移った。


「えーっとフェイグファイアの王族は霊峰ゾンネの火口にリングを投げ込む儀式を経なければ結婚はできんないんスよ」


「ロマンチックですねぇ」


 ツェンタリアが目を輝かせる。フロラインも腕を組んでウンウンと頷いている。「そうかぁ?」とか思っちゃっているのはどうやらこの場では俺だけらしい。


「そして、次に霊峰ゾンネが噴火したときに排出されたリングをつけるのさ!」


「へぇー、リング溶けないのか?」


「そこはフェイグファイアに伝わる秘密の技法で作ってあるから多い日も安心ッス!」


「秘密の技法とか言いつつバンデルテーアの遺産だろ?」


 いきなり核心部分に触れた俺の言葉にノイとフロラインが目を丸くしている。トレイランツは……流石に落ち着いたもんだ。


「……気付いておったのカ」


「まあな」


「指輪がバンデルテーアの遺産なのですか?」


「いや、問題になるのはその指輪の素材だ。フェイグファイアにはコアトルって名前のバンデルテーアの遺産があってな」


「万能炉テアトル、ッス。それにしてもアニキは色々知ってるッスね」


「ほんとだよ、あたしですら最近その存在を知ったってのに」


 ノイとフロラインが呆れた顔でこちらを見る。


「まぁ昔にちょっとな」


「それでその万能炉テアトルと言うのはどういう物なのですか?」


「万能炉テアトルの中ではどんな金属でも交じり合うようになるんだ。つまり全ての特性を付与した金属を作ることも可能って事だな」


「な、何やら凄そうですね……あれ、でもそんな物があったらフェイグファイアの武器防具が強くなりすぎるのでは?」


「そこが難しいところでな、万能炉テアトルを万全な状態で使用するためには普通の炉のウン倍の燃料が必要なんだ」


「それに作業する側も大変なんだよ、なにしろ炉に近寄るだけで火傷するからね」


 フロラインが大釜をゆでるようなジェスチャーをする。


「ま、そんなわけで指輪は万能炉テアトルで作られたから溶岩でも平気ってことさ」


「なるほど」


 納得したツェンタリアを見て「さてと」と俺は荷物を確認して扉に向かって歩き出す。


「さて、それじゃあ俺は帰るぜー」


「えっもうッスか?」


「ご飯くらい食べていったらどうだい」


「そうしたいのは山々なんだが次の依頼の準備もあるんでな。ほらツェンタリアも急いだ急いだ」


 急な展開に「え? え?」と戸惑うツェンタリアの背を押して竜王の間から外に出る。そして閉まる扉の隙間からノイに一言。


「結婚おめでとう、仲人の依頼ならお祝い価格で承るぜ?」


◆◆◆◆◆◆


「食事、ご一緒しなくてよかったのですか?」


「あぁ、いいのいいの」


 俺はツェンタリアに向かって手をヒラヒラさせる。ツェンタリアは少し考えこんだあと手をポンと叩く。


「あ、もしかしてエアルレーザー騎士団のように美味しくないのですか?」


「いや、美味しいかそうじゃないかで言ったら美味いぞ。ってかエアルレーザー騎士団みたいな食糧事情の国がそう何個もあってたまるか」


「ならどうして?」


 俺は苦笑しながら答えた。


「……辛いんだよ」


「えっ?」


「トレイランツとノイが激辛好きでな。フェイグファイアの王族に食べさせる料理は全部辛いんだよ」


 ツェンタリアはどうやら思い当たるフシがあるったらしい。


「なるほど、だから霊峰ゾンネの休憩所で率先してマシュマロを焼きはじめたのですね」


 大正解である。あのまま何もしないでいたら「暖を取る」とかいう理由でノイが激辛杏仁豆腐でも作り始めただろう。


■依頼内容「霊峰ゾンネに登って欲しい」

■結果「ノイとフロライン無事踏破」

■報酬「10万W」

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